ぐるりのこと(新潮文庫)
著者 梨木香歩
旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれなが...
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商品説明
旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、へジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々の中で胸に去来する強い感情。「物語を語りたい」――創作へと向う思いを綴るエッセイ。
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思うだけでは言葉にならない。考えることで初めて言葉になる。
2011/08/21 11:43
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mieko - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日、梨木香歩さんの『僕は、そして僕たちはどう生きるか』を読んだのですが、読んでいる途中で『沼地のある森を抜けて』という著書があるのを知ったので、続けて読みました。そして『沼地~』を読んでいる途中で、この『ぐるりのこと』というエッセイ集を知り、読んでみたわけです。
このエッセイ集は2002年から2004年にかけて雑誌「考える人」に連載していたものを1冊にまとめたものらしいです。このエッセイを読んでいて、これはこれは……、私は図らずも梨木さんの作品を逆向きにたどっているなと不思議なめぐり合わせを感じました。
国内外を旅してまわり、出会った人、出会った場所、出会ったもの事などについて「考える」。テレビ画面から流れる様々な出来事について「考える」。犬の散歩中に「考える」。それを文章にしたもの。
梨木さんは、自分の身近なまわりのことから考えたいという。生きていて出会う、様々なことを、一つ一つ丁寧に味わいたい。味わいながら、考えの蔓を伸ばしてゆきたい。もっと深く、ひたひたと考えたい、と。
私の中にも同じような欲求がいつもあります。けれど毎日の生活の中で、思考はプチプチと強制的に切断され、そして一度切断された思考はなかなか繋がらず、またあとでゆっくり考えよう、と後回しになり、そうこうしているうちにまた次の事象が現れて考え始める。そうやってなかなか考えがまとまらず、「考える」というより「思う」というところで止まっているように感じます。
頭の中で思ったり、心で感じたりすることは、はっきりと形をとっていなくてぼんやりしているので、きちんと言葉にして自分が何を考えているのかを自分で解りたいと思うのですが、それもままならず。このエッセイを読みながら、一つのことを深く、ひたひたと考えなければ、文章にはならないのだと感じました。
それにしても梨木さんの「ぐるり」とは、なんと広範囲なことか。地方のデパートで偶然に見かけた親子のことから、イギリスを旅した時のこと、トルコを訪ねた時のこと、さらには長崎の幼児殺害事件、9.11について、映画「ラストサムライ」のこと、そしてまた犬の散歩に出かけたときのことなど、ぐるりぐるりと地球を回っていくようです。
そして考え続ける中で自分の本当にやりたい仕事は人々に物語を届けることなのだと確信します。
これからもずっと、梨木香歩という作家は「そこに人が存在する、その大地の由来を」物語っていくのでしょう。
背筋がすっと伸びたエッセイのたたずまいに惹かれます
2009/02/10 18:14
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本と西洋、集団と個人、傍観者と当事者などの狭間にある「境界」というものに、思いをめぐらしたエッセイ集。そうした境界線を見つめる著者の眼差しは、静かだけれど凛とした思いがこもっていて、清々しい心持ちになりました。
読んで気持ちのいいエッセイ。はっ とさせられたり、すとんと胸に落ちてくる文章が、あちこちにありました。
「向こう側とこちら側、そしてどちらでもない場所」「境界を行き来する」「隠れたい場所」「風の巡る場所」「大地へ」「目的に向かう」「群れの境界から」「物語を」の、全部で八つのエッセイを収めた一冊。
著者の魅力的な物語、『村田エフェンディ滞土録』や『西の魔女が死んだ』『からくりからくさ』などと確かにつながっている思いの糸のようなもの。素敵でしたね。
文庫解説は、ノンフィクションライターの最相葉月。著者・梨木香歩のほかの作品とからめて、その魅力的な作風と味わいをたどって行く文章。読みごたえ、あります。
カバー装画もいいですねぇ。二本の木の間に、うっすらと開いた目みたいな池で泳ぐ水鳥が一羽。静かなたたずまいのこの絵は、南桂子の「公園」。
さまざまなところに存在する境界について
2024/05/18 21:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りら - この投稿者のレビュー一覧を見る
場所やひと、気持ちなどさまざまなところに存在する境界についてあちこちに思索を巡らせるエッセイ。
言葉選び、描写、題材等深く考え、丁寧に紡ぎ出された文章で、ひとことずつをじっくりかみしめ、味わって、考えながら読みたい本。
中学生くらいからなら、自分の中で思考を広げて味わう豊かさを知る導入として読んでほしいと思う。
心地よいエッセイでした
2021/07/19 14:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
何気ない日常に潜む、小さな違和感にドキリとさせられます。パターンに嵌まらない思考と、行動範囲を広げていく姿勢は見習いたいです。
「境界」のあちらとこちらで考える
2021/03/23 10:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぱぴぷ - この投稿者のレビュー一覧を見る
梨木氏の本は、一冊だけ読んでも楽しめるが、梨木氏の他の本も読んだ本が、よりいっそう楽しめるだろう。このエッセイ集もそうだ。
エッセイの中身は、「境界」にまつわるもの。自分の立場をあちら側とか、こちら側に固定しない視点。あちらでもあり、こちらでもあり、あちらでもなく、こちらでもない視点。どちらかの側に偏れたらある意味、楽だろうが、どちらでもあり、どちらでもない立ち位置は、少数派だし、弱そうにみえるし、ときにしんどく、しかし豊かさを生み出す可能性のある立ち位置だと思う。「ネトウヨ」とか「サヨク」といった単純化した言葉で、分かった気になってしまうことの多い昨今において、貴重な在り方だ。