ヘブンメイカー
著者 著者:恒川 光太郎
気が付くと殺風景な部屋にいた高校二年生の鐘松孝平。彼は横須賀にむかってバイクを飛ばしている最中に、トラックに幅寄せされ……その後の記憶はなかった。建物の外には他にも多くの...
ヘブンメイカー
商品説明
気が付くと殺風景な部屋にいた高校二年生の鐘松孝平。彼は横須賀にむかってバイクを飛ばしている最中に、トラックに幅寄せされ……その後の記憶はなかった。建物の外には他にも多くの人々がおり、それぞれ別の時代と場所から、「死者の町」と名付けられたこの地にたどり着いたという。彼らは探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。一方、片思いの相手を亡くし自暴自棄になった大学生の佐伯逸輝は、藤沢市の砂浜を歩いていたところ奇妙な男に勧められクジを引くと――いつのまにか見知らぬ地に立ち、“10の願い”を叶えることができるスターボードという板を手渡された。佐伯は己の理想の世界を思い描き、異世界を駆け巡ってゆく……。興奮と感動をよぶ、渾身のファンタジー長編!
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
小分け商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この商品の他ラインナップ
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
全能の神、その視座を手に入れる機会
2019/10/04 22:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『スタープレイヤー』の続編だが、作中時間は四半世紀以上も遡る。なお、どちらからお読みになっても問題ない。
大学生の佐伯逸輝が綴る「サージイッキクロニクル」、死の記憶を留めたまま二度目の生を与えられた鐘松孝平、佐伯が旅の途中で出会ったレビ、殺人を働き日本から転生させられた二階堂恭一。
多数の人物の視点からなる複層的な構成は作者ならでは。容易に解けない厚みのあるファンタジー世界を構築している。
文庫版の解説では大森望が、宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』を挙げているが、テリー・ブルックス『ランドオーヴァー』シリーズ、DWジョーンズ『ダークホルムの闇の君』、小野不由美『十二国期』シリーズも挙げておきたい。
愛妻を亡くし失意のどん底だった弁護士のベン・ホリデイと、漠然とだが検事を目指していた佐伯が重なって見える。
眼前に現れた異世界、遠大な砂漠から始まり移動距離は相当なものと推察される。
給油回数や道程の所要時間から逆算すると相当に広大だが、短編並みに挿話が圧縮されていることもあり、遠大な行程ながら距離感が掴めづらい部分がある。
さらなる長編に化ける可能性も感じさせるが、短編を得意とする作者でもあり惜しい部分だ。
死者の町「ヘブン」で新たな生を与えられた人々。
若く発展途上の町は未知の世界への畏れ、一方で新しい社会を築く活気に満ち満ちている。
現代の利器も持ち込みつつ独自の発展を続けるレゾナ島、他方で大陸に位置するイストレイヤは、多くの民族・部族を抱え未だ暗黒世界の臭いも強い。
虚構の聖典と聖存在(二十四神は十二神将から?)、作中の時間よりはるか古い祖を持つこれらもスタープレイヤーの創造に違いないだろうが詳細は明かされない。
「希望の鍵」なる隠喩は、「ノーゲーム・ノーライフ」的なカードゲームと、精神医学の権威M・セリグマンが提唱した「学習性無力感」を挙げてみる。
著作『オプティミストはなぜ成功するか』で「立ち直るためのカギは希望である。」と言った言い回しがある。平易な読み物も多くお時間があればご覧頂きたい。
成長していく人々と変わることを拒む人。その移ろいと機微が簡潔ながら丁寧に書かれているのだが、やはり駆け足で追従が難しい部分もある。時系列と章段構成が綿密なだけにもったいない。
終幕で佐伯が犯した致命的ミス、忘却の寸前で「なにが本物か」を悟った彼の悔恨は『滅びの園』の着想にもつながったようにも見える。
あらゆる事象を見通せる読者、フルムメアの代理を務めたご気分はいかがだろうか…。