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悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷
著者 森達也 (著)
高下駄に法被、頭には「神風」の鉢巻を巻き、ゴング鳴るや、敵の目に塩をまく奇襲攻撃。第2次大戦直後のアメリカ・プロレス界で「卑劣なジャップ」を演じて、巨万の富を稼いだ伝説の悪役レスラーがいた。様々な資料や証言から浮かび上がる男の素顔は、現代に何を問いかけるのか――。気鋭のドキュメンタリー作家が迫る。
悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷
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悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷
2006/01/07 13:53
あのグレート草津も語っているぜ。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:池のワニ - この投稿者のレビュー一覧を見る
グレート東郷って、知っていますか?
口のまわりにちょび髭をはやして、反則して逆襲をくらうと、もうペコペコしまくり、隙をみては反則攻撃をくりかえす。なんて、せこさ! 相手の目に塩をすりこむんだもんな。アメリカ人の目にはいかにも「卑怯な日本人」って映る悪役ファイトで人気を得た「日系レスラー」だ。
子供のころにプロレスにハマった著者は、そのせこさがゆえに脳裏にこびりついていた彼のことを調べだす。なんで、正統派の権化たる力道山は彼とタッグを組み、外人レスラーと戦ったのか。実は、ここに大きな秘密が隠されている。キングのように振舞っていた力道山が唯一「さん」づけで呼んだレスラーが、この東郷だとか。二人の関係を解いていくのがルポの一つの柱になっている。
しかし、力道山の時代のことを覚えている人たちは、いまやそんなにいないし、当然ながら証言をあつめる取材は遅々となる。遅々とした揺れがドキュメントになっていて読ませるんだな。
聞こえてくるのは、金にせこかったって、もう悪口だらけ。駆け出しのころのジャイアント馬場がアメリカに武者修行に行かされ、面倒をみたのが東郷だった。試合のないときは腹がすくから寝てろと、メシもろくに食わせてもらえなかったって話をはじめ、ひどいよ、このオヤジって逸話が次々。
うまいなです。これでもかと世間が抱いていた悪役イメージを増幅させるだけさせて、後半はなぜ「悪人」に徹したのか、彼のもうひとつの一面をあかしていく。
彼の出生の一点に著者はこだわる。こだわり続ける。そんなにこだわんなくてもいいんじゃないのって、ワタシなんかは思いはじめるんだけど、ただ一点の疑問にこだわり、人を尋ねていく。
現役を引退したグレート草津の家を訪れる場面、最初は無愛想だった草津が「おい、飲めよ」と上機嫌にしゃべりだす。東郷を語るなかでリングから遠ざかった草津がみえてくる展開は、しみじみ心があたたまる。
人を語ることは、自分を語ることにつながるといういい手本だね。
悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷
2006/07/26 11:12
謎に包まれたこの「日系レスラー」の真の姿を追う本書は,まるで合わせ鏡のように戦後日本におけるナショナリズムの問題を照射する
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の森達也はあのオウム(現在はアレフに改名)のドキュメンタリー「A」,「A2」を撮ったドキュメンタリー作家。この本も,最初は映像作品として考えたいた題材らしい。……グレート東郷と言えば,ワタシくらいの世代のプロレス・ファンなら誰でも知ってる名前だ。もちろん1956年生まれの著者が「そのファイトは記憶にない」というくらいだから,1961年生まれのワタシの「グレート東郷」は梶原一騎原作の漫画で暴れ,門茂男の本で語られ,老人のショック死を報じるニュース映像(に出てくる新聞の写真だったような気がする)の中で銀髪鬼フレッド・ブラッシーに額を噛み破られている彼である。
謎に包まれたこの「日系レスラー」の真の姿を追う本書は,まるで合わせ鏡のように戦後日本におけるナショナリズムの問題を照射する。あの力道山が終始「東郷さん」と敬称をつけて呼んだ男,多くの人に守銭奴と嫌われた男,「世紀の悪玉」と呼ばれて巨万の富を築いた男は,その出自ひとつに限っても,日系人,韓国人,中国人とのハーフなど諸説芬々つかみどころがない。それはまるでヌエのような……と書こうとしてふと気付く。いや,それこそまさしく「プロレスラーのよう」ではないか,と。全国500万のプロレスファン必読の書。
悪役レスラーは笑う 「卑劣なジャップ」グレート東郷
2020/06/27 22:42
この本はグレート東郷というひとりのレスラーを素材にしてナショナリズムについて著されたものだ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
岩波新書がプロレスを扱うのには、非常に違和感がある。それは本文でも触れている。森達也だから一筋縄ではいかないことは当たり前だ。この本はナショナリズムについて著されたものだ。グレート東郷というひとりのレスラーを素材にしながらだ。この謎に包まれたひとりのレスラーについて書かれながら、結論は宙に浮いたままだ。当たり前だが世の中はそんなに単純ではないということだ。