夢を手放しかけた青年の覚醒
2015/09/16 09:28
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投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤間響介の音楽を変えたのは、十年前のフォルテの重音だ。東亜音楽コンクールヴァイオリン部門本選で聴いた、ブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調第三楽章、樋山ゆかりという3歳ほど年上の少女が響かせた、規格外の音に、音楽の可能性を見せつけられたのだ。だが現実は、帝真音大ヴァイオリン学科を卒業しても、藤間響介にプロオケの就職先はなく、これまで多大な援助をしてきた父親にも見限られてしまった。
そんな彼のもとに、叔父で楽器商の藤間薫から、竜ヶ坂商店街フィルハーモニーというアマオケがコンマスを募集しているという話を持ってくる。公民館というバイト先もセットになっており、行くあてもない響介は、叔父から借り受けている愛器のカルロ・ランドルフィと共に、その寂れた町へと向かった。
そんな彼を迎えたのは、一之瀬七緒という、車椅子の女性だった。車椅子とは思えないとてつもない行動力を見せつける彼女は、響介のコンマス就任試験だと言い、とある課題を出す。実は常任指揮者である彼女の、指揮者としての天才的な才能を見せつけられた響介は、竜ヶ坂商店街の人々との交流を通じ、彼女のタクトにぶつける自分の音楽を見つけ出していくのだが…。
トランペットの首席奏者である81歳の増田源次郎と孫の吹子の確執、和菓子屋の未亡人・畑山彩花が抱える息子・和樹に対する不安、元コンミスの野村美咲が父親に抱く心残り。そんな様々な気持ちのズレを、七緒に導かれるように、響介は音楽を使って調律していく。そしてその果てに、ドラフィルを創設した城英音大の元学生にまつわる音楽の呪いを解く役を担うことになる。
子どもの頃から音楽一筋に打ち込んできたにも拘わらず、才能がないことで音楽の道に残れなかったと思っている青年と、突然の事故でそれまでの音楽の道を奪われたにも拘わらず、折れずに自分の音楽を貫こうとする女性の出会いと成長を描く物語だ。
才能というのは確かに存在するけれど、それが左右する領域まで人と引き上げるのは、ただひたすらに努力し続けられることだと思う。そのことに気づいて実行できるならば、大概のことは成し遂げられると思うのだ。…もちろん、それでは届かない領域というのも確かにあるとは思うけどね。
本書は四章構成になっているのだが、各章の構成が巧みになされていると思う。そしてそれを一つ一つ積み上げていくと、全体を解き明かす構成になっているのだ。尤も、全体の方は各章の構成に比べれば、少し劣る気もするけれど。
音に魅了され、音に縛られ、音に傷つけられ、それでも音を手放すことが出来ない人々を、音の聞こえない文字で上手く表現している気がする。まあ、登場する曲を知っている方がより伝わりやすいとは思うので、どこかで聴いてみるのも良いだろう。
「音」の足りない音楽
2013/01/24 00:59
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投稿者:にい - この投稿者のレビュー一覧を見る
どこにでも居そうな濃い人々と、趣味であり人生でもある音楽
それぞれの悩みを解決して仲間を増やしていく、黄金パターンですね
オーソドックスで読みやすく、このままドラマに出来そう
「音」の描写が弱いのが残念
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数少ない音楽ものでオーケストラの話という事で購入しました。
思っていた以上に丁寧にオケ内の描写がされているし、クラシックネタもてんこもり。アマオケの経験がある私には実に美味しい一冊でした。
できれば、続きも出していただきたい!
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音大を出たけれど音楽で食べる当てのないヴァイオリニストの青年・響介。
叔父の伝手で行き着いた先は竜が破壊の限りを尽くした―と思える程に何もない町、竜ヶ坂の商店街の有志で構成されたアマチュアオーケストラだった。
激烈個性的な面子で構成されたそのアマオケを仕切るボスは、車椅子に乗った男勝りの若い女性、七緒。
彼女はオケが抱えている無理難題を半ば強引に響介へ押し付けてきて―!?
竜ヶ坂商店街フィルハーモニー、通称『ドラフィル』を舞台に贈る、音楽とそれを愛する人々の物語。
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オーケストラを知らなくても楽しめた。曲の演奏も含めて、聴いたら相乗効果すごいだろうなぁ(まずはドラマCD化からでも)。
七緒の嘘吐きの使い所が巧いなぁと。七緒の父親も読者に想像が付くように作られていると勝手に思っています。続編があるなら読みたい。
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2012 4/23読了。WonderGooで購入。
馴染みの書評ブログで紹介されていたので手にとって見た本。
プロオケに職を得られずくすぶっていたところ、叔父の紹介で公民館の非常勤職員として働きながら商店街がまちおこしのためにやっているアマオケ・竜ヶ坂商店街オーケストラのコンマスとして迎えられたヴァイオリニスト・響介と、同じく公民館の非常勤で、車椅子を全力で引き廻しつつパワフルに振る舞う指揮者・七緒を中心に据えた、オーケストラと商店街の人々のお話。
読み始めたら割りとすらすら読めるのがいいところ。
音楽を扱う創作全般に共通で、特に実在の楽曲が出てくるとそれを聞きたくなるけどすぐに聞けない環境にいるともやもやするのはまあ致し方なしか。
面白かったのでこの作者さんの他の話も手を出してみるか検討する。
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プロバイオリニストになれなかった音大卒の主人公がアマチュアオーケストラで輝く話。正直、音楽を少しだけかじった身としては、共感できすぎて笑えない部分も多かった。話の流れ自体は悪くないけど、途中から展開が読めてしまったのでもう少し捻りあるもののほうが良かったかな。あと、この本は劇中に色々なクラシック音楽が登場するので、それを聞きながら読めると尚楽しめそうな気がした。
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クラシック音楽はまったく無知だけど、興味だけはあって手に取った作品。
すごく面白かった!
