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天冥の標
著者 小川 一水
西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、《海の一統》のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが……小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。
天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3
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天冥の標 1上 メニー・メニー・シープ 上
2009/09/20 19:56
与えられた条件の中で、人々は懸命に生き抜こうとする
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
拡散時代を迎えた地球人類は、数多くの移民船を他の恒星系に向かって送り出した。多くの植民船は無事に植民星に到着し、そのテクノロジーを生かして繁栄し再び植民船を送り出すようになる。
しかし、植民星メニー・メニー・シープに到着したシェパード号は、到着時のトラブルによりその能力を十全に生かすことができず、移民の技術レベルは20世紀のレベルまで落ち込んでしまう。現在西暦2803年。資源の少ない星で生活する人々は、施政者のある発案により、さらなる困難に陥ろうとしていた。
最近は近未来のSFが多かったように思うが、今回は人類が銀河系全域を生活圏にしようかという時代。ただし、舞台となる惑星はあまり現代と変わらない。登場人物として、海の一統という改造された人類や、恋人たちと呼ばれるアンドロイド群、先住種である石工と呼ばれる昆虫様の生物などが出てくるが、彼らの行動は現代の状況に結びつかなくもない。
わずか5千平方キロメートルの植民領域の中で、わずかなリソースの配分を巡って対立する人々。そこから飛び出して新天地を目指そうとする人々。闘って体制を変えようとする人々。そして、何をしたら良いか分からず戸惑う人々。様々な立場の人がいるが、ただ一つ明らかなことは、黙っていて助けてくれる存在はどこにもなく、問題は自分たちで解決しなければならないということだ。ただ、解決するとは言っても、立場により目指すべき場所は異なり、切り捨てられる範囲も異なるということがより深い問題であり、結局は放置するというのが安易な解決に陥りがちなのだが。
天冥の標 1上 メニー・メニー・シープ 上
2010/02/23 20:35
全く予測不可能な展開です。登場するものたちを理解するだけでも一苦労なのに、話の先が読めません。これは楽しみです。あとは、前の話を忘れないうちに次の巻が出てくれること。でも、全10巻て、結構長丁場かも・・・
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
SF本としてはありがちなカバー画なんですが、色合いも含めて嫌いではありません。ただし、この絵のスケール感からいって、文庫ではすこし窮屈かな、なんて思います。で、今あらためて見て気付いたんですが、この本てきっと、上下で一巻て勘定するんだと思うんです。カバー後の文のお終いに全10巻の新シリーズ、って書いてありますけれど、多分、10冊ということではないんだろうなあ、って思いました。
で、なんでこんなこと書いてるかっていうと、実は今回の上下巻、これで第一部って考えられるのに、カバー画が繋がってないんです。上下左右とっかえひっえいしてみたものの、色合いと雰囲気は同じなのに別の絵。もしかして上巻のものはセナーセー市の様子で、下巻は地中の植民船? なんて思いもするんですが、どちらにも空があるので違うんでしょう。Cover Illustrationの富安健一郎には意図があってこういう絵にしたんでしょうが、私には意味不明。
Cover Designの岩郷重力+Y.Sも、これで良しとしたんでしょうが、でもやはり上下巻通じて一つの絵となるようにするか、もしくは小鷹信光の言うラップアラウンド形式にしてカバー全面を使ったものにすべきだったんじゃあないか、なんて思います。ちなみに、文庫でのラップアラウンド型のカバーって、昔、東京創元社の推理小説全集にあったくらいで、特に早川文庫には例がないはず。ここらでいっちょうやっても面白かったのでは?
閑話休題。お話の内容ですが、今回も環境配慮、省エネスタイルで本のカバーの文章を利用させてもらいます。
まず、上巻のカバー後の文は
西暦2803年、植民星メニー・メニ
ー・シープは入植300周年を迎え
ようとしていた。しかし臨時総督
のユレイン三世は、地中深くに眠
る植民船シェパード号の発電炉不
調を理由に、植民地全域に配電制
限などの弾圧を加えつつあった。
そんな状況下、セナーセー市の医
師カドムは、“海の一統”のアク
リラから緊急の要請を受ける。街
に謎の疫病が蔓延しているという
のだが……小川一水が満を持して
放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。
続いて、下巻は
謎の疫病の感染源は、出自不明の
怪物イサリだった。太古から伝わ
る抗ウイルス薬で感染を食い止め
たカドムだったが、臨時総督府に
イサリを奪われてしまう。一方、
首都オリゲネスの議員エランカも
また、ユレイン三世の圧政に疑問
を抱いていた。彼女は自由人の集
団《恋人たち》と知りあうが、ユ
レイン三世はその大規模な弾圧を
開始する。新天地を求めて航海に
出た《海の一統》のアクリラは、
驚愕すべき光景を目にするが……
