ジャック・フロスト警部シリーズ みんなのレビュー
- R・D・ウィングフィールド, 芹澤恵, R.D.ウィングフィールド (著), 芹澤恵 (訳)
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フロスト気質 上
2008/09/12 00:17
諸君、「感じるんだよ、直感でわかるんだ」 フロスト警部は。
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
7年ぶりのフロストシリーズの翻訳。多くのファンが待ちこがれていたはずだ。そして、フロスト警部は相変わらずだ。お下劣な発言を連発し、机の上は整理されず、署長の煙草をくすねてみては、デスクワークはあとまわし・・・。休暇の合間に立ち寄ったデントン警察署では、管内で事件が立て続けに発生し、フロスト警部はまたまた怒濤の数日を過ごすことになる。ミステリーというと奇怪な事件が起き、それを名探偵が鮮やかに解いたりするそうだが、本シリーズにはその片鱗もない。華麗な推理とはほど遠く、行き当たりばったりのようなドタバタとした捜査が続く。部下のみならず読者もそれにひきまわされるのも相変わらず。今までの作品とパターンは大して変わらない。それでもいいのである。いや、それがいいのである。
本書がおさめられている「創元推理文庫」の刊行目録には、〈本格〉、〈ハードボイルド〉、・・・といった分類が記されており、読者はこれで好きなジャンルの作品が選べる仕掛けになっているようだ。ちなみにフロストシリーズは〈警察小説〉というラベル付けがなされている。確かに、警察署内の人間模様も本シリーズの楽しみの一つである。上司とのやりとり、同僚との仲間意識、セクションごとの駆け引き、新人刑事とのやりとりとその成長、・・・。従来の「刑事もの」とは一線を画し、警察という組織を上手に舞台装置として仕立て上げたストーリーに、日本国内でもドラマ「踊る大捜査線」や、横山秀夫の一連のD警察署の作品群がある。いずれも「警察もの」なのだが、フロストシリーズはどこかが違う。それをなんと表現したらよいか。我らが愛すべきフロストが主人公なのだからとしかいいようがない。そう、フロストシリーズは、「感じるんだよ、直感でわかるんだ」なのである。
実は、本シリーズで現れる事件もそうそう生やさしいものではない。本作でも、冒頭から少年の誘拐と、別の少年の死体が発見されるなど、忌まわしい出だしである。また、他にも深刻な殺人事件や事故が発生する。そのそれぞれにフロストは嘆き、右往左往もする。しかし、彼はそれを引きずらないし、仕事上からも引きずれない。陽気に部下を叱咤激励して捜査を続けなくてはならないのだから。そのうえ彼は人間だ。実は(時間的には)超人的な働きをしているのだが、煙草も吸えば食事も摂るし、同僚相手にバカ話もする。情にももろいが、自分の欲にも忠実だ。そんな人間臭さを一身に体現したフロストの存在そのものが、事件の深刻さをやわらげているかのようだ。
ところで、「あとがき」で改めて知ったが、原作者ウィングフィールド氏は昨年亡くなられたそうだ。本邦未訳のフロストシリーズもあと2作となった。だから、われわれフロストファンも、人間臭く言おう、
「お帰りなさい、フロスト警部。さようなら、ウィングフィールドさん。」
フロスト日和
2009/12/20 23:34
フロスト警部シリーズ、第二作
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私、フロスト・シリーズ、初読みです。
各方面で面白いって聞いていましたが、マジで、面白かったです。
デントンというイギリスの中規模の街が舞台で、
どこにでも居そうで、どこにも居ないフロストという名物警部が活躍します。
この傲岸不遜にして、成り行き任せのいきあたりばったり、
下ネタ大好き、反省は表面だけという、このダメダメ警部なのに、
なぜか憎めないし、どういうわけか活躍してしまうこの男。
本書のキーは、やっぱりこのフロスト警部のキャラが一番だと思います。
で、けっこうひどいキャラのようで、優しいんですよね。
が、それだけじゃありません。
本書、一応というか、一級の警察小説でもありまして、
最初のトイレでの浮浪者の殺人事件から始まり、休む暇なくというか、
正に事件は五月雨式に起こっていきます。
で、しかも、どの事件も、微妙に繋がっていて、無駄なエピソードが一つもない!!。
これらがえもいわれぬ緊張感で読者を引っ張っていきます。
なんだ、このストーリーテリングは、、と。
一応、捜査のスタイルも中年の警部と左遷された若手のコンビと
警察物の定番の定番ではあるんですが、やっぱり作家の力量でしょうね、、。
組み立て、時折挟まれるユーモアとさりげない優しさ、上手いです。
みんなが褒めるので、どんなもんじゃい?と
二作目からエントリーしたわけですが、
感服いたしました。
ちゃんと追いかけたいと思います。
フロスト気質 上
2008/12/25 19:16
もう新作を読むことはできません。でも未訳がまだ残っている、それが救いです。ともかくこんなに面白い本を読まない手はありません、読まない人は指カンチョー!
