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恋の技法
「誰かもし、愛する術(すべ)を知らない者があれば、これなる詩を読むがいい」。その都雅にして優美な詩風で古代ローマ人を熱狂させた詩人が、「恋の師匠」として世のすべての人に伝授する、千変万化の恋の手管。
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紙の本恋の技法
2005/09/12 18:20
ローマ時代の恋のハウ・トゥー・ブック。こんな楽しいローマの古典も一度は読んでみたいもの
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「だれかもし、この民族のうちに愛する術を知らない者があれば、これなる詩を読むがいい。そしてこの詩を読んで、術を心得、恋愛を実行するがいい。」こんな一文から始まる、ローマ時代の恋の技術書。「変身物語」の作者として有名なローマの一代の才人、「やさしき恋の戯れ人」と自らの墓碑銘に記させたオウィディウスの書いた、とても明るくて闊達な本です。彼はこの書のために、ローマの風紀を乱したと皇帝アウグストゥスの怒りをかい、流刑になってしまいました。ということは、当時からとても人気のあった作品だったのでしょう。
ヘシオドスの教訓詩のパロディとして、そのタイトルも「弁論術Ars Rhetorica」をもじって「Ars Amatoria」とつけられたと言われています。真面目な教訓詩の形式で書かれているおかしみも、当時の人は楽しんだのではないでしょうか。1,2部は男性に、3部は女性に恋の技術を説きます。皮肉、機知にとみ、ちょっと「あぶない」大胆な描写もありますが、洗練された洒脱な文章が、そこはさらりといやらしくなくしています。「この冗談がわからないのは野暮ですよ」との著者の声が聞こえてきそう。ですから「女にとっては君の力は嬉しいものなのだ。どんな女でも、思いがけなく強奪されると嬉しく思うものである。」なんていう文章を真にうけてしまうのは野暮というものですよ。
2,3部の最後を、「私の弟子たちよ、獲物の上にこう書いてくれ、『Naso(オウィディウスのこと)が師であった』と」と、ちゃっかり自己宣伝で締めくくるのもなんだか楽しいですね。
神話や伝説をたくさん引用し、美しいお話が流れていく中に皮肉やくすぐりもあるので楽しんで読めます。原作のオウィディウスの力ももちろんですが、堅苦しくなく、楽しい翻訳の力も与ってあまりある、と言わねばならないと思います。神話をよく知らなくても、きちんと注釈もありますからなんのことやらわからない、ということはありません。
こんな楽しいローマの古典も一度は読んでみたいもの。ちょっとラテン語の勉強がしたくなるかもしれません。