第140回直木賞候補作ですが
2019/11/09 08:22
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
葉室麟さんが2008年に発表したこの作品は第140回直木賞の候補にあがった。
しかし、選考委員の評価は厳しく、受賞には至らなかった。
選考委員の選評を読むと、「読み進むうちに(中略)登場人物もむやみに増えて印象が散漫になってしまった」(阿刀田高)「中盤からいささか書き急ぎの感」(宮部みゆき)「少々小説が散漫過ぎた」(林真理子)と、これでは受賞は遠い。
もっとも厳しいのが井上ひさし氏であろう、「主筋がたえず横滑りを起こし、時の前後さえ判別しがたくなる。とても読みにくい。」とある。
これらの選評は決して外れている訳ではない。
確かに登場人物が多いし、中盤以降の進行はむやみに早い。
この作品の主人公雨宮蔵人とその妻咲弥の物語はこれだけでは終わらない。
『花や散るらん』(2009年)『影ぞ恋しき』(2018年)の三部作で完結することになる。
つまり、この作品は大長編の序章に過ぎないのだ。
だから、登場人物が多いのも「主筋がたえず横滑り」をするのも、葉室さんの中では考えた上でのことかと思われる。
ただこれが大長編の序章であったとしても、作品として完結させるのであれば、もっとじっくりと腰を据えるべきであったと思う。
宮部氏がいうようにあまりに「書き急ぎ」を感じる作品になっている。
葉室さんが『蜩ノ記』で直木賞を受賞するまで、まだ3年あまりある。
追悼 端正な小説
2018/01/28 13:25
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投稿者:うみしま - この投稿者のレビュー一覧を見る
葉室麟さんの小説は、いつもどこかに凛とした佇まいが貫かれている気がします。咲弥のみならず、描かれている他の登場人物も皆それぞれに一本筋の通った人物です。それでいて、どんな人物にも情があるという、当たり前ですが中々描写すると矛盾しそうなところをまとめておられます。この本には、水戸つながりで、「光圀伝」からたどり着きましたが、以前雑誌で読んだ葉室さんの他の小説同様、人物が鮮明に胸に残りました。もっともっと、このような登場人物に出逢いたかったです。心よりご冥福をお祈りいたします。
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投稿者:aoringo - この投稿者のレビュー一覧を見る
一時期時代小説に嵌まり買い漁っていましたが、こちらはなかなか読み進められずそのまま数年放置していました。本の整理中に見つけ再び読み始めました。今度こそは最後まで読みきりたいです。
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蝉しぐれ以来の純愛ものと解説している。
強いけど初心で純な主人公蔵人にとても惹かれる。
時代小説なればこその純愛も魅力的である。
現実逃避には申し分のない作品だ。
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骨太の時代小説で清冽な恋愛小説。余韻。
蔵人は「天地に仕え、いのちに仕えるのが武士である。いのちに仕えるとは死すべき時に死に、生きるべき時に生きる命を受け止める。」 という武骨な武士。妻咲弥は「これこそ自分の心だと思う歌を教えろ」と迫る。
読者は、物語の展開よりも登場人物の心理をもっと掘り下げて欲しいのに、そこは淡々と描写し読者が想像し考えるようにしていて、多少いらいらする。わざとだとすると汚いな~。
ラストシーンは、途中から分かっているが再会では泣いてしまう。しかも、またまたあっさり描き過ぎ。北方謙三なら5ページのクライマックスにもっていくぞ!また、これが葉室麟。
最後に、武士道を描いた『葉隠』の前日譚になっている。
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願はくは花の下にて春死なんその如月の望月のころ
この西行法師の和歌は私も好きです。そして
この物語を読んで
春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり
詠み人知らずのこの和歌も好きになりました。
蔵人さんの生き方はその時代にはなかなかはまらない生き方ではなかったかと思いますが、変わることなく生き切った彼を尊敬します。
光圀だけでなく、介さん角さん八兵衛に矢七らしき人まで出てくるのには驚きました。モデルになった人がちゃんと居たということですか。
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五代将軍徳川綱吉の時代を舞台に、戦国の世から続く鍋島と龍造寺の確執や島原の乱での因果、鍋島と水戸や将軍家と禁裏の関係など政局を交えて描き出されるある武家夫婦の純愛ものがたり。
再婚の妻に「自分の和歌を見つけられるまで寝所を共にしない」と云われた武骨な夫は、ただひとつの自分の和歌を妻に返すため生き続ける。
春ごとに花のさかりはありなめど あひ見むことはいのちなりけり
この和歌に託された筆者の、「武」と「雅」の融合がすばらしいと思います。
個人的には物語に関わった史実が多いため少し登場人物が雑多とした感があるかな。
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鍋島藩士・山本常朝の談話を田代陣基が筆記した『葉隠』に、恋いの至極は忍恋と見立申候、とあるそうだ。まさにそうした純愛の時代小説。
天源寺家の婿入りとなった雨宮蔵人。祝言の夜に、歌学二条流の伝授を受けた才色兼備の咲弥からこれぞと思う和歌をあげてもらいたいと、それまでは寝床を共にしないと言い渡される。さらに、小城藩の鍋島元武からは咲弥の父親を斬れと命令が下される。
水戸藩と鍋島藩の関係、幕府と朝廷、島原の乱の天草四朗などの話を織り交ぜながら主人公・蔵人が17年もの歳月を経て艱難辛苦を乗り越え約束を果たそうとする・・・。
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全1巻。
今年の直木賞とってた作家さん。
後半まで読んで純愛小説だったことに気付く。
和歌をテーマにしてるけど、
武士の物語なので、なよなよはしてない。
「雅」と「武」のバランスが絶妙で、
ドキドキしながらも美しい。
べたっとしたチャラい恋愛ものって感じは無く、
キレイで硬質な純愛物語。
おっさんがグッとくる。
「蔵人殿は恋をしてござるゆえ」とか、もうね。
あいかわらず登場人物の名前とか説明とか
丁寧すぎて逆に煩雑な感はあるけど、
この作家さんになれてきたのでそんな気にならず。
ただ、最後の方少し蛇足な感はある。
役所広司とかで映画化されそうな感じ。
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これまたすごくよかった〜!「秋月記」に続き、葉室麟の「もののふ」ものを読みましたが、非情に面白かった!今回は、故あって新婚数ヶ月の妻と17年も離ればなれになってしまう武士が、妻に一首の和歌を届けるために、ただひたすらに生きて行くお話。とはいえ、腕がたつ上に、藩の重要な秘密を知ってしまっているから、いろいろと困難に巻き込まれるのだけれども。葉室麟のもののふ系の主人公は皆、忠義もので、剣の腕が立ち、無骨で一本気なのだけれども、この主人公雨宮蔵人もご多分に漏れず。本当に一気に読んでしまった。葉室麟をすべて読んでしまうかも。ハマった。
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重臣を手討ちにしたところから始まり、水戸黄門てこんな人だった? という興味で惹きつけられた。 一つの和歌を求め続ける佐賀鍋島家のはぐれ剣士の純愛を 綱吉の時世にうまく取り込んで小気味よく展開していく。
ラストは 一本勝ちですっきりという感じで納得。読後感は 非常に晴れ晴れしたもの。恐れ入りましたと脱帽のストーリーです。
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良質の大衆小説。
ただ巻末解説者が吠えるほどの出来ではないんでは?
別に直木賞を崇め奉る訳ではないが、少々輪郭が弱い感がある。
良い娯楽小説というのは骨太で分かり易い(決して単純という意味ではない)ストーリーに加えて、その輪郭の鮮明さを併せ持っているものと思うのだが、この作品は特に後者が弱いかな?