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎年、年末近くなると「そろそろ出る頃かな」と私をして東京創元社のHPを覗かせるのが、R・D・ウィングフィールドも『フロスト』シリーズです。炬燵に入って、とは行きませんが、暖房の効いた部屋(我が家では燃料費節約のため、窓辺の日当たりのいいところに座って)で読むフロストの活躍は、まさにサンタが運んでくれるクリスマスプレゼントと言っていいでしょう。
とはいえ、前回、第三作が訳出されてから今回の本がでるまで7年が過ぎたというのですから、待たされたものです。おまけに今回の本の原作は1995年に出ている。評価も定まらない無名の作家の新作を出版するくらいなら、こんなに面白いシリーズを先に出してほしい、本当にそう思います。佐々木小次郎ならずとも「待ちかねたぞ、東京創元社!」といいたくもなります。
とはいえ、文句を言っている暇があったら、読みたい、というのが偽らざる思い。お馴染み村上かつみのイラストが載った、矢島高光デザインのカバーを愛でながら、早速、内容チェック。それにはカバー後の言葉を見るのが一番。二冊まとめて引用してしまいましょう。まずは上巻です。
ハロウィーンの夜、ゴミの山から少年の死体が発見され
たのを手始めに、デントン市内で続発する難事件。連続
幼児刺傷犯が罪を重ね、15歳の少女は誘拐され、謎の腐乱
死体が見つかる・・・・・・。これら事件の陣頭指揮に精を出
すのは、ご存じ天下御免の仕事中毒、ジャック・フロス
ト警部。勝ち気な女性部長刑事を従えて、休暇返上で働
く警部の雄姿をとくと見よ! 大人気シリーズ第4弾。
次が下巻。下
カーヴィ少年の失踪は誘拐事件に変貌した。身代金受け
渡しの場へと急行するフロスト警部だが、その鼻先で事
態は思わぬ展開を見せる。はたして少年の安否は・・・・・・?
母子四人殺害をはじめ、事件は山積みで、警部の疲労と
マレット署長の不機嫌は募るばかり。キャシディ警部代
行との仲も悪化する一方だ。悪態をつきつつ雨中を駆け
ずりまわる警部に、光明は訪れるのか? 解説=荻原浩
上巻はプロローグ以下タイトル無しの十章構成。下巻は十一章から二十章の本文と、荻原浩の「まったく、もう、しょうがないなぁ。」というタイトルの解説。その中で、現時点でのフロストシリーズは2008年に出た A Killing Frost をいれて六冊しかなく、翻訳はあと二冊を残すのみという衝撃的な情報が・・・
いえいえ、そこにはもっと大切なことが書いてありました。なんと、R・D・ウィングフィールドが79歳で亡くなった、というのです。79歳だから、亡くなってもおかしくはない年齢ではありますが、新聞にそんな記事が出ていたかな、なんて思います。それと、私の中のウィングフィールドは、50代後半から60代前半だったので、79歳には驚きました。
ただ、解説の荻原浩もいい加減で、何年に亡くなったかが全く不明。東京創元社も不親切で、本に訳者紹介はあっても、著者紹介がありません。要するに没年が不明です。ま、解説の中にフロストシリーズ第六作として A Killing Frost 2008 とありますから、今年2008年に亡くなったのか、と思いますが、もしかするとその本は以前に書かれた短篇をまとめた遺作かもしれない。
未訳の第五作 Winter Frost の出版が1999年ですから、可能性であれば、7年前に出た第三作の解説に、病気という記述もないので、それ以降なら何時が没年であっても矛盾しません。こんな基本データを曖昧にしておくなんて、荻原も東京創元社も無期懲役もんじゃないでしょうか。それに、1995年に本国で出版されている今回の訳出の遅さ、無期懲役では甘い!死刑。裁判員制度が始る前ですが判決を言い渡したくなります。
