読割 50
電子書籍
東京日記 卵一個ぶんのお祝い。
著者 川上弘美 著
「四月某日 六年ぶりくらいに、お医者さんに行く。はりきって、よそゆきのブラジャーをしていく。」…… 不思議におかしく、あわあわとした、カワカミ・ワールドの日常生活記。
東京日記 卵一個ぶんのお祝い。
卵一個ぶんのお祝い。 (東京日記)
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紙の本
風邪に効く(かもしれない)本
2005/10/16 18:12
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
風邪をひいた。こんこん、咳がでた。咳の都度体温がじわっと上がっていくようで、いやだなぁと思っていたら、どーんという感じで風邪にまとわりつかれ、仕事を休んだ。最近疲れていたから、と自身に言い聞かせるようにして布団にくるまっていた。TVもつけず、新聞も開かなかった。川上弘美さんの『卵一個ぶんのお祝い。』があったので、少し読んでは眠り、起きては少し読んだ。読むたびに、風邪の熱が少しずつ剥がれていく感じがした。
本って一体何だろう。時々考える。情報源だとしたら、風邪で寝込んだ日の私の唯一の情報源が、この『卵一個ぶんのお祝い。』だったことになる。五分の四くらいの本当が書かれた日記みたいなこの本でどのような情報を得たかというと、オクラの気持ちになるにはみどりっぽい気分が必要だとか、母親に「かならずたすけます」という手紙を書く子供がいることとか、どうでもいいことばかりだ。でも、風邪をひいた頭には絶句したり、嘆息するような情報よりも、このどうでもいいようなことがちょうどよかった。
□さらに本って何だろうと考える。本が愉楽だとすれば、蕁麻疹がでるほどの強さもなく、蚊の足のような軽さとまではいかない、この本の愉楽が風邪をひいた頭にはちょうどよかった。待ち合わせの店に行ったら定休日だったので仕方なく道に蝋石で「ばか」と書いて帰った話や寝ても覚めてもめかぶに夢中になる話など、電子体温計でもなく、今流行りの耳式でもなく、手のひらを額にあてて熱を測ってもらっているような感じの愉楽が心地よかった。そんなおおざっぱな気分が川上さんの目線にはある。それが楽しい。
昔子供だった頃、風邪をひくと、母親が林檎をおろし金で摺ってりんご汁を作ってくれた。それが美味しかった。今なら市販のリンゴジュースがあるから、誰もそんな手間なことはしない。でもできれば大人になった今でもおろし金で摺ったりんご汁が飲みたい。川上さんの本が気持ちいいのは、そんななつかしい感じがするからかもしれないと布団の中で思った。そうしたら、少し風邪が治った気持ちがした。
紙の本
なんでもないことを面白く、面白いことはより面白く
2005/10/09 22:00
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家川上弘美氏の、あとがきによれば、「五分の四くらいは、ほんとう」(p.151)のことを書いた日記。
著者のまわりで起こる出来事もたしかに面白いのだが、それ以上に、そうした出来事を面白く書ける著者のすごさをひしひしと感じる。
なにしろ、最初の月の見出しからして「『大福おじさん』を見た。」である。これは、著者が両国に向かう電車の中で「背広を着て、鞄を持って、姿勢よく立って、混んだ電車の中で大福を食べているおじさん」(p.6)を見る話。それだけ、といえば、それだけ。でも、その大福を食べる様子の描写が、目に浮かぶようでなんとも面白い。そして最後に、「帰りに両国の駅で『どすこいせんべい』(バラ売り)五枚をおみやげに買う」(p.7)という一文で、この日の日記は終わる。この独特な話の進み方が、たまらない。
それからもうひとつ、著者が時折見せるおろおろした様子が、なんともユーモラスである。例えば、ある日打ち合わせをすることになっていた喫茶店が、突然消えていた。その日は仕事先の人と「二人で世の無常をなげきあう」(p.12)。そして後日、打ち合わせの後にふと見ると、消えたはずの喫茶店が現れている。
そして著者は、「いやーん、と言いながら家に帰って、布団をかぶって、しばらくぐずぐず」(p.12)してしまう。そして様子を見に来た子供にことの次第を話すと、「ふうん、と言ったあとに、よくあることだよ」(p.13)と続けて言われてしまったりする。
この話は、ひょっとしたらほんとうではない五分の一の方なのかもしれない。しかし、自分がおろおろする様子をここまで正直に書き、笑いに転換させてしまうというのは、すごいなあと思う。
そんなこんなでにこにこと笑いながら、一気に読み終えてしまった。
紙の本
何倍も楽しく生きている…弘美さんの本当日記
2005/10/18 14:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家・川上弘美さんの本当日記。
「少なくとも五分の四くらいは、ほんとうです」と、川上さんがあとがきで教えてくれました。
ちょっと前に登場した『椰子・椰子』は嘘日記だったそうですが、
あの時の読んで嬉しかった気持ちがふつふつと蘇る川上ワールドです。
川上ワールドって?
どこがどうって?
例えば、電車の中で「大福おじさん」を見る。
百円ショップで買ったツボ押し器に「タツヤ」と名づける。
めかぶの事を考えて、仕事に手がつかない。
ひと夏に「暑い」を何回言うのか計算してみる(ちなみに4860回)。
仕事場に遊びに来た子どもと「オクラごっこ」をする。
つらつらと読んでいて、くっくっと笑い出してしまった箇所が少なくとも10箇所はありました。
弘美さんは仕事場を持っていて、書く仕事をして、
担当の人と打ち合わせをして、対談もして、サイン会もして、
ある時は友達と花見に行ったり、飲みに行ったり、
家に帰れば、子供がいて、ご飯を作って…。
そんな生活をしています。
弘美さんは同じ人生でも、何倍も楽しく生きているなぁと
感心することしきり。
私もそうありたいと、つくづく思いました。
紙の本
五分の四くらいは本当の日記..って?
2021/02/26 17:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
日記なんだけど、なんだか時々へんなことが起こって、実は創作か?とふと思う。
あとがきまで読んで「本書は、本当日記です。少なくとも、五分の四くらいは、ほんとうです。」という断り書きみたいな一文を読んで、ふーん、わざわざこんなこと言ってるしやはり架空日記かな。この作家は、日々を眺めて切り取る視点が独特だが優しい。そして楽しい。ホントの日記か架空かはまあ、どうでもいいとして。