紙の本
芸術の後ろ暗さ
2021/12/07 15:35
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投稿者:くまころちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
芸術を極めるためには、一般的な感性や行動からずれることが許される。むしろ人間味を捨てる所まで到達しなければ芸術とは呼べない。芸術に携わる人は普通の人と見ているものが違う。
芸術の生々しい面、残酷な面に焦点が当てられていた。
最後に、バレエ評論家のレビューで、尾上に光が当たる。蛇足である等、否定的な見方もあるだろうが、私は良いラストだと思った。
尾上は、努力でカイン役をつかみとった素晴らしい人間なのか、それとも芸術だけを追求する異常者になったのか。考える余白が与えられている。
誠が雑誌のインタビューで、なぜか豪のエピソードを語っていた(バレエをやめようとしたが、母に止められたから続けた)が、その理由がわからずモヤモヤした。単なる読み落としであればいいが。
望月澪については、もう少し掘り下げて描写してほしかった。書き込みすぎると神秘性がなくなるのであれば、内容はなくても言葉を尽くしページを割き、豪(芸術)のミューズに一時であっても成り得た彼女について教えてほしかった。
紙の本
不安の中で
2021/09/30 14:05
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投稿者:扇町みつる - この投稿者のレビュー一覧を見る
不安という感情に突き動かされる人々の話。多視点の妙。
紙の本
タイトルがミスリードで、でも全て
2021/05/11 23:14
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投稿者:kochimi - この投稿者のレビュー一覧を見る
芸術に身も心も人生も捧げる人の狂気を
ミステリーを追っかける形で描いた作品。
言えない闇を抱えていることが魅力につながっているから
お前は言わなくていい、
という演出家の言葉を忠実に守るダンサー。
言わなかったことでまわりを振りまわし、
新たの凄みを得て更なる高みへと昇華した。
一方で、
言わなかったことで、まわりに誉田の真意に迫らせ、
救いへと導いた。
狂気とは別のアプローチから
芸術と対峙する姿勢を示したラストは、
陰鬱な色調を吹き飛ばした爽やかな締めくくりだった。
紙の本
面白かったです
2021/11/19 10:28
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投稿者:iha - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類史上初めて殺人を犯した男をコンテンポラリーダンスで表現するお話です。芸術は人を狂気へと駆り立てるのでしょうか。その狂気に巻き込まれる形で凡人たちが振り回されて右往左往する…とにかく凄まじい物語でした。
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おすすめ。劇場は小説と相性が良い、という気がする。ガラスの仮面が生み出したテンプレートは、恩田陸のチョコレートコスモスやジャンプのアクタージュなどに受け継がれている。本書もコンテンポラリーダンスを題材に、ミステリー的な味わいを入れ込み、劇場をめぐる物語となっている。バレエは芸術性に高さや演者のストイックさが聞いている。登場人物の不可解な行動の背景が明らかになるラストも見どころ。
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【ミステリ界のフロントランナーが描く、慟哭の殺人】公演直前に失踪を遂げた若きダンサー。鍵を握るのはカリスマ演出家と因縁の弟。芸術の神に魅入られた美しき男達の許されざる罪とは。
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血のにじむような努力をしても報われるかどうか分からないのが芸術の世界。
ドロップアウトしてしまう人もいればその場にいる限り命を削っても成し遂げたい! という強い気持ちを持つ人もいる。
厳しいつらい世界だなと感じる。
いろいろな登場人物の視点が切り替わり最後にようやく全貌が見えてきて「そういことかい!」って膝を打つ。
最後の最後に振り回されたあの彼がきちんと報われていてよかった。
安心した。
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芸術に全てを捧げてきた者たちの想いがバレエの舞台上で交錯する壮絶な人間ドラマ。
魂を削りながら芸術を生み出す人物たちの心の機微を抉り出す著者の筆力には終始圧倒されっぱなしだった。
胸が苦しくなるほどヒリついた緊迫感と、儚くも美しい狂気が物語全体を彩る1冊。
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コンテンポラリーダンス。今なら米津玄師で話題になったあのちょっと変わったダンス、というイメージ。
わりと自由にフリーに踊っているように感じていたけれど、こんなにも激しくこんなにも熱いものだったとは。
いや、どんなジャンルであっても「芸術」と名の付くものは生半可な気持ちで向き合えるものではないのはわかっている。それでもここまで自分を、そして周りを追い詰めなければできないものなのか、と。
男兄弟の確執は、聖書を開くまでもなく、身近に例はいくつもある。兄には兄の、弟には弟の言い分があり、思いがあり、そして自尊心も嫉妬心も親近感も疎外感も、とにかくあらゆる感情が一緒くたに入り混じっているはず。年齢が近く、そして「異父兄弟」という少し複雑な環境であり、そして芸術に身を置く2人であればなおさら。
ダンサーの兄、と画家の弟。2人の間に何が起こり、何が起こらなかった、のか。
芦沢央らしい、とても怖い「兄弟」の生と死の物語。最後の最後まで気が抜けない!!