です。これ以上説明はしませんが、予想外の展開をします。え、どうして? なんでみんな? なんて私は思いました。ここまでやるかない、って。甘い展開をするかな、って思ったんです。たとえば、カドムとイサリ、あるいはエランカとラゴスの関係。最近のミステリ系の作家たちだったら、甘々の男女関係を宙ぶらりんにさせてシリーズをだらだら読ませる、読者もそれを嬉々として受け入れるみたいな構図があるんですが、SF系の、しかも本格的な作品を目指す作家は違う。
私が現在もっとも注目する小川だけのことはあります。しかもです、小川は下巻のお終いについている「一巻のためのあとがき」で、
*
はい、いかがでしたでしょうか。天冥の標、第一巻。
「ちょ、おいィ!?」と叫んでいただけましたか。これはそういう本です。
いただけなかったら申し訳ありません。二巻頭、三巻頭、またその先では、きっと叫んでいただけると思うので、それまでお待ちください。
*
とまあ、読者の期待をいやがおうでも煽ってくれます。繰り返しますが、私などはこの巻だけで「え、ウソ!!」なんて言ってしまいましたから、二巻頭、三巻頭、またその先では、きっと卒倒しちゃうんじゃないかな、なんて思います。ちなみに、なんで「二巻、三巻」ではなくて「二巻頭、三巻頭」と「頭」がつくのでしょうか。もしかしてそこには大変な仕掛けが・・・
さて、次に自分の至らなさを書いてしまいましょう。実はこのお話には、通常の人間以外に、《石工》《呪詛者》といった人ならざる者たちが登場します。その姿かたちが頭の中で実体化しないのです。どうしても擬人化してしまうのですが、どうも文章からは昆虫のようなものらしい。イリサの美しさなんて、どう読んでも野生の美少女なんですが、細かく読むとそうではないらしい。
ま、山田正紀の『イリュミナシオン』のように、作者の側に読者に伝えようという気持ちがないような、分からんやつは愚か者だ、みたいな突き放したようなところが小川にはないので、助かるのですが、でもあまりの異質さにこちらのイメージが追いつかない部分があります。ごめんなさい、です。できれば編集者さん、巻頭の登場人物案内のところで、どのような姿をしているかも補ってもらうと助かるんですが・・・
というわけで、まさに乞うご期待の幕開けでした。そうか、ユレイン三世の圧政って・・・
以下、データ的なもの。まずは目次で、上巻は
第一章 石模様の怪物
第二章 警邏艦の襲撃
第三章 恋人たち
第四章 衝突
第五章 昏き過去より
下巻は
第六章 欠けゆく夏
第七章 混迷と彷徨
第八章 臨界の一撃
第九章 史乗の底より
一巻のためのあとがき
です。最後は主な登場人物。植民地メニー・メニー・シープの人々、って本には書いてありますが、人外のものも混じってます、はい。
セアキ・カドム:セナーセー市の医師。主人公かと思っていたら、さにあらず。もうこれだけでも意外です。
セアキ・サリエ:カドムの母で、息子のことを心配する美しく、気高い女性です。
アクリラ・アウレーリア:《海の一統》の航海長。
キャスラン・アウレーリア:《海の一統》の艦長。アクリラの父。
ユレイン・クリューゲル三世:第21代植民地臨時総督。臨時、っていうところがミソです。孤独な独裁者で、極めて横暴です。
ライサ・ザリーチェ:軍事警察総監でサディスト。30代の美女で、肉体派。映画にしたら、もっともエロい存在で、杉本彩を思ってもらえばいいでしょう。
エランカ・キドゥルー:植民地議会議員。正義派の無垢な美少女を思ってもらえばいいです。世の中のありかた、政治のありかたに疑問を抱き、己の理想に向かってまっしぐら。自民党の議員には絶対にいないタイプです。
ラゴス:《恋人たち》のリーダー。ちなみに、《恋人たち》というのはアンドロイドで、セックス奴隷というか、吉原の花魁みたいなもの。もちろん、政府公認です。彼の存在は、けっこう重要です。
イサリ:《呪詛者》。石模様の怪物として登場します。私は小型のエイリアンだと思って読んでいたんですが、実は・・・
天冥の標 4 機械じかけの子息たち
2011/10/01 22:01
行為の果てにあるもの
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
救世軍連絡会議議長グレア・アイザワの義弟キリアン・クルメーロ・ロブレスは、とある理由によりたどり着いた小惑星で、アウローラ・P・アルメンドロスという少女に出会う。彼女と彼女の姉ゲルトルッドは、無条件の好意をキリアンに示してくるのだが、彼女たちの一族の名前は恋人たち(ラバーズ)といった。
ある理由でキリアンの好意を得たいアウローラたちは、彼が冥王斑であるゆえに押し殺していた性欲を開放させ、彼の望むままの行為に応え続ける。なぜなら彼らは、人間へ性愛の奉仕をすることを喜びとして生み出された存在だからだ。
そしていつか、混爾(マージ)と呼ばれる性愛の極地に至ることを目指し、自分たちを増やし存在し続けている。それは、機械的に融合して同一化する不宥順(フュージョン)とはまた違う、個性が他者の存在を自分と同一視して受け入れるような感覚だ。
そんな彼らのハニカムに存在する不協和音である聖少女警察、そして外部からの、道徳と倫理という名を借りた敵の襲来。その果てにラバーズはどこへとたどり着くのか?
2巻の冥王斑、3巻のアウレーリア一統、そして今巻の恋人たちと、1巻の仕掛けが徐々に明らかになってきた。
そして今巻の内容だが、ラバーズが主役であることもあり、とてもエロい。彼らの存在理由から予想がつくようにセックスをしまくるわけだが、ゲストの性的嗜好を満足させるため、彼らが無意識で求めるようなシチュエーションを実現し、そこでたっぷりと行為にふけるわけだ。ある意味では究極のイメクラみたいなものかもしれない。
しかしただそれだけで終わるというわけではない。性愛の究極の形とは何かをその中で求め続けるのだ。そこでは常識的には考えられないような交感のかたちもある。そしてなぜラバーズがそうあるように創られたのかも考えられる。まあ、何か真剣にまじめに一所懸命なのだ。
そんなわけで、シリーズの枠からはみ出してはいないので問題ないとは思うのだが、以前の短編についても然り、どこか意地になっているようなところも感じなくもなかったりする。