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36件
Vシリーズ
著者 森博嗣 (著)
一年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、6月6日、44歳になる小田原静子に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、衆人環視の密室で静子は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第1作、待望の電子書籍化。
赤緑黒白 Red Green Black and White
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朽ちる散る落ちる
2006/04/13 22:22
関西弁が混じると正直、面白い話まで冴えなくみえることがあります。でも、このお話ばかりは別。関西弁がうまーく、活きてます
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「解決したかに思えた六人の超音波科学者事件。現場となった研究所の地下室に新たな密室が。そして宇宙から帰還した有人衛星では乗員全員が殺害されていた」本格推理小説。
お馴染みの瀬在丸紅子シリーズというか小鳥遊練無シリーズというか、森博嗣最高のキャラクターが活躍します。
以前出た『六人の超音波科学者』は、瀬在丸紅子の推理によって見事に解決されました。その舞台となった土井超音波研究所の地下に、閉ざされた部屋が残されていたというのです。さらに、その下にはマンホールでしか出入り出来ない空間が。そこには不思議な死体がありました。地下室を再調査していた祖父江七夏と、現場に招かれた以前の事件の関係者、紅子、小鳥遊練無、大学の仲間 香具山紫子、探偵の保呂草潤平の面々。
瀬在丸紅子は彼女の屋敷を買い取った数学者の小田原長治から、国立大学の周防教授に会って話を聞く事を依頼されます。彼が語ったのは、地球に帰還した海外の有人宇宙船を巡る謎でした。海上に着水した4人乗りの宇宙船。回収に向かった人々が見つけたのは、矢で射られた3人と首を絞められた1人の計4人、乗組員全員の遺体だったというのです。
片や地中、片や宇宙空間の密室。なぜ、関係者全員が嘗ての事件の現場に招かれたのでしょうか。前回、事件で被害者となった小鳥遊練無は、今回はゴム風船にご機嫌になりながら、香具山紫子の豪腕から繰り出されるソフトボールの直球に顔をしかめ、あるいは教授に疑いを掛けられながら、華麗に拳法の技を披露します。関西弁の会話が、いつに無く楽しいお話です。
保呂草への依頼は、何でしょうか。男装の麗人でジャーナリストの各務亜樹良の狙いは。前回の事件で土井研究所へ、紅子を派遣した資産家でもある数学者 小田原の真意は。林を巡る元妻 紅子と、現在の恋人七夏との鞘当も、紫子の潤平に寄せる思いも絡んで、事件は展開していくます。今回は、再び瀬在丸の意地の悪さが強く感じられるのですが、それを練無と紫子との会話、同級生の森川とのデートなどで中和した印象。
毎度書いて恐縮ですが、この森博嗣作品の出版ペースの速さは、何でしょう。おまけに、作品が思いつきで書かれたような気配が少しも無く、章の冒頭に付いた引用も、読んでいるだけで何か奥深いものが感じられます。今までの様々な文章から推理して、この人は建築学科の助教授だと思われますが、作者にそういったレッテルを貼ることが無意味に思える見事な作品です。トリックをではなく、話全体を楽しみたいもの。恐るべし、森博嗣。素朴な疑問で恐縮ですが、これを何故Vシリーズと言うのでしょう。ファンの方、教えてください。
六人の超音波科学者
2006/02/09 21:00
どうしちゃったんだろうなあ、小鳥遊練無。元気かなあ、他の人物なんてどうでもいいから、練無の小説を読みたい、と思わせる孤島化した研究所の事件
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《超音波科学研究所の新聞発表パーティーに招待された瀬在丸紅子と小鳥遊練無。研究所へ通じる橋が爆破され、孤島化した会場では連続殺人事件が》
