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第九 ベートーヴェン最大の交響曲の神話
著者 中川右介 (著)
クラシック音楽において「第九」といえば、ブルックナーでもマーラーでもなく“ベートーヴェンの”交響曲第九番のこと。日本の年末の風物詩であるこの曲は、欧米では神聖視され、ヒトラーの誕生祝賀、ベルリンの壁崩壊記念など、歴史的意義の深い日に演奏されてきた。また昨今は、メータ指揮のN響で東日本大震災の犠牲者追悼の演奏がなされた。ある時は祝祭、ある時は鎮魂――そんな曲は他にない。演奏時間は約70分と長く、混声合唱付きで、初演当時は人気のなかったこの異質で巨大な作品が「人類の遺産」となった謎を追う。
第九 ベートーヴェン最大の交響曲の神話
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2014/02/06 20:40
やっぱ、ワーグナーは悪魔だった
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:愚犬転助 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベートーヴェンの第9の受容史だが、第9の凡俗な礼賛論とは完全に一線を画し、事実の羅列から、これまでにない第9像が見えてくる。最初の驚きは、第9が4半世紀、へんてこりんな交響曲扱いされてきたこと。音楽史の常識では、第9の初演にあって、ウィーンの観客は熱狂したことになっている。これは事実のようだが、曲に感動してものではないようだ。すでに大家であったベートーヴェンに敬意は払っても、曲への理解はなかったようだと、著書は分析する。
未熟なオーケストラと指揮者によって、第9は長くけったいな大曲扱いされてきたが、すべてを変えたのは、リヒャルト・ワーグナーだったというのが、この本の最大の特色。彼は譜面でこの曲の魅力に気づき、パリの公演でキモが何かに気づきはじめたという。彼の指揮による演奏で、第9は怪物になる。ワーグナーは「トリスタンとイゾルデ」作曲時、「リヒャルト、お前は悪魔か」と自分に酔ったらしいが、やはり悪魔だった。ワーグナーのオペラが、ベートーヴェンの交響曲をエログロたっぷりにネチネ飾りたてし、ベートーヴェン世界を巨大化させたものであることが、よくわかった。
このあとの第9にまつわる政治家、音楽家の軋轢と対立の歴史分析も秀逸だ。フルトヴェングラーが第9をドイツ精神の精華扱いしているあたり、長く第9はドイツを呪縛していたことを感じる。