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一般書

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1)

著者 中沢 新一

神話を学ばないということは、人間を学ばないということに、ほとんど等しいかと思えるほどなのです――(本書より)。宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学=神話。神話...

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人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1)

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商品説明

神話を学ばないということは、人間を学ばないということに、ほとんど等しいかと思えるほどなのです――(本書より)。宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学=神話。神話を司る「感覚の論理」とは?人類分布をするシンデレラ物語に隠された秘密とは?宗教と神話のちがいとは?現実(リアル)の力を再発見する知の冒険。/ この一連の講義では、旧石器人類の思考から一神教の成り立ちまで、「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を踏破してみることをめざして、神話からはじまってグローバリズムの神学的構造にいたるまで、いたって野放図な足取りで思考が展開された。そこでこのシリーズは「野放図な思考の散策」という意味をこめて、こう名づけられている。――「はじめに カイエ・ソバージュ(Cahier Sauvage)について」より

目次

  • ・はじまりの哲学
  • ・人類的分布をする神話の謎と神話論理の好物
  • ・神話としてのシンデレラ
  • ・原シンデレラのほうへ
  • ・3人のシンデレラ
  • ・片方の靴の謎
  • ・神話と現実
  • (抜粋)

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評価内訳

神話を生き直す

2011/01/23 18:21

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書の序章にこうある。
「あらゆる神話には、ひとつの目指していることがあります。
それは空間や時間の中に拡がっておおもとのつながりを失ってしまって
いるように見えるものに、失われたつながりを回復することであり、
互いの関係があまりにバランスを欠いてしまっているものに、対称性を
取り戻そうとつとめることであり、現実の世界では両立することが
不可能になっているものに、共生の可能性を論理的に探り出そうと
することです。」

神話は、常に現実との接点において人々の生活の中に太古から存在して
きたものであるが、熱狂のうちに理想的な始原の状態が「ありうる」とする
宗教と違って、あらゆる区別がなくなることなど「ありえない」という
前提の下に、それでもそういう状態を思い浮かべることを願って、
神話的夢は紡ぎ出されてきた。

感覚を離れた観念的論理が一人歩きする宗教やイデオロギーは、
異なるものとの対立の中に接点を見出せずに袋小路に陥ってしまい、
現実の日々が理想から離れすぎて凄惨なものとなって、にっちもさっちも
行かなくなってしまうのだが、神話は、そんな現実に苛まれる生きた
五感を、再び日々の生命の中に解き放つための論理を再構築しようとする。

シンデレラやオイディプス王のような古典的神話の雛形が広い範囲で
残っているのは、人類がその身体感覚において同じ類であることの証で、
話の筋が微妙に違ったりするのは、ある地域での暮らしが他の地域とは
やっぱり違うということで、それはつまり人間が自然や天や冥界と
どんな距離感で持って生きてきたかの証である。その価値はこれから
薄まるどころか、知恵の宝庫として今後ますます発掘が進むことに
なるのだろう。人類の神話は、まだ始まったばかりなのだ。

神話を読むということは、神話の中に語られていることを五感で
感じ取ることで、だから神話の最良の読み方は、それを己の感覚として
生きることである。天地とのつながりの中に己の居場所を見出すこと、
見出そうとするうちに、己の神話は駆動しているのだ。

