円生と志ん生
著者 井上ひさし
関東軍の慰問に行けば、白いゴハンは食べ放題、おいしいお酒は呑み放題。そんな話にのせられて、敗色濃い1945年に満洲へ渡った二人の中堅落語家がいた。五代目古今亭志ん生と六代...
円生と志ん生
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商品説明
関東軍の慰問に行けば、白いゴハンは食べ放題、おいしいお酒は呑み放題。そんな話にのせられて、敗色濃い1945年に満洲へ渡った二人の中堅落語家がいた。五代目古今亭志ん生と六代目三遊亭円生である。6月、7月は満洲各地の巡回慰問で絶好調。ところが8月の敗戦で、さっさと逃げた軍に置き去りにされ、大連まで命からがら落ちのびて長の足留め――。芸風・性格は正反対の両名が苦楽を共にし、ついに認め合う仲に。のちに名人と呼ばれた二人が戦後の混乱期の二年近くを生き抜いた中国大連で見たもの、経験した現実とは。歴史の影に隠された真実を鮮やかに描く傑作評伝劇。
目次
- 第一幕 一 松っちゃんと孝蔵さん/二 桃太郎気分でネ……/三 追い出し/四 文化戦犯/五 行方知れず/六 火焔太鼓/第二幕 七 孝蔵出帆/八 祈り/九 再会/十 エピローグ/あとがきに代えて
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そこがえらい
2005/09/12 23:54
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
井上ひさしによる今回の戯曲は二人の落語家を主人公にしたもので、舞台は終戦直後の満州である。二人の落語家、円生と志ん生といえば落語好きな人にはたまらない名跡だろうし、落語を知らない人でも和田誠が描いた名人の似顔絵をみればなんとなくははんと思い出すにちがいない。落語家が主人公だけあって、今回も井上流の言葉の遊びがふんだんに楽しめる。
言葉の遊びと書いたが、井上は決して日本語を粗末にしているわけではない。むしろ井上ほど日本語の豊かさを認識している作家は稀有である。豊かであるから言葉を縦横に使って遊ぶことができる。そんな井上によく似た大作家がいる。明治の文豪夏目漱石である。まだまだ日本語が未熟であった明治という時代にあって、漱石は語り言葉である落語の力をきちんと把握していた。
井上のこの戯曲でも紹介されているが、漱石は『三四郎』の中で落語家三代目柳家小さんをこう評した。「小さんは天才である。あんな芸術家は滅多に出るものじゃない」と。そして「彼と時を同じゅうして生きている我々は大変な仕合せである」とまで書く。では漱石は小さんのどこに魅力を感じたのか。先の文章に続けて。「小さんの演じる人物から、いくら小さんを隠したって、人物は活溌溌地に躍動するばかりだ。そこがえらい」と。さすが漱石だけあって落語家を芸術家とまで言わしめる、明解な理由を示している。
実はこの『三四郎』でこの小さん評に先立って、興味ある記述がある。主人公の三四郎が故郷の母に手紙を書く場面だ。漱石は書く。「母に言文一致の手紙をかいた。−学校が始まった。これから毎日出る。」今ではごく当たり前のような手紙の文面を、漱石はあらためて、言文一致とことわって書いた。漱石はそのようにして日本語の、しかも生き生きとした言葉の躍動感にこだわった作家である。井上の作品も漱石同様に日本語へのこだわりが垣間見える。だから、登場人物たちは「活溌溌地に躍動するばかりだ」。漱石流に言えば、「そこがえらい」のである。井上の作品に小難しい理屈はいらない。日本語が持っているリズムを、日本語が醸しだすおかしさを堪能すればいい。そんな言葉を、大切にしたいと学べばいい。
この組み合わせ、面白くないはずが無い
2006/01/21 16:16
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和の落語名人、五代目古今亭志ん生と六代目三遊亭円生を主人公に、井上ひさしが書いた戯曲、面白くないはずがあろうか。
内地では食えないため、満州へ巡業に出かけた二人が、昭和20年8月15日の敗戦とともに侵攻してきたソ連軍により、遼東半島の先端の大連から帰れなくなり、食うや食わずと苦労する話。
読みはじめると期待するほどは面白くない。おかしいな、と思いつつ読み進めると、さすが現代の戯作者、やはり面白くなる。第二幕九場における、二人の小咄のやりとりと、それを盗み聞く修道女見習い達の聖書の文句との、言葉の対応付けが傑作。さすが言葉の魔術師、よくぞ落語と聖書とを対比させられるものだ。こじつけといえばこじつけなのだが、滑稽でおかしみがにじみでてくる。実際に芝居を見ると、もっと面白いのではなかろうか。単に面白いだけでなく、庶民の優しさと、権力者におもねる弱者(一般人)のいやらしさにたいする、さりげない皮肉などの、薬味も効いている。
笑いで乗り切る
2017/09/29 11:57
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
稀代の落語家ふたりが力を合わせていくところが面白かったです。極限状態の中でも、ユーモアセンスを忘れない姿には胸を打たれました。