超音波科学研究所の新聞発表パーティーに招待された瀬在丸紅子と小鳥遊練無。二人を車で送ってきた香具山紫子と保呂草潤平は、用事を終え一足先に帰ろうとするのですが、自動車のバッテリーが上がってしまい、二人は駐車場で助けてくれる人を待つ羽目に陥ります。また、祖父江七夏は、恋敵の紅子が居るとも知らず、爆破予告があった研究所の橋に向かうのです。彼女が橋を渡り終わったとき、爆発が起き橋は崩れ落ち、研究所は孤立します。そう、これで古典的な孤島が完成します。
一方、研究所ではドレスに身を包んだ紅子と練無が、六人の科学者 土井、レンドル、宮下、ファラディ、園田、雷田と事件も知らず、のんびりと談笑をしています。土井博士への取材に来ていたTV局のレポーターの手伝いに狩り出されていた紫子と潤平が、やっと仕事を終えて帰ろうとしたそのとき、研究所の部屋から悲鳴が。
仮面の研究者 土井博士の声明。玄関ホールに飾られた六人の顔が描かれた絵画。切断された遺体の意味するもの。降りしきる雨の中、電話も通じない陸の孤島での奇怪な事件。女装の大学生 小鳥遊練無の華麗なドレス姿に忍び寄る魔手。瀬在丸紅子と祖父江七夏が見せる女の意地、そして怒りの告発。
ま、お話はそんなところで充分でしょう。むしろ私が一番好きなのは、パーティー会場で食べまくる練無ですね。その姿が何とも言えず可愛らしい。警察官の祖父江でさえ舌を巻く、ドレスを抱えて身動きする練無の軽やかな動き。何十年と小説を読んできていますが、小鳥遊練無ほどのキャラクターは、宮部みゆきの『ぼんくら』に登場する二人の少年くらいしか思い出せません。彼(彼女?)を創出しただけでも、森は推理小説史に名を残すと私は断言します。最近のティーンズノベルにはありがちなキャラでしょうが、この小説の小鳥遊練無には敵いません。
赤緑黒白
2006/01/19 20:59
どんなに瀬在丸紅子や林が嫌いでも、小鳥遊練無がいてくれるだけで楽しくなります。しかも、今回は色が沢山。とびっきり奇妙な謎が読者を迎えてくれます
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私が今も森博嗣の作品中、最も好きなVシリーズ第10弾です。といっても私は小鳥遊練無がお気に入りというだけで、特に紅子は大嫌いなんですが・・・
今回も話は、シリーズの特徴である保呂草潤平の語りで始まります。自分がコレクターであるということを静かな口調で説明するのですが、その優しい語り口は、決して明るいものではないのが不思議です。どこか、しっとりとして温もりもある。シャイなところもある、それが如何にも大人の保呂草らしいですね。
事件の現場に駆けつけた祖父江七夏は、そこに愛する林警部を見つけ、周辺を一緒に歩き始める。二人が見つけた地上のペンキ。そして七夏が後輩の立松が案内した駐車場には、ペンキで真っ赤に塗られ銃殺された死体がありました。
とにかく赤いのです、顔も髪も、服も靴も、さらには周囲の地面までも。もっと言えば、男の名前も赤井寛。
保呂草潤平の前に現れた田口美登里は、犯人が小説家の帆山美澪であると確信して、保呂草にその証拠を見つけることを依頼するのです。ところが、関係あるとされた小説家は、赤井のことを知らず、肝心の時間にアリバイがあると主張します。その帆山の書いた小説は「虹色の死」、毎週誰かがペンキを塗られて死んでいく小説でした。
相も変らぬ香具山紫子と小鳥遊練無の会話が、楽しいですね。大阪弁が、決して下品にならず、柔らかで温かいのです。そして広場でフリスビーで遊びに興じる紫子、練無、森川の前に現れた美少女。図書館に兄と来た彼女は、練無が男であることを見抜いて姿を消します。
本格推理小説ではあるのですが、なにか恋愛小説の様相を呈してきたところがいいですね。しかも、それが中心になると、いい加減な印象を与えることが多いのですが、この作品に関して言えば、絶妙なところで踏みとどまっています。これは、イアン・ランキンのリーバスものや、P・D・Jの新作などに似ています。
そういう部分が小説の足を引っ張らないのですから不思議です。唯一不快なところがあるとすれば、瀬在丸の七夏に対する乱暴な言葉遣いと、二人の女性の間で優柔不断な態度を取り続ける林と、先輩に馴れ馴れしい口を利く立松の存在でしょうか。あれ、唯一どころか三つもありました。
それでも練無の魅力全開の一冊、といえるでしょう。はやく戻っておいで、練無、それが私の今の気持ちです。