- 販売開始日: 2012/06/01
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-113412-3
虚空遍歴(下)
著者 山本周五郎
江戸で行き詰った冲也は、浄瑠璃の本場、大阪で一本立ちしようと決意し江戸をあとにするが、上方でも無惨な失敗に終り、次第に深酒にひたるようになる。冲也はさらに北陸の金沢へと遍...
虚空遍歴(下)
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商品説明
江戸で行き詰った冲也は、浄瑠璃の本場、大阪で一本立ちしようと決意し江戸をあとにするが、上方でも無惨な失敗に終り、次第に深酒にひたるようになる。冲也はさらに北陸の金沢へと遍歴を続けるのだが……。おのれの人生を芸道との孤独な苦闘に賭けて悔いることのなかった男を通し、「人間の真価はなにを為したかではなく、何を為そうとしたかだ」という著者の人間観を呈示した長編。
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血みどろの苦悶。
2002/07/31 22:04
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投稿者:凛珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は冲也と、彼の音楽で何かが変わったという女、おけいの視点で進んでゆく。おけいは色事で包まれた半生を送ってきた女だが、冲也とその関係になることは無かった。二人は前世で一人の人間だったのだろうと確信する。兄妹のような関係だが、それは夫婦よりも強い関係ではないのか。実際、おけいは冲也の妻お京よりも、冲也に対して親身だった。だが、お京も悪い女ではない。冲也の姿はとにかく痛々しい。その痛々しさゆえに、冲也に奇妙に惹かれてしまうという感覚は、私という読者だけではあるまい。特に女性は。
多くの人々に愛され、その人の心にまで影響を与えるような優れた端唄を作りながらも、冲也はそれを否定した。だが、端唄が悪くて浄瑠璃が正しいということがあろうか。人々に愛される端唄を自分から全否定したところに、冲也の過ちがあったのだ。勿論、浄瑠璃を目指すことが悪いことではないが、端唄を否定することは無かった。冲也には浄瑠璃の才能があったのかどうかも分からない。結局、彼は血みどろの苦痛にのたうちながらも、何も為すことは出来なかった。
山本周五郎はこの作品で「人間の真価は何を為したかではなく、何を為そうとしたかだ」という考えを証明したという。その考えには、「マラソンで幾らトップを保持していても、ゴールの1メートル前で倒れてしまえば何にもならない」という反論が上がるだろう。だが、何を為そうとしたかという姿勢が評価されれば、決してその姿勢は無駄ではないと思う。