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五番目の女 下
串刺しにされて殺された老人の金庫には、傭兵と思われる人物の日記が入っていた。この中に手がかりが隠されているのか? 捜査を進めるヴァランダーのもとに、父親急死の報がはいる。...
五番目の女 下
五番目の女 下 (創元推理文庫)
商品説明
串刺しにされて殺された老人の金庫には、傭兵と思われる人物の日記が入っていた。この中に手がかりが隠されているのか? 捜査を進めるヴァランダーのもとに、父親急死の報がはいる。せっかく心を通わせることができた矢先だというのに……。だが哀しみにひたっているひまはなかった。行方がわからなくなっていた花屋の主人が、遺体で発見されたのだ。長いこと監禁されたうえで殺され、森の中で木に縛りつけられていた。これはまだ始まりにすぎないのだろうか。新しい連続殺人の幕開けか? 現代社会の問題をあざやかにあぶり出す、北欧ミステリの真髄。/解説=北上次郎
目次
- スコーネ 一九九四年十月十二日から十七日(承前)
- スコーネ 一九九四年十月十七日から十一月三日
- スコーネ 一九九四年十二月四日と五日
- 訳者あとがき
- 解説=北上次郎
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紙の本
やはり重いテーマだった
2020/06/30 22:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
上巻から読んできて、犯人の背景がかなり見えてくるにつれこれは重たい展開になること必至だと思っていたが、エピローグでやはりそうか・・・と考えさせられた。
声を上げられずに暴力にさらされる女性たち、誰にも気づいてもらえず守ってもらえず、その存在さえ薄れかけている女性たち。そんな状況を打破しようとしたのが今回の犯人なのだが、決して彼女自身も正義の味方ではなく自らの過去に振り払えない悪夢を抱えていた元被害者といってもいい女性なのだ。そして抱え込んできたものが遂に溢れ出る日がやってくる。苦労してきた母が、やっと出かけた海外旅行で何の関わりもないのに現地のテロに巻き込まれ、その事実さえ当局によって隠滅されてしまう。見えない犠牲者、隠されてきた暴力はもうたくさんだと決意する彼女にある種の共感が生まれるのは当然かもしれない。実際、自分もかなり犯人に傾倒している部分があることに気づかされた。
ここからマンケルの問題提起が始まる。法の外に身を置いたものの私刑は正当性があるのか?という何度も繰り返されてきたテーマだ。最近も同じスウェーデンの作家の小説『許されざる者』で同一のテーマに出会ったばかりだ。マンケルはこの作品を読む限りそれは自分には理解できない行為だと明言している。その根拠として、作中に警察の頼りなさを理由に掲げているものの、ただ誰彼構わず暴力で鬱憤を晴らしたいだけの自警団の存在を挙げている。さらにその無分別な行為の結果、仲間の警官の娘が学校で暴力を受けるというおまけまでついている。大人たちの暴走は確実に子供たちも蝕むのだと。しかし一方では声を上げられないものへの威圧や暴力を自分一人ではどうしようもない、もっと大きな社会的問題だとして解答を我々に投げかけているように思える。相手も人間だという、この当然の感覚を全く持ち合わせていない人々が現在世界に増えつつあるようでとても怖い。
紙の本
待望のシリーズ第6弾!
2016/07/03 18:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
もっとゆっくり読みたかったのだが・・・手をつけたら最後、一気読み必至。
父親とのイタリア旅行から帰ってきたヴァランダー、静かなスコーネの秋を楽しもうと思っていた彼の目の前に起こった二つの不可解な事件(老人の失踪と無人の花屋への押し込み)。 それがスコーネを震撼させる事件の幕開けとなる。
タイトルにある<五番目の女>はプロローグから登場。
けれど、どうもその意味だけではないらしいことはすぐにわかる(五番目の女は何人も登場する)。
そして、驚くのだ。 これって、『ミレニアム』と同じテーマだ!、と。
けれど本国の刊行はこっちの方が早いはずだ・・・となると、「強いものから弱い者への
暴力」(女を憎む男たち)という問題はスウェーデンでもかなり激化しているということなのか。 最近、「福祉国家としてのスウェーデンを見習え」的なことを言いだす人が多くなりましたが、福祉社会が犯罪のカモフラージュになっている実態・福祉のためにつくられた組織の根っこそのものに犯罪が巣くっているというスウェーデンの現実も学んでほしい。 スウェーデンミステリを読んだらそんな安易なこと言えないと思うが。
まずは、ヴァランダー警部と父親とのイタリア旅行について語られ、確執の多かったこの親子の急激な融和が描かれる。 となると近い将来起こるだろうことが思い浮かび、
いささか悲しくなる(そしてその通りの展開になるのだが・・・事件がヴァランダーを私情にひたらせることを許さない)。
このシリーズに共通することだが、「犯人は誰か」というのはあまり重要ではなかったりする。 勿論はっきりしないということでも描かれないわけでもないのだが、むしろところ
どころで犯人側のことが描かれるため犯人が内面的にどういう人間かということが前半でわかってしまうのである。 それでも先を読むのを止められないのは、事件に至る背景が丹念に描かれているためだ。 まるで、様々な色と素材の縦糸と横糸で見事に織り上げられたタペストリーのように。 しかしその織物の端は始末されていない、途中でなくなる糸もあるし、まだまだ続く糸もあるから。
スウェーデンは確か死刑のない国だが、国民感情として厳罰化の機運は高まっているらしい。
これが書かれたのは1996年、物語の舞台は1994年。 『ミレニアム』は2000年代だから・・・なるほど、悪化してますな。
が、シリーズものとしての楽しみもある。 前作までの署長のビュルクが異動になり、新署長は女性のリーサ・ホルゲソン。 そうか、だからドラマ版の署長は女性だったのか!
いつも風邪をひきがちのマーティンソンは家族と仕事をめぐる岐路に立たされ、スウェードベリに対するある表記に目を見張り(これって『One Step Behind』への伏線?!)、順調に有能な刑事への道を歩いているように見えていたフーグルンドの足場のもろさを知らされる。
相変わらずお悩みがちのヴァランダー警部だが、娘リンダとの関係が次第に改善されているのが救いですかね(でもその意味合いを本人が気づいてない感じなのがまた)。 鑑識のニーベリや受付のエッバとなど個々のエピソードは楽しいものも多いので、シリアスな中の清涼剤となってシリーズの安定化に効果を発揮しているのだと思う。
で、更にこのシリーズが素敵なのは(というか日本語版が、というべきか)、どんなに端役でも巻頭の「登場人物表」に名前が載っていることだ。 「これ、誰?!」と思ったときに大助かりです。
訳者あとがきによると、ヴァランダー警部シリーズは10作あるそうだ・・・あと4作。
(2010年9月読了)