内容ですが、読んでいるこっちが疲れてくるようなフロストの疲労ぶりです。しかも天候はイギリスらしく雨が多い。事件の解決の見通しがたたないままに、発見される遺体の数ばかり増えていきます。上部からの圧力には無神経なフロストですが、でも目途の立たない事件に一番頭を悩ませているのもフロストです。思わず「頑張って」って言いたくなります。
ともかく面白いので、未読の方は炬燵を引っ張り出して年末の休みにお読みください。いい年を迎えること請け合いです。最後に、登場人物紹介で終わりにしましょう。
ジャック・フロスト:デントン警察の警部。下品な話が大好きで、知り合いが何気なくお尻を突き出していれば、指浣腸をせずにはいられない。セクハラ発言など気にしたことも泣く、上司のミスを見つければ皮肉を言わずにはいられない。上昇志向とは無縁のおじさん。
リズ・モード:上昇志向の強い女性部長刑事。今回の事件では、自分が警部代行に任命され、昇進することを夢見て、マレットに働きかけるなど積極的。あだ名は、ワンダー・ウーマン、小生意気なちびすけ女とも言われる。実に乱暴な運転をする。この作品では、フロストから嬢ちゃん、と呼ばれる。
ジョー・バートン:刑事。フロストから、坊や、と呼ばれる。坊やと嬢ちゃん、引率するフロスト先生、っていう図式?下巻で意外な姿を見せる坊やではあります。
アーサー・ハンロン:フロストの友人といってもいい部長刑事で、フロストに指浣腸された時の様子がなんともいえません。興味のある方は上巻の155頁をお読みください。
スタンレー・マレット:警視。デントン警察署長。ともかく、出費を抑え、事件の早急な解決を望む、よく世にいる管理職タイプ。破天荒なフロストとは合わず、いつも馬鹿にされている。
アイダ:マレット警視の秘書で、フロストのことを毛嫌いする。理由は・・・
ジム・キャシディ:警部代行。事件の犯人に刺された傷が癒えないのを隠しての職務。4年前まではデントン警察の下っ端刑事。上昇志向が強く、残業は申請せず、手柄は独り占め、家庭を顧みないなど、周囲からは嫌われ、娘の事故死で離婚、レクスフォード署に移動したが、今回はデントン署に応援に。娘の事故死の追及があまかったとフロストを目の敵にする。
サミュエル・ドライズデール:内務省登録の病理学者で検死官の博士。現場にロールス・ロイスで乗りつけるクールなプロ。あだ名は、死神博士。
ボビー・カービィ:行方不明の少年。7歳。
エイダ:夫を16年前に亡くし娘と暮らす徘徊癖のある老女。車に乗せると失禁する癖もある。彼女をフロストがどのように上手に家に送り届けるかは見もの。
クリスマスのフロスト
2006/01/25 19:57
ハチャメチャぶりにもう夢中
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
町中が賑やかにざわついているクリスマス近く、ロンドンから離れた田舎町デントンの警察署では失踪した少女の捜索や銀行強盗未遂などなど事件が次々と起きて、そんな賑やかさには関係なく大忙し。署内きっての切れ者と評判のアレン警部は捜査中に病気で倒れ、その全責任はフロスト警部の上へとまわってくる。このフロスト、下品で毒舌家、警察署長の小言も尻目に、事件へと猛然と立ち向かっていくが・・・。
下品で毒舌な警察官というとジョイス・ポーターのドーヴァー警部が有名ですが、こちらのジャック・フロストもなかなかのもの。だらしなくてヘマばかり、そのヘマをなんとかごまかそうと必死になる、近くにいたら迷惑この上ないはずなのに、なぜか憎めない男。このフロスト警部と部下の若い刑事や出世欲の強い署長ら警察署の同僚らと共に次々起きる事件の調査にあたる警察小説の秀作です。
かなりの厚さなのですが、フロスト警部のハチャメチャぶりにもう夢中、あまり気にならず、というよりはもっともっと長く読んでいたいと思うほど、シリーズ次作を読むのが楽しみです。
夜のフロスト
2002/01/17 09:42
それで,フロストってのは名刑事なのか?
