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6件
新装版 歳月
著者 司馬遼太郎
肥前佐賀藩の小吏の家に生まれた江藤新平。子供の頃から一種の狂気を持った人物だった。慶応3年、大政奉還を知るや「乱世こそ自分の待ちのぞんでいたときである」と、藩の国政への参画と自分の栄達をかけて、藩の外交を担い、京へのぼった。そして、卓抜な論理と事務能力で頭角を現していった。が……。
新装版 歳月(下)
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歳月 新装版 上
2007/07/11 22:25
歳月人を待たず
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶにゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある夜、ケータイをいじっていた高二の娘が僕の読んでいる本の表紙を横目で見て、「歳月人を待たず…」とつぶやいた。思わずその顔を見やったが、だるそうにケータイをいじり続けている。さて漢詩の一節であることはわかるが誰の作だったか、娘に聞くと、知らないという返答。あとで調べたら陶淵明の作とわかった。そのうんちくを娘に語った。「きっと君は学校で、この詩の内容を、若いときは二度と戻らないのだから、今のうちに寸暇を惜しんで勉強しなさいということだと習っただろう。だけど違うのだよ。本当は、若い時代は二度と来ないのだから、今のうちに大いに楽しみなさい、歳月は君を待たない、という意味なのだ」との説明に、我が意を得たりと彼女は破顔一笑した。まずいことを言ったろうか。
この「歳月」の主人公は初代司法卿江藤新平である。江藤新平の佐賀藩脱藩から、反乱の首謀者として晒し首になるまでを描いたもので、陶淵明は関係ないかも知れない。もともと日本の司法制度の黎明期を知りたくてこの本を手に取ったのだが、明治初期の司法の成り立ちに関する詳しい記述はほとんどなく、当初の目的はあまり果たされなかった。そのかわり、「日本史上稀代の雄弁家」江藤新平という人間の、宿命的ともいえる生き方をまざまざと見せつけられて、じつに興味深かった。僕は司馬遼太郎の愛読者とはいえないかも知れないが、これは文学なのだなと率直に思った。歴史の教科書ではないのだ。豊富な歴史的資料を渉猟して、しかもかなりの知識を記述から捨てているのを感じた。きっと僕は、この捨てられた部分を求めていたのだろう。危うく大事なものをつかみ損なうところだった。
江藤新平の晒し首の写真が残されている。司法卿として仇討ち禁止令を作ったり、残虐な刑罰を廃止したりした当の本人が、すでに廃止されたはずの惨酷な刑で人生を終える。江藤のまるい生首は、さびしげであり、かなしげであり、何かを問いたげである。この4年後、江藤討伐を限りない憎しみを込めて推進した大久保利通は、不平氏族に恨まれ憎まれ暗殺される。江藤も大久保もたしかに明治を作った。しかし、歳月は決して人を待つことはなく過ぎ去っていくようである。
歳月 新装版 下
2024/04/15 20:14
読み応えあり。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
複雑なニンゲン関係を重層的に描いていておもしろかった。単純でない維新政府の内実を考えさせてくれる良書。
歳月 新装版 上
2024/04/10 22:37
最高のエンタメ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
実際の歴史を読みやすく脚色した司馬さんの本は、とにかくとっつきやすいのが魅力。さくさく読めて、実際の歴史がどんなだったか専門書を読みたくなります。