- みんなの評価
8件
「大聖堂―果てしなき世界」シリーズ
14世紀のイングランド、キングズブリッジ。騎士の息子でありながら建築職人となったマーティンは、老朽化した伝説の大聖堂を復旧し、イングランドでいちばん高い塔の建設を決意するが……幾多の人々が織り成す波乱万丈、壮大な物語。全米ベストセラー第1位。
大聖堂―果てしなき世界(下)
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大聖堂−果てしなき世界 下
2009/08/19 20:20
教会が絶対ではなくなった世界で、大聖堂の意味を問う
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
スパイ小説の重鎮、ケン・フォレットの歴史小説。
「大聖堂」より、200年後の世界を舞台に、大聖堂建築をめぐる人間模様が鮮やかに描かれている。
「大聖堂」が12世紀当時の土木技術への挑戦と宗教を描いていたのに対して、この「大聖堂 果てしなき世界」では、台頭してくる商人や吸引力を失っていく教会が描かれている。
<絶対>を失った世界で、イングランドで一番高い塔を建てることを、どう意味つけるのか。
信じていたものに裏切られ、身を守るために意にそわぬ選択をせざる得ず、またそれも砂上の楼閣のようにもろく崩れていくヒロイン。
反対に、不幸な生い立ちながら、愛する男のためという一念を貫いていくもう一人のヒロイン。
2人の対極のヒロインと、没落した貴族の子供として生まれ、建築家と騎士と正反対の生き方をする兄弟が、物語を極上のエンターテイメントに導いてくれている。
フォレットの小説は、人物造詣がいつも素敵だが、これではそれが最大限に生かされてるように感じた。
そう、前作のような建築技術の発展的な部分を求めると肩透かしをくらうし、前作で物足りなかった人が物語を作りあげていくという部分は、この上もなく満足させてくれる。
これほど、最後のページを閉じるのが残念でならなかった物語はない。
大聖堂−果てしなき世界 下
2022/01/15 07:02
素晴らしき中世の世界
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
ついに読み終わりました。登場人物のやりようにムカつく場面は多々ありますが、それを含めて4人の主人公と共に、中世の時代にドップリと浸って、面白く読め、しばらくは『大聖堂ロス』です。引き続くペストの猛威に関しては一旦収まっては、またぶり返す様は、まるで今のコロナとシンクロし、興味深く読めました。最後はカチリカチリと収まるべきところに収めてしまうこのストーリー構成は、素晴らしいの一言。読み終えていい余韻に浸ることができました。
大聖堂−果てしなき世界 下
2009/06/21 16:11
物語にも果てはないのでは
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台は正編『大聖堂』から時代をおよそ200年下った14世紀のイングランド。あのレディ・アリエナとジャック・ビルダーの血を引く末裔たちが、再び暴力と理知とがせめぎ合う中世で、波乱の人生を送る三十有余年の物語です。
文庫とはいえ、上巻671頁、中巻671頁、下巻670頁と、三巻合計で2000頁を超える大長編歴史大河小説ですが、決して臆する必要はありません。有為転変の物語に読者は倦(う)むことなく頁を繰り続けること間違いないでしょう。
正編『大聖堂』同様、物語を彩るのは激しく仮借なき暴力、領主や聖職者の理不尽で恣意的な意思、時に放埓ともいえる男女の性的関係といった、中世物語です。しかしその一方、私はこれを、世の中を駆動するのは経済的な欲求・欲望であるということを強く意識させる小説として読みました。
羊毛市の開催をめぐるごたごた。土地にかかわる税金・相続・借用権の問題。新しい農産物の生産とその加工商品の流通。橋というインフラの整備とその建設資金の捻出。
こうした経済活動が物語の登場人物たちの人生を豊かにはぐくむこともあれば、大きく狂わせることもあるのです。緒についたばかりともいえる資本主義経済社会の様相は、大変興味深く読むことができます。
さらに、14世紀に猖獗(しょうけつ)を極めたペストのくだりは、新インフルエンザに際して現代の人々がきたした恐慌(パニック)と、治療と予防への飽くなき取り組みとを想起させるにあまりあります。
500~600年も以前のヨーロッパ人の行動が、より身近に感じられる群像劇を見るにつけ、ケン・フォレットという稀代のストーリー・テラーの腕の確かさを強く感じることができます。
さて、物語はこれで終わるのでしょうか。それとも『大聖堂』には三つ目の物語が生まれるのでしょうか。注目していたいと思います。