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人類最古の哲学

2004/06/07 15:40

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yuyuoyaji - この投稿者のレビュー一覧を見る


著者によれば、人類最古の哲学としての神話は新石器時代に根ざしている。ここでもちいられる「神話」とは民話をふくみ、神話学や民俗学、民族学の枠をこえた領域を占めている。著述の大半を占めるシンデレラ物語も民話としてではなく、3万数千年まえから伝承され変形されてきた神話としてとりあげられている。というよりも、脈々とうけつがれてきた世界観から民話と神話という従来の枠をとりはらって、原初のかたちにそって考察をすすめている。
 南方熊楠がはじめて紹介した世界最古の中国のシンデレラ物語が死と水の領域に深い関わりをもつのとどうよう、グリムのシンデレラ物語も妖精の仲介によってもっとも高いものともっとも低いものを結びつける。自己変形のプロセスが大規模かつ執拗にくりかえされ、中国からポルトガル、スペイン、インドネシアへとうけつがれるなかでも、ヘーゼルの小枝や豆、カマドは死者の世界と生者を媒介するもの、あるいは自然状態から文化への大転回を仲介するものとして物語の中核として据えられてきた。北米インディアンのミクマク族はペロー版が現世のしあわせに限定してその価値をおとしめているのを変形して、仲介機能を発見しようとパロディに生き返らせている。
 このように神話とは、大きな矛盾をかかえながら進行する文化にとって論理や構造をとりだすだけでなく、具体性の世界との関わりのなかにのみ価値をもつ。幻覚を利用してきた宗教(オウム?)の側にのみこまれず、材料は現実の社会構造、環境、自然の状態からとりだすのが神話なのだ。著者の言外の主張を推測すれば、ここにこそ、大国主義に汚染され蹂躙されている現代の世界にとって神話復活を意図する意味がある。
 民話や神話に関心をもつ者にとって、その源流は朝鮮や内陸アジア、さらにはインドネシアなどにもとめられることが多かった。あるひとは海上の道に祖先のすがたをおもいうかべ、あるひとは騎馬民族をおもいえがいてきた。著者はレヴィ=ストロースを媒介にすることによって、環太平洋という枠組みを析出し、新石器時代に形而上学の革命を指摘する雄大な構想をえがこうとしている。民族学や民俗学の壁をとりはらって源流への旅立ちをうながす書である。

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第三次「形而上学革命」への見取り図

2002/01/20 21:18

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 来日したレヴィ=ストロースの講演を京都で聴いたことがある。マスコミ関係者を装って夜のレセプションにもぐりこみ本人と握手した覚えがあるのだけれど、これは記憶違いかあるいは後になってでっちあげた妄想なのかもしれない。肝心の講演は、大学で六年も「勉強」したフランス語がさっぱりで皆目理解できなかった。ただレヴィ=ストロースの肉声に直に接することだけが嬉しくて、たしかスサノオという言葉が再三出てきたことをいまでも鮮烈に思い出す。

 中沢新一の新著は「カイエ・ソバージュ」シリーズ全五冊──「旧石器人類の思考から一神教の成り立ちまで、「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を踏破してみることをめざして、神話からはじまってグローバリズムの神学的構造にいたるまで、いたって野放図な足取りで思考が展開された」一連の講義録──の一冊目「神話学入門」で、このシリーズ名にせよ本書で展開される人類最古の哲学(=神話)の論理の探求にせよ、そこにレヴィ=ストロースへの「敬愛と憧憬」が込められ『神話論理』に結晶したその研究が「多いに活用」されていることは、著者自身がそう書いているのだから間違いない。

 本書の中心は第一章から第六章まで、かぐや姫(結婚したがらない娘)の物語に出てくる子安貝をめぐる考察(南方熊楠『燕石考』)に始まり、神話的思考法と西欧哲学的思考法との「ちょうつがい」の働きをしたピタゴラス派(この秘密結社には「ソラ豆を食べてはいけない」とか「燕が家の中に巣をかけてはいけない」といった掟があった)と神話に出てくる豆や燕がともに仲介機能をもった両義性的な存在であることの論証をはさんで、「人類的分布をする神話」としてのシンデレラの物語が「気の遠くなるような深い古代性と波乗りのように浮わついた資本主義の一側面」をひとつに結びつけた「神話的思考の残骸」であったことを実証する「原シンデレラ」の探求譚である。

