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14件
あなたの人生の物語
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく……ネビュラ賞を受賞した感動の表題作をはじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語--ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集。
あなたの人生の物語
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あなたの人生の物語
2004/01/16 00:24
ちんぷんかん魔術だぞ。チャン。
15人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
この短編集は、1990年からの12年間でテッド・チャンが発表した全作品8作を集めたもの。ほとんどの作品が各種の賞を受賞したり、候補になったりした傑作揃い。各作品のアイデアは、突飛なものから、ほんの明日にでも実現するかもしれないようなものまで多様。個人的には、この本が2003年のベスト。
だいたい文学っていうのは、一人の人間の経験を通して新しい世界認識の切り口を提示するもの、という見方もできると思う。これがチャンの場合、新しい認識をほんとうに確定させてしまった人の経験とその内面が中心になる。
特に気に入った作品は「72文字」。設定のアイデアを書いても普通はネタバレということにはならないと思うけど、チャンの場合は日常的な風景の中から少しずつ奇妙な設定が立ち現われてくる過程に一番の楽しみがあると言ってもいいぐらいだと思うので、書かないでおきます。えーっと、当世風に言えばナノテクってことになるのだろうけど…(うずうず)。ただ登場する職人の親方が、短い出番ながら非常にいい味を出しており、特に技術系の人間なら激しく共感できるんじゃないだろうか。
らしさが典型的に現われているのは「ゼロで割る」だろう。数学(数論)に基づく世界認識の話で、読んでいる最中は、なにかすごくヤバイものを読んでしまったような感覚にとらわれた。ディティールや主人公の内面の描写が緻密で的確なため、これは架空の話なんだって後で自分に言い聞かせなくてはならなかった。
評判の高い表題作や「72文字」のように、言語の性質を特異な形で利用するところが特徴的かもしれない。中国系アメリカ人であることや、本業としてフリーのテクニカルライターをしているということなどで、言語に対して独特の視点と造詣があるのだろうか。
どの作品でも、科学にしろ宗教にしろ難解な説明に走らず、登場人物の受け取った印象と、変わっていく人生を描いている。新しい世界認識を人類というレベルで語ることもなく、個人の問題にとどめていても、それ以上は言わないでもワカルって気にさせる構成や表現も魔術的なのだけど、結局は科学による新しい未来なんてものを信じていないのかもしれない。たった8作の短編で作家を語るのも無理があるけど、その意味で実はすこぶる現代的な作家と言えそうだ。
パチパチピチンコ。
あなたの人生の物語
2018/06/07 01:37
映画とは別ものだと思う
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
2017年に公開された映画「メッセージ」の原作を含む短編集。
映画を観て以来読みたいと思っていたのですが、ほぼ1年後にやっと読みました。
この小説は映画よりももっと情緒豊かで、感性や感情に対して作用してくる作品でした。
収録作は
バビロンの塔 Tower of Babylon
理解 Understand
ゼロで割る Division by Zero
あなたの人生の物語 Story of Your Life
七十二文字 Seventy-Two Letters
人類科学の進化 The Evolution of Human Science
地獄とは神の不在なり Hell Is the Absence of God
顔の美醜について ドキュメンタリー Liking What You See : A Documentary
の8編と作者による作品覚え書きです。
この8編がデビューから12年間で作者が書いた全てだということですので、寡作も寡作ですね。
あえて1番好きな作品を選ぶなら「理解」かなぁ。
なんとも言えない緊張感が心地良かったです。
題材としては映画ですがリュック・ベッソンの「ルーシー」2014年や
ニール・バーガーの「リミットレス」2011年などで扱われたもの思い出しましたが、
こちらの小説の発表が1991年ですので、先行しているのですね。
とにかく8編全て甲乙付け難く、時を置かずに何度でも読んでみたくなるものばかりでした。
作者自身は全作品ともSFとして書いたと仰られているようですが、読んだ者としてはあえてジャンル分けする必要さえない、素晴らしい一冊だと思いました。
あなたの人生の物語
2004/01/05 15:01
イーガンを初めて読んだときと同じ興奮!!!少々難解じゃないと、やっぱSFは楽しめないのだ。
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山 - この投稿者のレビュー一覧を見る
とはいえ、この本はSFなのだろうか!? 読者は皆そう思うはず。そもそもSFの定義付けが「SFとして発表された」とか「初出がSF誌だから」とか「SF界の賞を受賞している」だとかくらいの形式的な場合も多いため、グレッグイーガンやこの本の著者テッドチャンなんかにはカテゴライズなんて無意味なのかもしれない(当然だけど、これは純文学とエンタテインメントなんかの違いとも同じで、科学と哲学の領域の異種混合なんかにも通じるし、ビジネスのインテグレーションなどとも相違しないはず)。
しかしやはりSFなのである。というのは「SFを書く」という初期衝動がなければ絶対に書かれなかったであろう自由度や世界展望そして難解さがあり、読者の側も「これはSFなのだ」という前提のもとで読んでいるからこそ理解でき、かつ楽しめる小説世界なのだ。むろん僕だってイーガンと並ぶSF界の新精鋭という評判がなけば読まなかった本であることは確か。
短編小説というのはアイデア一発勝負であったり、プロットそのものの独創性、簡潔性が勝負となるわけだけど、くどくどタラタラと冗漫な長編SFが多い中、本書の短編としての割り切りというか潔さというのは、難解さに隠れてしまっているけど、ほんと気持ちいいものがある。
この混沌とした現代というか世界を、どう解き明かすか!? この命題はSFだけでなく小説という文芸に架せられた大命題であり、テッドチャンは例えば冒頭『バビロンの塔』(あの地上から天空まで突き抜ける「バベルの塔」のことですね)では“宗教”というツールを用いてバッサリ切り取っている。すなわち「世界とは『上』に行こうとする人間達の幻想で成立している」と。
「上」というのは「下」のことでもあり、中庸にとどまって分相応に「中」ほどで生きているのがフツ〜の人間。夢とか希望とか、さらに日常的な諍いや戦争なんて揉め事から逃れられない僕たちは、ある一定の役割が与えられており、それは「上」に行っても「中」ほどにいても「下」で嘆いていても同様であり、特権的な役割を与えられて(あるいは夢が叶って)「上」に行って戦ったり活躍したりできたとしても、それは「下」に行くための戦いなのだ、そこではまた「上」を目指す人々の欲望とか闘争心が渦巻いている。
科学や数学、哲学などの引用というか構成要素がストーリーを難解に見せかけているけど、テーマやプロットは単純明快というか、いや単純ではないんだけど着地点は明快そのもの。読むのに手こずる部分もあるけど、そもそも「難解さ」を楽しむのがこの手のSFというか小説の醍醐味なわけで、頭の中に異物を突っ込まれて掻き回されているような快感が充分に味わえる(もちろん判りやすい話が好きな人には勧められない本だけど)。
イーガンのような叙情性こそないが、収録作8本はどれもこれもフツ〜の小説では絶対に楽しめない要素がふんだんに詰まっている。それだけでも凄いと思う。つまり、こんな短編集は世界にひとつしかないということ。似たような本は僕の知る限りどこにもない。