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13件
虫と歌 市川春子作品集
著者 市川春子 (著)
自分の指から生まれた妹への感情を綴る『星の恋人』。肩を壊した高校球児と成長を続ける“ヒナ”との交流が胸を打つ『日下兄妹』。飛行機事故で遭難した2人の交流を描く『ヴァイオライト』。そして、衝撃の四季大賞受賞作『虫と歌』。深くてフシギ、珠玉の4編を収録。
虫と歌 市川春子作品集(1)
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虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
2011/03/10 00:39
乾いた湿り気
14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:muneyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
俺が線が細い絵、あんまり好きじゃないのはそこに熱烈な思いの反映を感じられないからです。無論、漫画なんて所詮暇潰しだし、そんな疲れるの読みたくない、ってのも分りますが、せっかく時間使うならちょっと疲れるくらいのを読みたいのが俺。
しかし、書き込みが少ない、線が少ないから、思いが希薄であるというのは早計。
「デフォルメ」は世界を無理矢理シンプルに捕え直し、三次元の模倣では無い、二次元が二次元である事の優位性を探さなくてはならない、逆に知能と感性をフル回転させる作業なのです。
古くはトキワ荘、彼らが生み出した「漫画表現」を流用しつつ、8頭身のキャラが画面を走り回るのが現代の主流漫画表現でしょうか。
頭身は(理想的な)リアルに近いキャラクター達がこぼれ落ちそうな眼や一本線の鼻を装備してるのも変と言えば変。今こそ、ディズニー的、手塚的なデフォルメに立ち返ることで、漫画が漫画たろうとしてもよいんではなかろうか。俺が好きなウエダハジメ、西島大介はそうして立ち返りつつももっと可能性があるんじゃない?とゆるーく挑戦してる感じ。
前置きが長文化しました。
この『虫と歌』って漫画で初めて市川春子さんって人の漫画読みましたが、これはすごい。
頭身はすらっと少女漫画の理想形の如きですが、線のシンプルさが一筆書きかよ、って位簡素。簡素な線は作者の熱を排除して、共感・同情で泣かせることを拒絶し、読者の心にダイレクトにストーリーをぶつけることに成功しています。
内容。
四編の短編からなる本ですが、一貫してテーマは『人外が人を模倣する悲喜劇』。
そもそも模倣という行為はその対象以上には成り得ないという主観的悲劇・客観的喜劇を併せ持つものです。
昔からヒト以外のものがヒトになろうとする物語は世界中の人に愛されるテーマでした。
人魚姫しかり、雪女しかり。
なぜ愛されるか、それは分り易いからだ、と思います。
劇中人物と自分を重ね合わせた時、明らかに自分とは違う点がある。
劇中人物の独力でその違いを越えられない為に、自分の想定する結果とその行為にギャップが生まれ、笑いや涙が生まれるのです。ビートたけしも言ってましたよ、「笑いの源は差別」って。
『人外』にはその明確な自分との差異がある。
この短編集に登場する四人、いや人じゃないんですが、人と数えたい四組は皆自分が人ではない事を自覚しながらも、人を否定せず、人にそっと寄り添う。
テーマはすごく日本的というか、湿度の高い「泣ける」系なんですが、この春子さんの線と描き方はかなり乾いています。人物の心情を解剖学的に、下品に深く切り込んだりせず、あったことだけをサラッと描きだす。だから、喋る事・する事そのものが思想になり、読者の心にスッと沁み込む。読後感も非常に爽やかです。
俺の好きな話は『日下兄妹』。
言ってしまえば、うる星やつらから連綿と続く押しかけヒロインものなんですが、当初は単なる「違和感」が「妹」に成長していく物語。主人公はクーデレ。
「育てる」ってのはきっと誰にでも楽しいもので、その間の苦労を苦労と感じる割合によってその楽しさに個人差が出るものなんだと思いますが、知り、分ろうとし、分り合おうとした時、既に育ち切ってしまっているのが育成の常。
故に別れ。
何で顔も無い「ヒナ」がこんなに可愛く見えるんだろうか。
あちこちに散りばめてある「ギャップ笑い」もドロッとさせないことに一役買ってます。
「ああん やめて ごろうさん こんなところじゃおとうさまに」
「こっちにしなさい」
のやりとりなんか暖かさと同時にニヤリがもうね。
変な漫画じゃないよ。
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
2016/12/08 22:41
生きることはさびしいから少しのあいだ一緒に歩きましょう
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:休暇旅行 - この投稿者のレビュー一覧を見る
生きることはさびしいから少しのあいだ一緒に歩きましょう、そんな印象を受ける作品でした。
短編集。どれも、人と、人じゃないひととの、交わりの物語です。その交わりはとても深く、愛と呼びたくなるようなものですが、その裏には、人の側の(というよりもはや、作者の、と言いたくなってしまうのですが)、自分は他の人とは交われないという強い思いがあるのではないかという気もします。
だからそこから踏み出す「日下兄妹」が、この作品集の中で(わたしの見聞きしたかぎり、ですが)一番人気なのかもしれません。でも、出発点についていえば、これらの短編がどこまでも、さびしさから出発しているということ、それは記しておきたいと思います。きっとそのほうがこの本が必要な人に届くと思うのです。
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
2017/05/21 01:02
鋭い感性、個性的な絵柄。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:色鳥鳥 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長編『宝石の国』を読んだあと、あらためて読みかえすと、なぜ普通の家族の話じゃだめなのか、なぜSF的設定が必要なのかが、わかる気がした。傷つき方がみんなと違う。血は流れないし痛覚も鈍い。だけど人を求める、そんな物語だ。

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