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2件
密やかな結晶 新装版
著者 小川 洋子
その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
密やかな結晶 新装版
05/08まで通常902円
税込 451 円 4ptワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
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2021/09/04 03:19
世界観の構築が上手い
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なのはな - この投稿者のレビュー一覧を見る
次々と物が消滅し、秘密警察によって記憶狩りが行われ、人々の間からその物の記憶すら失われてゆくという架空の島が舞台の美しくもはかない小説です。主人公の女流作家が体験する数奇な運命。R氏との甘美な時間も、自身の消滅へのカウントダウンの前ではどうしようもなく
、主人公の悲しみの心情が伝わってきました。大切なものが消えてゆく、ということがどういうことか、そのときどんなドラマが起こり得るか、そのようなことを追究して書かれているのだろうなあと思いました。伊坂幸太郎さんや森見登美彦さんなどの小説にも通ずるものがありますが、女流作家ならではのきめの細かい描写が印象的でした。
密やかな結晶 新装版
2024/06/03 10:36
作者自身も執筆した当時、アンネ・フランクの生きた時代が念頭にあったと語っている
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本が日本での刊行されたのが1994年、それから15年後の2019年に英語版が出されて、全米図書賞翻訳部門と、ブッカー国際賞の最終候補になった(受賞はならなかった)、こうして世界的な評価がされるようになったのはナチスドイツによって家も靴も髪も奪われ、そして最後には命さえ奪われたユダヤ人の境遇と切手、帽子、カレンダー、小説、そして体さえ奪われた島の人たちの境遇が重なり合わされて見えたからかもしれない。作者自身も執筆した当時、アンネ・フランクの生きた時代が念頭にあったと語っている、確かに小説の中では主人公が編集者を隠家に匿い、秘密警察が跋扈する世界が描かれている、一読するだけだと奇想天外な内容にも思えるのだが、よく考えたら私たちも知らない間にいろいろなものを失くしてしまっているような気がする