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2件
ロード・ジム
著者 ジョゼフ・コンラッド , 柴田元幸
東洋の港で船長番として働く男を暗い過去が追う。流れ着いたスマトラで指導者として崇められるジムは何を見るのか。『闇の奥』のコンラッドが人間の尊厳を描いた海洋冒険小説の最高傑作。
ロード・ジム
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ロード・ジム
2022/01/22 19:58
勇気と誇りのゆくえ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
スマトラ島のかつては賑わった胡椒の交易所に赴任して、現地の部族に王と呼ばれる男がいる。というと「闇の奥」と似たような設定に思えるが、この青年ジムはずっと若く、精神も肉体も病んではおらず、将来も期待されていたのだ。
彼はアジア方面の航路の船員として働いていたが、不運な事故に関わって行き場を失った。だが彼を支援する人物がいて、再起の場所を提供したのだ。その期待に応えて、部族間、部族内の対立と収拾して見せて、能力を証明し、その土地での地位を確かなものにした。その彼が破滅への道を向かってしまうのはなぜだったのか。
とはいえ、こういう成功失敗は運の良し悪しがかなり作用する。問題が解決できるレベルなら成功するし、誰がやっても手におえない問題に当たることもある。そういう時に逃げ出せるもの才能の一つだが、どうやっても逃げられない事情だってある。
そこでイギリス流の誇り高い生き方が役に立つこともあれば、足枷になることもあり、植民地社会の現実との噛み合わせがこの作品を通して語られていることに思える。
ジムがこの土地から逃げ出せない理由には、彼にとっては二度目の敗北になるからだ。だがこの世界に生きている男たちは、みな何度も敗北を繰り返して、そのたびに再起したり、身を落としたままだったりして、生きながらえてきた連中ばかりだ。彼らは大英帝国の流儀はとうに捨て去って、現地に適応したのだ。しばしば悪役や堕落した者のように描かれるが、むろん生き延びた者が勝者だ。
ジムに降りかかる運命は不条理と言っていいものだが、その不条理は大英帝国の植民地支配の構造が生み出したものでもある。それをあしざまに非難しているのではないし、登場人物たちもそうは考えていないが、現代の我々が読むとそういうことにしか見えない。作者が問いかけている謎は、現在では正体がわかってしまっているわけだが、それを解き明かす100年間の先頭ランナーということかもしれない。
作品にはドイツ人やフランス人など、この地域で生きる様々な人種も登場するが、おそらくそれぞれの流儀、それぞれの立ち位置で立ち回っているらしいことが、言葉の端々から感じられる。コンラッドが船員時代の経験は、メインのストーリーやエピソードにも生かされているのだろうが、ちょっとした言葉遣いや雰囲気にも、こういうのありそう感を出してるような気もする。
その独特の感性は、大英帝国の境界線に生きる人々の苦悩を描きながら、同時にその世界そのもの崩壊の予兆を捉えていたのではないかとも思える。
ロード・ジム
2024/04/27 14:43
ぜひ挑んでほしい
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンラッドというと難解でとっつきにくいというイメージが強いかもしれない。その通りではなるが、同時に一部の好事家のものだけにしておくのはもったいない。さすがは柴田元幸訳ということで既存の訳よりは読み易くなっているので、ぜひ挑んでほしい。