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Snake Hole - この投稿者のレビュー一覧を見る
大英帝国はデントン市の名物警部,ジャック・フロストが下ネタジョーク連発で奮闘する「非・推理小説」(これはオレが勝手に名前をつけた)の第三弾,約750ページである。
本書の解説をお書きになっている霞流一氏の頭の中では,このフロストという警官,「メグレ + ドーヴァー」というイメージなんだそうだが,残念ながら後者ドーヴァーの出て来るジョイス・ポーターのシリーズを一冊も読んでないワタシにはピンとこない。というか,オレの頭の中にあるフロストのイメージは,「ガラの悪いコロンボ」である。昔,コロンボ役者のピーター・フォークが女子プロレスのマネージャーを演る映画があったのだが,あの時の彼の役柄がまんまこのフロスト警部に重なるのね。
だいたいの粗筋は(このシリーズはいつもだいたいこんなだが)こうだ。例によってデントン警察署は人員不足,次々と発生する凶悪事件,それほど凶悪でない事件,犬も喰わない事件。折悪しくそこを流感が襲い,なんと署員の半数が欠勤ということになっているところに,希望に胸を膨らまして部長刑事に昇進したばかりのフランク・ギルモアが赴任する。コンビを組むよう命じられた相手が歩く悪夢,ジャック・フロスト警部そのヒトであった。フロストの上司を屁(まぁほんまに「屁」以下の上司なんだが)とも思わない勤務態度や,連発される下品なジョーク,規則破りに辟易しながら,自分だけは署長の覚え目出たく成績向上,出世を目指すギルモアだがはたして……。
さて,冒頭に「非・推理小説」と書いたがこのシリーズ,実にいつもフロストには犯人が直感で分かるのである(本人がそう言う)。推理なんか要らない,フロストがこいつが犯人だと思ったヤツが犯人なんだ。が,彼が並みの小説に出て来る警官ではないのはそっからだ。この勲章まで貰っている名刑事(ただし下品だが)は,なんと証拠を捏造したり犯人に嘘をついたり,ありとあらゆる卑怯卑劣な手段を用いてこの真犯人を自白に追い込もうとするのである。
なので読者は,フロストの暴走を「おまえ,もしそいつが犯人ぢゃなかったらどーすんだよぉ」とハラハラしながら読むことになる。しかも実際,そいつが犯人ぢゃないことも多々あり(笑),えらいことになるのだが最後にはなんとなくつじつまがあってしまう,のがこのシリーズの魅力なんである。今回の「夜のフロスト」でも5つか6つの事件が錯綜して発生し錯乱の元に捜査されるのだが,このややこしさの全てが,ラストにむかってまるでルービック・キューブの面が揃うように解決して行く快感はすばらしい。そして今回も,フロストが本当はとんでもなく優秀な警察官なのか,それとも単に運がいい中年オヤジなのか,という疑問だけが残るのである(笑)。
クリスマスのフロスト
2012/02/14 18:54
かっこいいだけが、ヒーローではない。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
このR.D.ウィングフィールドのフロスト警部ものというのは、大変評価が高いシリーズです。
1994年の投票などのミステリ海外部門で、第一位を総なめにしたので当時、ハードボイルド小説、
ミステリなど読んでいた私は手にとってはみたのですが読めませんでした。
今回、一気読みに近く読めたのはなんなのだろう、と思います。
ただ、この本は2001年でなんと29版というのにその人気を感じました。
このミステリは、イギリスの架空の田舎町、デントンを舞台にしていますが、なんといっても
タイトルにある「クリスマス」これがキーです。クリスマス前の事件。
デントンは北部の町らしく、ものすごく寒いのです。大雪が降り、地面は凍り、とにかく
「さむいっ」小説です。読んでいて、もう寒さががちがちに伝わります。
クリスマス前の日曜日、教会の日曜学校に行った8歳の女の子が失踪する。
地元警察は、女の子の行方を探しますが・・・捜査の指揮をすることになったのは
「デントン警察の悩みの種」ジャック・フロスト警部。
中年で、うだつがあがらず、よれよれの汚いスーツを着て、口から出るのは下品な言葉ばかり。
勝手な行動で、マレット署長の言うことなど全くきかないマイペースというか、猪突猛進。
部下としてつけられるのは、クライブ・バーナードという丁度、ロンドンから配属になった
若い2年目の刑事。しかし、このクライブというのは警察長閣下の甥っ子。
言うなればサラブレッドというところです。
