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生物から見た世界
甲虫の羽音とチョウの舞う,花咲く野原へ出かけよう.生物たちが独自の知覚と行動でつくりだす〈環世界〉の多様さ.この本は動物の感覚から知覚へ,行動への作用を探り,生き物の世界像を知る旅にいざなう.行動は刺激への物理反応ではなく,環世界あってのものだと唱えた最初の人ユクスキュルの,今なお新鮮な科学の古典.
生物から見た世界
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生物から見た世界
2007/08/13 21:57
久しぶりの五つ星でした
12人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:仙道秀雄 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ユクスキュルはスピノザ主義者だと聞いたことがあり、スピノザを敬愛する者には本書は重要であるが、尊敬する日高敏隆さんの生物学に決定的な影響を与えた一書であると後書きで知って以後、わたしの興味は倍化した。しかしながら、重大問題発生。わたしは生物学にまったく疎く、適切な書評者たりえないのだ。例によって引用に次ぐ引用で本書の驚くべきコンセプトの一部を紹介するしかない。
ある事象を観察する者がいて、その世界内に起こっていることとしてある事象が理解され、事象の構成要素xもyも観察者の世界内においてあり、事象と観察者を含んだ世界の完全な一致と唯一性が信じられている。ところが本書の環世界はこのような見方を真っ向否定している。
上は機械論か、主体論かという対立でもある。機械論者である生理学者は、「ダニの場合、すべての行為は反射だけに基づいている。反射弓がそれぞれの動物機械の基盤である。それは受容器、すなわち酪酸や温度など特定の外部刺激だけを受け入れ、他はすべて遮断する装置ではじまり、歩行装置や穿孔装置といった実行器を動かす筋肉で終わる。」と言う
p14
主体論者である生物学者は、「事態はまるで反対だ。ダニのどこにも機械の性格はない。いたるところで機械操作係が働いている。反射弓の細胞は運動の伝達ではなく、刺激の伝達によって働いている。刺激は(ダニ)主体によって感じられるものであって、客体に生じるものではない。」と言う。p15
ダニが哺乳類を、血を吸う対象物をどう発見し、どう血にありつけるかを、主体論の言葉遣いで追ってみるとこうなる。哺乳類の皮膚腺が酪酸を発生させる。ダニは酪酸という刺激を知覚器官で特異的な知覚記号に置き換え、それが嗅覚標識に転換される。知覚器官でのこの出来事が作用器官に相応のインパルスを発生させ、ダニは真下の哺乳類に落下すべく肢を枝から外す。ダニはぶつかった哺乳類の毛に衝撃という作用標識を与え、これがダニに触覚という知覚標識を解発し、それによって酪酸という嗅覚標識が消去される。この新しい標識はダニに歩き回る行動を解発しやがて毛のない皮膚に到達すると、温かさという標識によって、歩き回るという行動は終わり、次に哺乳類の皮膚に食い込むという行動がはじまる。p21
ダニにとって知覚標識となるのは酪酸、触覚、温度みっつだけである。これとみっつの作用標識(落下、歩行、食込)だけがダニの環世界をつくっている。これは貧弱で単純な世界であるが、確実に血を吸える可能性を高めている。だが哺乳類がダニのいる枝先の下を通過しなければ酪酸も出ず、落下もせず、毛のない皮膚にも行き着かない。するとダニは餓死するのだろうか。餓死するはずである。しかし本書には18年間絶食しているダニが生きたまま保存されていたと書かれている。ここで驚くべきことが言われている。
人間の時間は、瞬間、つまり、その間に世界が何の変化も示さない最短の時間の断片のつらなりである。一瞬が過ぎ行く間世界は停止している。人間の一瞬は十八分の一秒である。瞬間の長さは動物の種類によって異なるが、ダニにどんな数値を当てようと、全く変化のない世界に18年間耐える能力はダニにはないだろう。ならば、ダニはその待機期間中は一種の睡眠に似た状態だと仮定できる。この状態では人間も何時間か時間が中断される。つまり、十八分の一秒の瞬間の連鎖ではなくなる。この認識から何が得られるか。時間は、あらゆる出来事を枠内に入れるので、出来事の内容がさまざまに変わるのに対し、時間こそは客観的に固定したものであるかのように見える。だが、いまや我々は、主体がその環世界の時間を支配していることを見るのである。生きた主体なしには時間はありえない。p24
空間にも同じことがいえるとユクスキュルはのちの章で語る。どうであろうか、諸兄、精読の要ありとせざるを得ないではないか。
生物から見た世界
2020/04/30 09:30
「行動は刺激に対する物理反応ではなく、環世界あってのものだ」と最初に唱えたユクスキュルの興味深い一冊です!
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、動物の感覚から知覚へ、また行動への作用を探って、生物の世界像について分かり易く、面白く解説された一冊です。著者であるヤーコプ・ヨハン・バロン・フォン・ユクスキュルは、戦前に活躍したエストニア出身のドイツの生物学者であり、哲学者であった人物で、「行動は刺激に対する物理反応ではなく、環世界あってのものだ」と世界で初めて唱えた人物です。その彼が誘ってくれる生き物の目から見た世界観は非常に刺激的です。同書の内容構成は、「環境と環世界」、「環世界の諸空間」、「最遠平面」、「知覚時間」、「単純な環世界」、「知覚標識としての形と運動」、「目的と設計」、「知覚像と作用像」、「なじみの道」、「家と故郷」、「仲間」、「探索像と探索トーン」、「魔術的環世界」、「同じ主体が異なる環世界で客体となる場合」となっています。
生物から見た世界
2019/07/21 00:30
生物
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Otto - この投稿者のレビュー一覧を見る
生物のことには詳しくありませんが、読む必要があり、読みました。きちんと理解できていないようには思いますが、挿絵もあるので、比較的楽しい気持ちで読めました。

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