新版 発心集 下 現代語訳付き
著者 著者:鴨 長明 , 訳注:浅見 和彦 , 訳注:伊東 玉美
鴨長明の思想が色濃くにじみ出た仏教説話集。不安定な心を安定させるために求めた境地は、方丈記の無常の世界観とともに現代人の生き方に大きな示唆を与えてくれる。現代語訳のほか解...
新版 発心集 下 現代語訳付き
05/01まで通常979円
税込 490 円 4pt商品説明
鴨長明の思想が色濃くにじみ出た仏教説話集。不安定な心を安定させるために求めた境地は、方丈記の無常の世界観とともに現代人の生き方に大きな示唆を与えてくれる。現代語訳のほか解説・年表・索引を付載。
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迷いを滅し得た先人の例に救われた証の『発心集』
2024/05/12 16:00
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
京都下鴨神社所縁の神官の家系に生まれた鴨長明が仏教説話集を編んだ事実は意外な感がする。だが、「神」に見捨てられた我が身を歎いて遁世出家した人物と知ると、世に遍き仏縁機縁物語に心惹かれたことにも納得がゆく。
本地垂迹など神仏習合が進み、神官を震撼させる神仏の同居並存が何の不思議もなく受容され尊ばれた時代、神の御姿を借りた仏や菩薩が衆生済度に立ち現れる有難さ、これに勝るものは無い。
子供の頃に観た憤怒の形相で悪人を成敗する「大魔神」も、仏の守護神たる帝釈天や毘沙門天、あるいは不動明王に仮託した姿かも知れぬ。十字架にかかるイエスも時系列で見れば仏の垂迹現成に過ぎぬと言えば、欧米人は皆なぶっ魂消るだろう。
閑話休題。
さて『発心集』だが、人間の業(ごう)を改めて考えさせる説話が多い。輪廻転生を説く仏教では、因果応報とか果報とか、善生悪生、此岸彼岸(現世・あの世)、三悪三途(地獄道・餓鬼道・畜生道)とか、おどろおどろしきこと限りない。
悪行を誡め、善行(徳)を勧めるが、忌々しいことに人間は現世欲の宿業に囚われ易い。勧進聖人や阿闍梨も、肝心な執着心断念のために水瓶や梅樹を破壊して漸く破戒僧たるを免れた。
往生際が悪いとは言い得て妙だが、天狗と化す念仏僧、入水後に物の怪となる聖、長明の夢に現れる無言の故人、いずれも未練や無念を抱えて成仏(極楽往生)できぬ男たちだ。
女もまた、妬みから両の親指が蛇に変わった年上妻だの、夫を慕う妻の死後霊が寝所に現れ元結を落とすだの、実子の酷い仕打ちに母が憤死するだの、凄絶な逸話が並ぶ。
「無常」と*「数寄」を出離解脱の拠所とした長明が、道心を起こして迷いを滅し得た先人の例に救われた、そんな証が『発心集』なのだと実感した。
巻頭に読み下し原文と脚注を置き、真ん中に詳しい補注を付し、巻末に現代語訳文を載せた構成で、無理なく読ませる本書の工夫が嬉しい。
* 『発心集』下巻(第六、説話九)45頁参照