このクライブという青年が、ロンドンから僻地の北の町に配属されて、なんとかロンドン風に
田舎者を見返そうと、まだまだ、生意気、怖いもの知らずです。
700ポンドもした、ぱりっとしたスーツで捜査に参加するものの、口の悪いフロスト警部には「変なスーツ」と
かなわない。この物語は、日曜日から始まって木曜日までの5日間の物語なのですが、
だんだんクライブ君のカッコイイスーツが、いかに汚れまくっていくか・・・が、ちょっとした
楽しみです。もう、フロスト警部、クライブのことを「坊や」としか言いません。
フロスト警部は口では下品で、傍若無人、しかし、大変優秀なのですが、それを
「汚いけれどかっこいい」とは描かず、「汚くてカッコ悪い」そのままで突っ切るところがすごいのです。
だんだんフロスト警部というのは、妻を癌でなくしたばかりの喪失感を抱えていることや
観察眼が鋭く、長年の経験からの直感が鋭いことや、弱い者にはさりげない気配りをする、
または、同僚が言うように「自慢をしない。名誉なんか全く気にしない。自分をよく見せようという
虚栄心が全くない」ということがわかるのですが、そのとたん、下ネタや与太話をして、
クライブ君をがっかりさせる。
音楽でメロディというのは大事ですが、この小説で次々と起る事件がメロディとしたら、フロスト警部
他の人間模様が、実は音楽にはとても大事なベース音、低音部分を支えているというのがよくわかります。
マレット署長とフロスト警部は正反対な性格ですからお互い、嫌いあって、会えば皮肉や嫌味の
やりとりですが、ある部分ではお互いがその警察の仕事ということにかけては一目置いている、
というのがさらりと描かれます。
事件の真相もありますが、意外なのはそれだけではありません。ジャック・フロストという人は
わかりやすいようで、実はわかりにくい、そこが明かされる部分に新鮮な驚きを覚えました。
もうひとつこの物語がユニークなのは、出てくる食べ物、料理が見事に「不味い」
ぬるいビールをうんざりして飲みながらフロスト警部は言います。
「うちの署の食堂のお茶もこれくらい暖かいとありがたいね」
ウィットに飛んだユーモアというより、寒い北の田舎町のどんくささ、のようなものを作者がとても
あたたかく見ている、というのがよくわかるさりげない描写がとても巧みです。
かっこいいだけが、ヒーローではなくなりつつある時代の幕開けだったのか、と今になって思います。
フロスト気質 上
2009/01/22 14:13
フロスト、健在!
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:moriji - この投稿者のレビュー一覧を見る
おなじみのデントン警察署ジャック・フロスト警部の型破りの活躍を描いた長編推理小説。
しばらくフロストの本が出なかったので、やむなく、ミステリー・チャンネルのテレビ版「お上品な」フロストにもどかしい思いをしながら付き合わされた身としては、まさに久々のフロスト、相変わらずのフロストにめぐり合えて、待ちに待った至福の時間だった。
ここでのフロストは、まさに「フォルスタッフ」的怪物ぶりを遺憾なく発揮している。
重層する数々の事件、一見脈絡もないバラバラの事件が次々に起こる。その一つ一つに猪突猛進し、弾き飛ばされ、落ち込み、またまたファイトを取り戻して、周囲の思惑もあらばこそ、直感と場当たり的な幸運を唯一の頼りにして挑んでいく過程は、ハラハラドキドキの連続。いつのまにかこの、猥雑で、スケベで、不潔で、口の悪い男に、いつのまにかすっかりとりこまれてしまうのは、前作のパターンと同じ。
署長に代表される組織の論理を、あっけなく蹴っ飛ばしてわが道を行くフロストの姿は身だしなみ、減らず口等々にもかかわらず、これがカッコイイのである。
ダメ、ドジ、マヌケ・・・と言わせながら最後にはきっちりと辻褄をあわせて犯人逮捕に至るというしたたかさには、万雷の拍手を送りたい。
夜のフロスト
2004/06/23 21:03
人の心を知り尽くしたフランスのメグレ警視と、下品なジョークが武器のイギリスの迷警部ドーヴァー。水と油の二人がフロストの中で一つに。霞の指摘に感心
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《流行性感冒で署員の半数が欠勤しているデントン警察。新任所への勤務に張り切るギルモア刑事部長を待ち受けるのは、誘拐に自殺、連続する老人への暴行。そしてあのフロスト警部》
