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VIP――グローバル・パーティーサーキットの社会学
著者 アシュリー・ミアーズ(著) , 松本裕(訳)
元モデル研究者が超富裕層のパーティー界に潜入し、「モデルとボトル」の世界を分析。いかにして女性美は男のステータスに転換されるか?
「蚊に刺され、午後の暑さで汗まみれになった私が目を覚ますと、午後5時だった。ここはマイアミのスター島にある別荘のゲストハウス。…26歳のクラブプロモーター、サントスにくっついて3日前にマイアミに到着して以来、私はクラブからクラブへ、ホテルのペントハウスからパフ・ダディの早朝プールパーティーへと、パーティーをはしごしまくっていた。…私は世界のVIP向けのパーティーシーンに潜入し、彼らが膨大な可処分所得をどう使っているのか、そして自分の金を無駄に投げ捨てるという、第三者から見れば馬鹿げている現象についてどう思っているのかを理解しようと試みた。…そこでは女性の身体が男性のカネに照らして査定される。次々と運ばれるシャンパンのボトルは…名声と男性優位のヒエラルキーシステムの中枢にある一種の儀式なのだ」(プロローグ)
VIP――グローバル・パーティーサーキットの社会学
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VIP グローバル・パーティーサーキットの社会学
2023/09/15 17:05
華麗なる浪費の世界の民俗学
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投稿者:天使のくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
モデルの経験もある社会学者のアシュリー・ミアーズ教授、イケてるルックスを生かして、次はクラブに潜入、という本。
若い世代の富裕層が集まるクラブというのがある。中心がダンスフロアで、周囲にテーブルがあり、VIPはそのテーブルを買って楽しむ。クラブにはモデルやそれに近いイケてる「女の子」も来ていて、一緒に遊んでいるのは楽しい、というかイケてる「女の子」がいることが、ステイタスとなり、満たされる。
「女の子」はどこからくるのかというと、プロモーターとよばれる人たちが集めてくる。高級クラブにはイケてる女の子がお客としていることで、お金持ちもやってくる。女の子たちに食事をごちそうし、シャンパンをふるまうということが重要。女の子がいれば、VIPはどんどんシャンパンを注文してくれるし、店の売上げもたっぷり。
とまあ、いわゆるパリピの世界とでもいうのだろうか。この世界が、どんな関係で成り立っているのか、民俗学という感じで、ミアーズ教授は潜入する。
モデル時代のつてを使って、プロモーターと懇意になり、イケてる「女の子」の一人としてクラブに入り込み、プロモーターや「女の子」のインタビューをしていく。ミアーズ教授は30代になったばかりだけど、ネットで写真を探してみると、けっこう童顔で20代でも通用するのは、まあそうだよな、と思う。大学教授が「女の子」してると考えるだけで、なんか痛快な気持ちにもなる。
ということなんだけど、内容はまじめな論文。富裕層の客がどんどんシャンパンをオーダーするのはポトラッチの世界。お金を浪費することが目的だ。
プロモーターのほとんどは男性。こまめに「女の子」の世話をして、昼食をごちそうし、夜のクラブに連れていく。クラブからは女の子を連れてきてくれたお礼が支払われるし、お金持ちの客がシャンパンを注文すればリベートもある。収入は悪くないけど、経費もかかりそうだ。所得の申告なんかはしていない。プロモーターはお金持ちと知り合いになることで、将来のビジネスを夢見ているが、現実になることはまずない。それに、プロモーターのほとんどは非白人であり、移民もいる。通常のルートでお金をたくさんかせぐチャンスは少ない。
「女の子」はというと、ニューヨークは家賃が高く、モデルの収入はわずかなものなので、住む場所を手配してくれるプロモーターはありがたい存在だ。
ここには、所得の階層があり、男女の格差もある。女性はルックスだけで評価される。
おもしろいのは、女性はお金を受け取っていないこと。とりあえずクラブで食事ができればいい。お金持ちとセックスすることもない。お金持ちにとって、イケてる女の子がそばにいればいいというだけのことだ。トロフィーガールにも近いかな。ただし、女の子とプロモーターが恋人同士になったりセックスしたりすることはある。まあ、そこでトラブルが起きることもあるとも。
女の子はいずれ卒業し、別の仕事につく。プロモーターはいつまでもこの仕事は続けられないと思いつつ、なかなかやめられない。
とまあ、ざっくりとVIPの民俗学という感じで、あまりこういうクラブは日本ではきかないなあと思いつつ、でもまあそれに近いクラブがあって、VIPルームもあるんだろうな、とも思う。よくわからないけど。知らないだけなのかな。
それにしても、シャンパンがもったいないなあって思う。
というわけで、ミアーズ教授も浪費の世界にはさよならをしたとのこと。お酒は飲むためにあるんだよな。