中盤は若干だれたり、展開がみえみえだったりしたけど、そんなもんどうでもよくなるくらい演奏のシーンが素晴らしかった。
序盤の七緒の指揮に引きずられるシーンと、ラストの本番のシーン。
どちらも場面がはっきりと思い浮かび、曲まで聞こえてきたかと思えるほどでした。
また、終盤にかけて印象的なセリフもちらほら。
引用したセリフは場面とも相まって、鳥肌物だったね。
作者の音楽への愛が満ち溢れた作品。
僕みたいに音楽に無知な人でも十分に楽しめるけど、特にクラシックに携わってきた人に読んでもらいたいな。
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話の展開は途中で読めたので置いておく。
最初の指揮と、ラストの演奏シーンはなかなか。音楽はあまり詳しくないが、引き込まれるものがあった。
文章や構成にもう少し磨きがかかったら…
本業持ちの方相手にそれは酷な話かもしれない。
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芽が出ないがさりとて音楽で飯を食うことがあきらめられないヴァイオリニストがアマオケコンマス兼公民館職員になって、曰くありげな車椅子の女性や団員と出会い、さまざまな呪縛から解きほぐしたり解きほぐされたりする物語。
ヒロイン格の口が悪い七緒や、個性的な商店街の人々が魅力的。
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音楽には魔物が住んでいる。
ありがちなテーマ、ありがちな文体なのに割と引き込まれる本でした。
軽い印象を受けますが、挿絵などがなく登場人物・舞台設定・音楽など想像がふくらんでとても気持ち良かったです。
ストーリ:
落ちこぼれ音大卒生(フリーター)と車イスの女性が、地域活性化を目的としたオーケストラで奮闘する…
久しぶりに好きな本を読めてすっきり!
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商店街の町おこしを目的としたオーケストラがメインの人情もの。
出てくる登場人物が個性的で、ドタバタ感がまた楽しい。
ドラマ化やアニメ化もできそうだと思う。
基本的に読みやすい文章ではあるのだが、台詞の後にくる地の文章で気になるところがいくつかあった。
そこさえなければ、突っかからずスラスラと読めたのだが、私が慣れていないせいだろうか。
出てくる曲名は、誰しも聞いたことがあるだろう作品ばかり。
作者のブログに飛べば、その曲の動画を見ることができるので、気になった方は見に行ってみるといいかもしれない。
私はそのことに気づいたのが読了後だったため、気になったらすぐネット検索して聴いていたのだが。
音楽に関しての専門用語はそれほど出てこないし、出てきてもきちんと説明がある。
音楽が好きな方なら尚更楽しめるが、そうでない方でも立ち止まらずに読めるだろう。
物語後半に出てくる「贖罪」のお話。
それほど重くする必要はなかったのでは・・・と思うところもあった。
だが、そういう背景があったからこそ、最後の演奏会が輝くのだろう。
とても引き込まれる描写で、映像としても見てみたいと思えた。
2巻も機会があれば読んでみたい。
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商店街オーケストラ人情物語。
最後がちょっと曖昧でもやもやと気に掛かるところが多い。
結局二人はその後どうするのか。
色々と疑問が残る部分はあるけれど、良いお話でした。
追記:WEB書き下ろし小説。陽菜ちゃんがとっても可愛かったです。
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MW文庫らしい良作。
実写映画化でもすればいいんじゃないかなってくらいの
王道展開と完成度。
丁寧過ぎる伏線が故にオチが読みやすく、
意外性をあまり感じないのは残念ですが、
ヒントが出るたびの「あ、なるほど」感もイイし、
答え合わせもそれはそれで楽しかったw
メジャーな選曲でクラシックそんなでも読みやすいだろうし、
だからこそクラシック好きな人とかにはどーなんかなとは思う。
でもこのお話は「音楽物」としてではなく「人情物」として読むべきかな?
なんかあったかい感じの余韻が素晴らしいと思います。
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【読了】美奈川護「ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄」 8月5冊目
8月の5冊目は、4冊目の「おやすみラフマニノフ」からの音楽つながりで、美奈川護の「ドラフィル!」を選択。美奈川さんの作品は「特急便ガール」シリーズ2冊を読了済み。
さて物語は音大を卒業したはいいが、就職にあぶれたヴァイオリニストが叔父のつてで公民館のアルバイトを始める。その町にはアマチュアオーケストラがあって・・・という作品。
「特急便ガール」シリーズにも見られるような人情もの、ヒューマンドラマ的なショートストーリーが積み重ねつつ、全体を貫く一本の軸みたいなのもしっかりとある。音楽的な描写は、専門性のある表現が用いられるも、それほどクドくもなく、ほどよい味付け。
1冊だけ読んだ状態でも、この商店街に住まう人々の姿がリアルに感じられてとても楽しい。少しばかりのミステリー的な要素もあるし、伏線をちりばめているのも見事。意外性はないが、完成度は高い。
さてドラフィルの今後はどうなるのか。続きを読みたいと思わせる1冊。