私が初めて読んだウィングフィールド作品が、これ。いやあ、一読、友人に教えまくった。ともかく、笑える。そういう意味では、ネヴィル『王者のゲーム』に匹敵するといってもいい。こういうレベルの笑えるミステリ、似て非なるものはあっても、ここまで心地よく噴き出させてくれるものは、日本にはない。
新任のギルモアの上司となるはずのアレン警部は流感で勤務に就けない。替わって臨時の上司となったのがあの迷警部フロスト。デントンの町では最近起きたばかりの新聞配達の少女 ポーラ・パレットの誘拐事件は未解決、おまけに不審な少女の自殺が重なる。しかも、老人たちが連続して殺される。遺体を前にしたフロストの冗談の連発も、あまりの事件の多さに霞み気味。
夫が昇進してデントンに移った事で、夫婦での落ち着いた生活が始められると期待した妻リズの願いも空しく、夫のギルモアはフロストの運転手となり、家に帰ることもままならない。しかも、フロストは相変わらず警察内部の書類作業を放置し、マレット署長の要請を無視して、直感だけで犯人に迫ろうとする。
捜査している仲間の後姿をみれば、忍び寄って「浣腸はお好き?」と指を突き立てるのはお馴染みとして、脅迫に怯えるコンプトン夫人のネグリジェ姿をタネに、部下を苛つかせる際どいジョークの連発には降参。家に帰ろうとすれば、その途中で3つくらいの事件に簡単に巻き込まれる。人々の生活の暗部を告発する匿名の手紙や、隣家の老人の姿が見えないと心配する電話に翻弄されるフロストとギルモア。
あとがきで霞流一が、この小説のように同時進行型の複数の事件を追うスタイルを「モデュラー形式」と紹介しているが知らなかった。それにしても笑える。750ページ、半分はニヤついて読んでしまった。再び霞の卓見「フロスト=メグレ×ドーヴァー」に感心。
シムノン描く、人の心を知り尽くしたメグレ警視。そして、下品なジョークで知らずのうちに事件を解決するイギリスの迷警部ドーヴァー。水と油の二人がフロストの中で一つになる、素晴らしい指摘。霞はこの作品をベストにあげているが、確かに今までの中では一番笑った。お薦めの一冊。
夜のフロスト
2001/07/20 17:24
理想の上司?
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
『クリスマスのフロスト』『フロスト日和』に続くジャック・フロスト警部シリーズの第3弾である。
設定は前2作と寸分違わず同じである。新任の部長刑事ギルモアはフロストの下に付くことになる。デントン警察署は流感でダウンした人間が多く、人出不足。陰惨な事件が立て続けに起こり、昼も夜もない捜査が続く。そんな中でもフロストの下品なジョークは絶好調。マレット署長は相変わらずいけ好かない…。
フロストほど二律背反した性格の人間も珍しい。捜査は行き当たりばったりだが、昼夜を問わず勤勉に働く。下品なジョークを連発するが、思いやりがある。部下をさんざんこき使うが、いつも部下にはタバコを配っている。とにかくフロストの魅力イコール本書の魅力であることは間違いない。
フロストは部下をこき使うが、必ず自分が率先して働いている。そして必ず自分が全責任を負う覚悟で働いている。例えばこんな描写。
ウェルズ巡査部長は即答を避けた。「ジャック、もし妙なことになったら、そのときにはちゃんとあんたが泥を引っかぶってくれるのか?」
「かぶらなかったことがあるか?」とフロストは言った。
また、こんなところにもフロストの人間味が溢れている。
深刻な事件の最中にフロストが下劣なジョークを連発することに対して、下に付く部長刑事のギルモアが怒りを爆発させたときの描写。
フロストは悪びれた様子もなく、軽く肩をすくめて、ギルモアの非難を甘受した。「この仕事をしてると、胸くその悪くなるようなことを、それこそ山のように眼にするんだよ、坊や。(中略)だから、おれは冗談を言う。冗談を言ってりゃ、因果な仕事の因果な部分を引き受けるのが、いくらかは楽になる。けど、気に障ったんなら謝るよ」
フロストのような上司の下で働きたいと思うのは私だけだろうか。
夜のフロスト
2001/07/06 01:19
フロストみたび現る!
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yabuken - この投稿者のレビュー一覧を見る
イギリスの片田舎デントンにおいて風邪が猛威をふるい、デントン警察署も人手が不足している。そんな中、仲むつまじい夫婦に脅迫状が、新聞配達中に行方不明となった女の子が、夜の墓場を荒らす不届きものが、連続老人切り裂き犯が、下品なジョークと不屈の仕事魂を兼ねそろえるデントン警察きっての名物警部ジャック・フロストに襲いかかかる!