 とりわけ、シャルル・ペロー(サンドリヨンまたは小さなガラスの靴)からグリム兄弟(灰かぶり少女)、ポルトガル民話版(カマド猫)や熊楠(『西暦九世紀の支那書に乗せたるシンデレラ物語』)が発見した中国のシンデレラ(葉限)、そしてミクマク・インディアンが鋭い批判精神をもって創作した「パロディ」版のシンデレラ物語(見えない人の話)へと遡行し、最後に、シンデレラが脱ぎ落とした片方の靴の謎をめぐるレヴィ=ストロースの推定やギンズブルグの研究(『闇の歴史』)やシンデレラ物語の異文「毛皮むすめ」を踏まえて、シンデレラとオイディプス(=跛行者)との共通性(生と死の仲介者=シャーマン)を摘出して、神話的思考法のエッセンスである「仲介機能」(著者はこれをヘーゲルの弁証法と関連づけている)と「感覚の論理」(著者は言及していないが、レヴィ=ストロース後のフランスのたとえばドゥルーズの思考と関連づけることができはしまいか)を実地に示してみせるくだりは圧巻。

 この本編は確かに面白い。だけど私にとってもっと面白かったのがその前後、「はじめに」と序章と終章で提示される八千年から一万年前の新石器革命を巨大な転換点とする「人類の哲学史」とミシェル・ウエルベック(『素粒子』)の論を踏まえた第三次「形而上学革命」(ウエルベックによれば、キリスト教=一神教の登場と科学革命に次ぐ第三次の形而上学的変異は、あらゆる個人が同一の遺伝子コードを持つ新種=人間の似姿=「神」の創造をもたらす)への見取り図だ。「カイエ・ソバージュ」シリーズの完結が待たれる。

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宗教的熱狂とは似て非なる神話的思考の魅惑

2002/04/24 22:15

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:藤崎康 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 中沢新一の強みは、彼が「超越的なもの」に魅入られた「使徒」であるにもかかわらず、いわゆるニューエイジかぶれの「神秘主義者」やオカルト・マニアとは一線を画す、しなやかな現実感覚と幅ひろい宗教学・思想・文学の知見をバランス良く身につけている点だ。こうした中沢の武器は、このたび刊行された「神話学入門」というべき本書でも、おおいにその「通力」を発揮している。
 中央大学の講義をもとにしているという本書は、旧石器人類の思考から一神教の成り立ちまで、「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を踏破することをめざしたシリーズの第1巻だという。そして、とりわけ、中心テーマのひとつである「シンデレラ物語」のさまざまな異文(異なるヴァージョン)を比較検討していく部分は、著者の手堅い資料調査と奔放なイマジネーションとが相乗効果を上げていて、ひじょうに読みごたえがある。
 中沢によれば、民話には現実の世界では解決できない矛盾を、はなやかなしつらえを通して解決してみせようとする、さまざまな機構が発達している。「シンデレラ」でいうなら、シャルル・ペロー版よりグリム版のほうが、よりナマのかたちで神話的思考が露出しているが、それは後者では、恵まれない境遇といった負の要素をその反対物である幸福や調和へと結びつける「仲介機能」が総動員されているからだという。さらにポルトガル版では、水界を介して死者の領域とのあいだに通路が開かれ、シンデレラ物語の最古層が見え隠れするという刺激的な分析がつづく。そしてさらに、中国や北米インディアンのミクマク族のシンデレラの異文が、あざやかに分析されていく。また、終章「神話と現実」では、現在の日本のゲームソフトにみられる形骸化した神話的思考が、現実の世界とのつながりを失い、バーチャルな宗教的思考に取り込まれる危険をはらんでいる、という中沢の指摘には、オウム事件をくぐり抜けた宗教学者の言葉ならではのリアルさがある。中沢はまた、神話は現実に熱狂(オージー)を求める宗教とちがって、つねに理知の制約を受けていて、非合理の水際に限りなく接近しながら、そこに溺れてしまうことはない、という。もっとも、チベット密教の修行を積んだ中沢にしては、この発言はやや腰が引けているように思うのは、こちらの邪推だろうか。ともあれ、続編が鶴首して待たれるシリーズ第1弾である。 (bk1ブックナビゲーター:藤崎康/現代文化論・映画批評 2002.04.25)

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2007/12/25 15:36

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