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8件
春情蛸の足
著者 田辺聖子
「熱、つつ、つ」。偶然たどりついた店で出会った、いとしのお好み焼き。初恋の相手に連れて行かれた理想のおでん。彼女の食べる姿に惚れたきつねうどんにたこやき。妻が味を再現できないすきやき。そして離婚相手と一緒に味わうてっちり……。読むと幸せになれる、食と恋の短編集。笑って恋して腹がすく。
春情蛸の足
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春情蛸の足
2009/10/11 21:45
お腹が空いて困った!!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
目次を眺めただけで、じんわりと食欲がわいてくる。
読めばなおさら、だ。美味しいものを囲む男女の場面が実に見事で、その味わいはもちろん、漂う湯気まで伝わってきた。
ああ、私もそのテーブルにつきたい!
8つの物語は全て「食べ物」と「情」が絡んでいる。
薄情、多情、無情、同情…。
人と人が出会うとき、食事を無しに語ることは稀だろう。
同じ食卓で美味しいものを味わう。
共有する時間は、2人の中を深めるか否か?
そんな駆け引きも読んでいて楽しい。
食べるという日常不可欠の、ありふれた行為が、こんな世界を生み出すこともあるのだ。
食べられるって、幸せなことなんだなあ…。
春情蛸の足
2018/05/23 15:50
あの時代の気分を思い出しながら読むと、さらにいい
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和が終わる少し前(1987年)に編まれた、食べ物と恋をテーマにした短編集の表題作となったのが、この作品。
あるいは「24時間戦えますか」という栄養剤のCMが流れたのが1988年だから、そんな時代の気分が、この作品の主人公杉野にはある。
かといって、あのCMのようにバリバリの企業戦士でもなく、39歳、4歳と2歳半の男の子を持ついたってどこにでもいる男だ。
ただこの小説の場合、この時代の雰囲気がとっても生きている。
さて、この杉野であるが、奥さんとは最近とんとご無沙汰なのである。
田辺サンはそのあたりのことを「淡泊」と書いたり、「寝てるほうがエエ…」なんていう奥さんの台詞で表現しているが、この作品全体がこういう際どい表現で書かれていながら、ちっとも不快も欲情もわかない。
田辺サン、さすが。
その杉野がある日ばったり幼馴染のえみ子と出会う。
久しぶりに会った二人が向かったのがこじんまりしたおでん屋。
「大根が薄いべっこう色に煮えて行儀よく重なっている。じゃが芋は、だしに煮含められて琥珀色である」と、おでんを表現する田辺サンの名人芸にしばし舌なめずりしよう。
きっとこの短編は、このおでんを味わうだけで、半分以上満足できる。
何十年ぶりかで再会した杉野とえみ子だが、やけぼっくりに火がつきかけて、杉野はするりと身をかわす。
なぜか。
杉野はおでん鍋の具材を眺めつつ、じっくり味わいたい男だったのだ。
きっと彼は「24時間戦う」気など毛頭ない。
春情蛸の足
2016/02/29 11:36
食べ物、酒、恋愛、いずれも自分好み。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雲絶間姫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
関西育ちのため、言葉、食べ物が非常にフィットしていて好きな作家さんです。あとは主人公の女性の多くが自立していて(懐かしいフレーズですがハイミスのキャリアウーマン)自分と重なる所も多いので読みやすい。田辺聖子さんの描く食べ物は、いずれ劣らぬおいしそうな関西の食べ物。関西と言えば今では粉もん、串カツのイメージですが、そうではない、関西の人が普段食べている物やちょっと「ええもん」まで生き生きと描かれています。