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3件
記憶喪失になったぼくが見た世界
著者 坪倉優介
18歳の美大生が交通事故で記憶喪失になる。それは自身のことだけでなく、食べる、眠るなどの感覚さえ分からなくなるという状態だった――。そんな彼が徐々に周囲を理解し「新しい自分」を生き始め、草木染職人として独立するまでを綴った手記。感動のノンフィクション!
記憶喪失になったぼくが見た世界
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記憶喪失になったぼくが見た世界
2011/11/09 18:53
立ち直る。
14人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
記憶喪失だったぼくが見た世界 坪倉優介 朝日文庫
衝撃的な内容です。18才の著者は、雨の中、原付バイクを運転中に駐車中のトラックに衝突する。10日間意識不明となったあと息を吹き返す。大声で叫んで暴れて、病室のベッドにくくりつけられたあと数日して、急におとなしくなる。意識が戻った彼は、自分がだれなのかわからない。家族に会っても相手が何者かわからない。18年間の記憶が消えている。字は読めない。物の名称も覚えていない。現象の意味を理解できない。実話です。最後まで、記憶はほとんど戻りません。
命の再生を語る物語です。周囲から奇異な目で見られるのが嫌で、だれにも会いたくない。親からみれば生きているだけでもありがたい。本人は、生き返るんじゃなかったと言う。本人の行動は異常です。母親の涙は尽きない。弟、妹はとまどう。父親の厳しくも適切な教育があり、作者は在籍していた芸術系大学を留年しながらも卒業し、運転免許取得後、車中泊で新潟から北海道までひとり旅をしています。そして、ひとり暮らしに挑戦しています。お米をお湯でといだ話には笑いました。就職を経て、着物の染物作家として自立されています。海外での学習歴もあります。「絵があってよかった」というひとことにはほろりときました。初期の作品では、たくさんの足跡も鳥も人間を表し、そこにひとつだけ反対の方向を向いている足跡や鳥の絵があります。反対を向いているのは著者自身の姿であり著者の孤独を表しています。
交通事故後の様子は、認知症の年寄りのようでもあり、知的障害者のようでもあります。列車の中の描写は知的障害者の行動と思考の説明を表しているようで障害者の気持ちがよく伝わってきました。ひらがなをようやく覚え、漢字の存在を知る。失った能力と引き換えに鋭い感性が与えられます。わからないことを徹底的に追求します。観察力が向上します。
自然が心を慰めてくれます。樹木や草木を素材にして布を染める職業に就かれました。退院後、人生をもう一度最初から始める。一日一日を過ごすことによって過去が形成される。その過去が増えるごとにだんだん心が落ち着いていきます。この本は子育ての本でもあります。今年読んでよかった1冊になりました。
記憶喪失になったぼくが見た世界
2020/10/08 17:58
純粋ですね。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:飛行白秋男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
解説の俵万智さんが書いておられますが、純粋な感情を持ち且つその感情を文章で表現できる作者、とても純な気持ちがよくわかります。
大事故から生還され、記憶喪失にも明るさで立ち向かわれました。ご両親の深く温かい愛情にも感動いたしました。
神は乗り越えられない試練は与えないのは本当なのでしょうか。
齋藤孝先生の著書で紹介されていたので即購入、短時間で読めますから皆さん必ず読んでください。落ち込んだ時や寂しい時、必ず笑顔にしてくださる明るい感動作品です。
記憶喪失になったぼくが見た世界
2020/07/28 00:35
これが記憶喪失か!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヤマキヨ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドラマでよくある記憶喪失の設定は、社会常識や日常生活に関する情報は保持していて、自分に関する記憶だけが出てこないというものでしょうか。自分の過去が思い出せずに苦しむ一方で、普通に生活は送っています。(そうでないとドラマにならないのでしょうね)
その記憶喪失のイメージから、筆者の記憶喪失は全然別物でした。状況を書くとネタバレになってしまうので、「日本語を忘れてなかったのがせめてもの・・・」という私の感想を上げておきます。
ドラマでは見知らぬ土地で、新しい“自分”として生きていくパターンですが、筆者は家族と記憶を取り戻そうとしながら、新しい記憶を積み上げていきます。この場合、これまで生きてきた記憶が「私の核心」なのか、新たな記憶部分こそがリニューアルした「核心」なのか。とても考えさせられました。