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人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
著者 中川毅
福井県・水月湖に堆積する「年縞」。何万年も前の出来事を年輪のように1年刻みで記録した地層で、現在、年代測定の世界標準となっている。その年縞が明らかにしたのが、現代の温暖化を遥かにしのぐ「激変する気候」だった。人類は誕生から20万年、そのほとんどを現代とはまるで似ていない、気候激変の時代を生き延びてきたのだった。過去の詳細な記録から気候変動のメカニズムに迫り、人類史のスケールで現代を見つめ直します。
人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
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人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
2018/09/17 21:55
古気候学にとどまらないいろいろな面白さのつまった傑作
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nakyama - この投稿者のレビュー一覧を見る
ほんといろいろな意味で面白い本だったが、やはり何といっても湖のそこに溜まる泥の縞々が1年に1枚できるのを一枚一枚、数えも数えたり7万年分。縞々をさかのぼるにつれてはっきりしないところも増えてくるのだが、統計処理も加えて7万年でも誤差百数十年という執念の成果がすごい。次にこれを利用して一緒に埋もれている葉っぱの14C存在比を調べること800枚、過去の骨や化石の年代測定の精度を格段にあげる成果をだしている。そしてまた泥の中の花粉の種類を数えること1400サンプル、これで湖畔の樹木の種類分布を推定し、日本各地の花粉分布との比較から降水量、平均気温を逆算していくこと15万年分、これはまだ精度も範囲も広がっていくらしい。何とも地味な作業の果てに過去の気候の変動がまるでタイムマシーンで見てきたかのように再現される大スペクタクルに至るという、なんだかとんでもない偉業である。
しかしそれだけでなく、カオスの研究者の金子邦彦教授が示した大域結合写像を少し変形した系の挙動が気候の変動と似ているという話も面白く、さっそくプログラムを作って眺めてみた。本書にでてきる式のaを1.5くらいに、εを0.3くらいにしてやると全体の値が一定になってきたかなと見ているうちにまたチカチカと変動し始め、そのうちまた落ち着いたり激しく乱れたりを繰り返す。二つの値をどう与えるかで系の動きがどう変わるかをまとめた文章がネットで読めるが、地球の気候変動となんだか似ているのではないかというのは本書のオリジナルの見解のようだ。そして過去の研究データから、氷河期が終わるときは、まるで梅雨が開けたかのようにその年から、地球が暖かく、安定した気候になるらしいという結果をなるほどそうなのかもと思わせてくれる。ちょっと怖くなるような話だ。
地球温暖化についてはいろいろなことを言う人がいるが、人類として気になるのはたかだか数百年、ところが数万年単位でみると、我々が今の社会を維持できるかなんてちょっと絶望的になりそうな変動が茶飯事なのだという視点が得られるのも貴重である。とにかくいろいろな意味で勉強になるのである。
実は水月湖が自宅から1-2時間でいける場所で、あまりに感心したので見に行ってきた。あいにく雨と霧で湖の景観はさっぱりだったが、ちょうど近くの博物館で、年縞の標本の展示がはじまったところで、本物を見ることが出来た。ボーリングしたサンプルを樹脂でかためてガラスにはさんだものが、45mどどーんと横にならべられて、年代などの表示をつけて展示されている。これをイギリスの院生君が3万341年、3万342年、3万343年、ふぅ...なんていいながらかどうか知らないが数えたのかと思うとあきれるやら尊敬するやらなんともすごかったのである。
人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
2020/01/27 09:55
気候変動のメカニズムを明らかにして、人類と気候の関係を捉え直した画期的な書です。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、難しい専門知識が楽しく学べると人気の「ブルーバックス」シリーズの一冊で、同巻は「人類と気候の歴史」について書かれた非常に興味深い書です。同書によれば、福井県にある三方五湖の一つである水月湖に堆積する「年縞」から、人類はこれまでに、現代の温暖化を遥かにしのぐ「激変する気候」を生き抜いてきたことが明らかになったと述べられています。果たして、どのような「激変する気候」を経験してきたのでしょうか。過去の精密な記録から気候変動のメカニズムを明らかにして、人類史のスケールで現代の気候をとらえ直した画期的な一冊です!
人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか
2022/07/01 09:07
中身も構成も良い
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
データに基づかない、あるいは恣意的にピックアップされたデータに基づいた地球温暖化の議論にずっと疑問をいだいていたが、本書によって疑問の一端が解けた気がした。導入部の議論から、二重振り子やカラーボールに例を取った気候変動の話、メインテーマの水月湖の年縞の話、植生の話と 本としての組み立て構成も見事である。(中身は面白いのに構成で失敗しているブルーバックスもあるが)猛暑の夏を迎えた今、この本を読むと実感として気候変動を感ずる。