- みんなの評価
8件
ヘラクレスの冒険
著者 アガサ・クリスティー (著) , 田中一江 (訳)
引退をひかえていたエルキュール・ポアロだったが、 十二の難業 に挑むことになった。「ネメアのライオン」「レルネーのヒドラ」「ケルベロスの捕獲」など、ギリシャ神話がモチーフとなった十二の難事件に、灰色の脳細胞を駆使してポアロが挑む。変わらぬポアロの名推理ぶりを新訳でおくる。
ヘラクレスの冒険
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
ヘラクレスの冒険
2004/09/27 12:17
名探偵怪力男ヘラクレスに挑戦1
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「もう引退する潮時だな。」
そう言って、
「ああ、そうだね、そうなさい。」
と周囲が同意を示してくれたなら、これは実に理想的な引退だ。だが、あいにく探偵の場合はそう簡単にはいかない。
自分がやめたくても、事件が放してくれないのだ。かのシャーロック・ホームズだって御年60才なのに、英国の危機を救うためとあらば、養蜂と読書に耽る理想的な生活を捨て、盟友ワトソンと駆けつける。名探偵エルキュール・ポアロだって、そう簡単に引退させてもらえるはずがない。
この物語は、ポアロが何度目かの引退を口にした事から始まる。
これからはカボチャの改良をして余生を過ごすというポアロに、医師が言う。
「きみの仕事はヘラクレスの難業ではない。愛の難業だ。」
この言葉にポアロは反応する。といっても、「君に仕事は辞められない」と言う彼が言わんとした趣旨ではなく、「ヘラクレスの難業」という比喩にこだわってしまった。本末転倒な話だが、確かに彼がこだわる理由はある。エルキュールをギリシア風に読めばヘラクレス、つまりヘラクレスは、自分と同じ名前の神話上の英雄である。ちなみに兄の名前はアシルだから、ギリシア風にはおそらくアキレス。母親が息子達に何を願って名前をつけたかが、非常にわかりやすいケースである。
「英雄英雄というが、どこがだ!」 神話を読んでポアロは激怒した。彼にかかれば神話上の人物は、強奪犯、殺人犯、詐欺師といずれ劣らぬ悪人揃いだ。こういう読み方は、いかにも現実主義の彼らしくて笑ってしまう。
そしてポアロは考える。「自分だってヘラクレスの難業くらいの事はできる!」 いや、もっと本音を言えば、「自分の方が彼よりも偉い!」 かくして負けず嫌いのポアロは、ヘラクレスの難業によく似た仕事を十二やり遂げたら、引退しようと決意する。こうしてまた探偵業を続けるが、ヘラクレス云々というのは、おそらく単なるこじつけだ。犯人との息詰まる攻防、トリックやアリバイを崩した時の快感、国家の安全を守ったという誇り。好敵手との出逢い。体験した冒険の数々。読者の胸を踊らせる数々の体験をしたポアロが、穏やかな生活に本当に満足できる訳がない。彼が探偵人生に「幕(=Curtain)ポアロシリーズの最終話タイトル 」を下ろすのは、もっとずうっと先なのだ。
ヘラクレスは妻の過ちによって命を落とすが、どうやら現代のヘラクレスは朴念仁で、妻帯の気配はなさそうだ。このままポアロは難業を何事もなく全うできるのだろうか? おや、彼が高価な赤い薔薇をとある女性にプレゼントしている。しかもミス・レモンが問いかけると、真っ赤な顔になる。様々な事件で人の恋路を見てきたポアロにも、遂に春が? これは事件だ!
まあ、誰ですか? ポアロが遭遇した事件より、こっちの謎を追う方が面白そうだなんて言ってる人は?
2024/12/25 16:09
ギリシャ神話がもう少しわかっていれば
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この短編集の文庫本についている「案内文」に、「オムニバス形式の短編十二篇を収めた作品集」とある。「オムニバス」というのは時々耳にすることがあるが、調べると「いくつかの独立した短編を集め、全体として一つの作品になるように構成したもの」と説明されている。
アガサ・クリスティーのこの『ヘラクレスの冒険』は、引退を控えたエルキュール・ポアロが自らのクリスチャン・ネームであるエルキュールが「ヘラクレス」であることから、ギリシャ神話のヘラクレスの十二の難業を参考にして、それに関係した事件のみに携わっていくという構成になっている。
なので、十二篇の短編にはそれぞれ「ネメアのライオン」だとか「アルカディアの鹿」とか「クレタ島の雄牛」といった、ギリシャ神話になぞらえたタイトルがついているが、これらに馴染みがない読者も多いかもしれない。
おそらく、ギリシャ神話をよく知っている人にはこれらの事件が深く理解できるのかもしれない。
だからといって、これらの短編が面白くないわけではない。
相変わらずポアロの推理は明快だ。引退なんてまだまだ早い。
この短編で面白いのは、ポアロの秘書ミス・レモンの存在だ。実務遂行能力にたけ、時にポアロに対しても鋭くつっこむ。
こういう脇役の存在も、ポアロものに人気を支えているといっていい。
2024/10/14 20:28
短編集
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:じゃび - この投稿者のレビュー一覧を見る
エルキュール・ポアロの名前エルキュールとはヘラクレスのことだったのね。というわけでヘラクレスにまつわる12の短編集。最初のワンちゃん誘拐事件からしてすでに面白くて、新興宗教の事件に続くのも楽しかった。殺人事件じゃなくてもどれも面白かったです。