いやあフロスト警部シリーズ待望の第三弾!2001年まだ半ばながらにして僕の今年ナンバー1ミステリーに押しちゃいましょう。相変わらずのフロストの下品ぶりは目を見張ります。しかしただ単純に下品なジョークを言っているわけじゃあない。それはギルモア部長刑事から下卑たジョークをとがめられたときにでたフロストの「この仕事をしてると、胸くその悪くなるようなことを、それこそ山のように目にするんだよ〜中略〜だから、俺は冗談を言う。冗談を言ってりゃ因果な仕事の因果な部分を引き受けるのが、いくらか楽になる。ただ気に障ったなら謝るよ」という部分に表れている。今回もストーリーはいくつもの事件が同時進行し、フロストを、時には読者までも惑わすが最期にはちゃんと帳尻があっている。罪を償うべきものが最期には罪を償っているというところが醍醐味。このシリーズは最期の100ページぐらいから一気にストーリーが加速していく。その際に物語前半部分の伏線が憎らしいぐらい活きてくる。ただやっぱりちょっと事件がごちゃごちゃしすぎて現状を把握しにくいかなあって気もしないでもない。ただこのゴチャゴチャ感がフロスト警部シリーズのたまらない魅力なのだろう。
未読の方は前2作「クリスマスのフロスト」「フロスト日和」とともに一読をお勧めします。(ちなみシリーズのなかで一番はやっぱり「クリスマスのフロスト」かな)
フロスト始末 上
2019/07/04 22:16
愛おしささえ覚えるように
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
『フロスト始末』は、フロスト警部シリーズの最終巻。
作者が死んでしまったので、もうこれ以上出ません。
下品で不潔でだらしなくてかっこ悪くて、でも犯罪を憎み被害者を思いやる熱いハートを持つフロスト。
最終巻になった今回の話では、そんなフロストのしみじみした一面が描かれ、愛おしささえ覚えるようになります。
いくつもいくつも事件が重なり、幸運な偶然はなかなか訪れず、泥沼にはまっていく展開はいつもの通り。
さて、下巻ではどうなるか。
フロスト始末 下
2018/05/20 23:10
さすがイギリス
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
フロスト警部シリーズの最終巻。
作者が死んでしまったので、もうこれ以上出ません。
下品で不潔でだらしなくてかっこ悪くて、でも犯罪を憎み被害者を思いやる熱いハートを持つフロスト。
最終巻になった今回の話では、そんなフロストのしみじみした一面が描かれ、愛おしささえ覚えるようになります。
いくつもいくつも事件が重なり、幸運な偶然はなかなか訪れず、泥沼にはまっていく展開はいつもの通り。
とてつもなく面白いのですが、性犯罪や下ネタのセリフが多すぎて、お子様にはおすすめできません。
それにしても、パロディやだじゃれを多用する過剰なまでの言葉遊び的会話は、さすが『ユリシーズ』や『マザーグース』やシェイクスピアを生んだ国の小説だなあという感じです。
フロスト始末 上
2017/12/24 22:49
結構まともに働いてます。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪い上司が二人に増えたせいか、フロストは超過勤務でバリバリ働いてます。部下のダメさがすごくて、警部がまともに見えます。続きも楽しみ。
フロスト始末 下
2017/12/24 22:48
ホックニーなめんな
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投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者が「ハックニー出身だからこそこの作品」などとのたまっておりましたが、ホックニーでゲイに絡まれたり、プッシャーに押し売りされたりした人間としては、そんなに甘くないと言いたい。遺作としては良いところで終わってくれてベストだと思います。スキナーがあんな風に頑張るとは思わなかった。もっと嫌なやつでいて欲しかった。楽しかった本シリーズもラストで少し悲しい。
フロスト始末 下
2017/08/18 17:14
読み終わっちゃった
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
解説によると自身は癌と闘病中、執筆中に50年連れ添った妻を亡くしての作品。出版前にご本人も亡くなった。のでおそらく作者がシリーズ完結として書かれた作品だと思う。 そのためか色々な点で『リミッターが外れている』印象を受けた。まずは犯人の陰惨さ。手がかりがかなりうまいミスリードとなっているのだが、それだけにある事件の真犯人の残虐さと胸糞の悪さには驚き。