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3件
ねむり姫
著者 渋沢竜彦 (著)
なんの前ぶれもなく、永いねむりについてしまった美しい姫と、腹違いのひとりの童子――中世の京の都を舞台に繰り広げられる男と女の不可思議な生涯を物語る表題作のほか、実母の生んだ牝狐を愛して命を奪われてしまう男の物語「狐媚記」、夢が男女の出会いを予告する「ぼろんじ」など、あやかしの物語六篇。
ねむり姫
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ねむり姫
2009/04/10 23:49
六つの美しい珠を収めた宝石箱
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
平安時代から江戸時代にかけての妖異譚が六つ。「ねむり姫」「狐媚記」「ぼろんじ」「夢ちがえ」「画美人」「きらら姫」。澁澤龍彦の小説のなかでも殊に魅力的な『高丘親王航海記』(1987)や短篇集『うつろ舟』(1986)に先立つ1982年~1983年(昭和58年)にかけて書かれた、これも本当に魅力的な短篇集。
「ねむり姫」の、ひたひたと満ちてくる“水”。
「狐媚記」の、夜光る“狐玉”。
「ぼろんじ」の、小さな“節穴”が遠眼鏡になり変わる不思議。
「夢ちがえ」の、他人の“夢”を吸いこんでしまう頭の中の匣(ハコ)。
「画美人」の、画中の唐様美人の馥郁たる“芳香”。
「きらら姫」の、北斗の七つ星を舟に見立てた“星舟”が、夜空を翔る件り。
いずれも、妖しいエロスが匂い立つ話の中に、宝石のような美しいイメージが煌めいていて、素晴らしかった。
わけても気に入った作品は、一点で結ばれるふたつの線に妙味を感じた「ぼろんじ」(“虚無僧”の意)と、江戸時代のタイム・トラベルを綴った「きらら姫」。どちらの短篇も、途中から意外な方向に話が逸れて行く・・・、その逸れて行き方が素敵だったのが印象に残りました。
ねむり姫
2002/07/26 04:10
小説がもっと読みたかったのに
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
あやしの恋、一般的でないものへの執着というすべての澁澤作品に共通のテーマによって書かれた短編集。
中でも表題作の「ねむり姫」は、とびぬけて幻想的で夢のように美しい。
幼いころから影の薄いおとなしい子どもだった珠名姫は、14歳で深い眠りにおちったまま目覚めなくなった。厄払いのためそのまま輿にのせられて、寺々を巡礼させられてゆく。
ほとんど自我というものを持たぬ姫。その蒼味をおびた透き通るような肌、はかなげな姿はねむったまま棺に入れられ方々を巡回ささられるのにふさわしい。
宇治川に棺ごと流され漂っていく光景や、手首をなにものかに食いちぎられて血まみれにしたままそれでも眠り続ける姿は、とてもエロチックで詩心をかきたてられる。
澁澤龍彦の世界の真髄はその小説にある。
エッセイや翻訳はあくまで露払いで、そこでまいた種が小説世界で見事に結実したのが澁澤文学ではないだろうか。
それだけにその早すぎる死は非常に残念だ。
残した小説の数は、あまりに少ない。
どこからか未発表の短編小説でも出てくることを夢見て、それまで今日も既刊の作品を読み返す。
ねむり姫
2020/06/04 12:08
澁澤龍彦氏が読者を不可思議の世界へ誘ってくれる作品集です!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、サドやフランス幻想小説の翻訳家として知られる渋澤龍彦氏が、我が国の古典や江戸随筆に想をとり、自由に紡ぎ出した短篇6作品を収録した作品集です。同書は、まさに「姫と童子の物語」で、6編すべての物語に両性の恐るべき子供たちが登場して活躍します。表題作の「ねむり姫」は、その名も珠名姫という女主人公が透明な球形のねむりのなかに閉じ込められてしまう物語であり、「狐媚記」は、狐玉をめぐる因果話、「画美人」は卵から生まれたように臍のない美人の話となっており、読者を不可思議な世界へ誘ってくれます。ぜひ、一度、読んでみてください。