その結果、ストーリー展開が少々脇甘になってる気がする。
とまぁ少々辛口になりましたが、面白いので一服したい時には悪くないと思う。
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歳月の重みと生きていくことの切なさ、そし て命への慈しみが感じられる和歌とともに 綴った良質な歴史時代小説。史実である大日 本史を巡る光圀と綱吉の確執。その渦に否応 なしに巻き込まれる二人のうら若き夫婦。無 学だが自らの考えと行き方の間に少しも揺ら ぎがない蔵人とぶれない自分らしい生き方を する咲弥。静謐な恋、矜持そして覚悟をしっ とりと描く。 雨の降る日、濃いめの珈琲の お供にお勧めでーす。
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「光圀伝」と同様、水戸光圀が藤井紋太夫を刺殺したところから始まる小説と知り、読み始めた。やはりこの事件から物語がすぐに繋がるわけではなく、ひとりの男の婿入り話から始まる。
小城藩の重臣天源寺家の娘婿になった雨宮蔵人。一見愚鈍な大男に見えるこの男を、父刑部(ぎょうぶ)がなぜ自分の夫にしようとしたのか、咲弥にはわからない。和歌に精通した夫に先立たれた咲弥は、自身にも和歌の素養がある。いかにも教養のない蔵人に、これぞと思う和歌を一首教えてくれるまで寝所はともにしないと言いわたしてしまう。言われた蔵人は、誰かに簡単に教えを請うこともせず、真面目に咲弥に伝える和歌を考えているうち、陰謀に巻き込まれる。
一見鈍牛である蔵人がさまざまな思惑の中で活躍するのだが、この男見かけによらず察しがよく、自らの苦を厭わず奔走する。身分や地位にこだわらず、慎ましやかに学び、生きて行く。何度も命を狙われ、読者としてもここでもう駄目だろうと何度も観念するのだが、蔵人は生き延びる。恐らく相当剣も立つのだろうが、自分はもう死んだ身と達観し、なるべく他者を殺めないように動くその姿に、神や仏が味方しているようにも見える。
そして咲弥との必然とも言える本当の出会いと、死にかけながらもずっと唯一の和歌を探し続ける姿に、胸を打たれる。そしてやっと17年目にして二人は出会い、和歌を告げることができるのである。愚鈍に見えながらひたすらに咲弥を想い続け、ついに本懐を遂げる蔵人に、心から安堵の吐息を漏らしてしまった。彼を生かし続けたのは、他ならぬ恋心だったのだろう。殺伐とした悲しい結末も少なくない時代小説で、ふたりの恋の道行きの成就は、本当にうれしかった。
それを水戸光圀やその家臣佐々宗淳、小八兵衛などがいいタイミングで助けるのも心憎い。まるで「水戸黄門」のドラマのような鮮やかさ。脇を固める敵役もキャラが立っている。
痛快な部分もありながら、葉室麟の筆致は花のようにやさしい。一見こんな起伏に富んだ筋書きが続いているとは思えないほど静謐な語り口に、いつも騙されてしまう。読みやすく、いつのまにか物語の中に引き込まれ、抜き差しならないところまで来てしまう、という印象を受ける。蔵人が見かけ倒しだったのと似ているかも知れない。
どうやら「花や散るらん」が続編らしい。ええ、きっと読みますとも!
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故あって婚礼の夜に咲弥から出された難題、「人生の和歌を」を見つけるために、生きていく雨宮蔵人。
腕が立つ上に藩の秘密を知ってしまい、様々な困難にあっていく。
そして17年の月日ののちに、みつけた一句
春ごとに 花のさかりはありなめど あひ見むことは いのちなりけり
佐賀鍋島藩といえば、葉隠である。
葉隠といえば、「死ぬこととみつけたり」である。
しかし、この一人の鍋島藩士がたどり着いた答えは、「いのちなりけり」。
爽やかな小説だった。