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ダンスという身体表現、絵画という芸術表現、それに魅入られた者を追い求め、「選ばれる」ことに囚われた者たちの狂気ともいえる熱をこれでもかと放出する物語。
「世界の誉田」と称されるカリスマ芸術監督が率いるダンスカンパニー最新の舞台は、人類最初の殺人の加害者と被害者とされる「カインとアベル」をモチーフにした作品。その主役に選ばれたのは、画家である弟を持つ藤谷誠。
冒頭の殺人シーンに続く、誉田の常軌を逸した本能を炙り出すような指導。何かを暗示しつつも、誰が誰を殺してしまったのかは明らかにされず、誠は「カインに出られなくなった」という言葉を残して姿を消し、その場面に引きずられたまま話は進んでいく。
さらに、芸術作品という作られたものにリアリティを求めるという、一見矛盾した行為を突き詰めようとする者の思考と行動は市井の人々にはなかなか理解できないものであるがゆえに、彼らと読み手を含む彼らに魅入られた人々との間に感じるギャップは不協和音となって、読む手を止めさせない。
主役のいなくなった舞台は果たして上演されるのか、誰が誰を何のために殺してしまったのか。様々な謎が明らかになる時、読者の心に残るものは選ばれることを追い求め囚われた者たちの狂気なのか、その中に宿る希望なのか。
『火のないところに煙は』で一気に注目度を上げた著者による、要チェックの最新作。
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誰が、誰を殺したのか、それはいつのことなのか、明かされないまま、様々な人物の視点で進んでいく物語。
各々の中に、殺意が芽生えていく過程が恐ろしく、全員が狂気(凶器)を持っている。もはや誰が殺しても不思議ではない展開。恐怖。
登場人物の感情の描き方と、バレエのシーン、どちらも迫力があって、読んでいて前のめりになった。
そしてあまりにあっけない真相と結末。
その「あっけなさ」が、そのリアリティが何より恐ろしい。
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誠の身を案じて金沢の実家を探し当てて尋ねたあゆ子だけど、先方から見たらストーカーと同じで、必死さって犯罪と紙一重なんだと思った。
一線を越えた人が複数描かれているけど、松浦夫婦は娘が悲愴のうちに息を引き取ったのではないと思えて救われたし、尾上君も見事にカインを演じ切るまでになっていて、暗いだけの終わりではなくてよかった。
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カリスマ芸術監督率いるダンスカンパニー。その新作公演3日前に主役が消えた。
壮絶なしごきに耐え、すべてを舞台に捧げてきた男にいったい何があったのか。
ダンサーの恋人、ライバル、元団員の家族、画家であるダンサーの弟とその恋人など、それぞれの視点で語られる。
「狂気」の世界というのか、読んでいて苦しかった。
(図書館)
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バレエダンサーで、誉田率いるHHカンパニーで目指していた主演を務めることになった藤谷誠。四つ下の画家の弟の豪。二人は過去の一件からどこか距離をもって生きてきた。
誠は主演舞台の二日前に恋人のあゆ子に「カインに出られなくなった」とメッセージを送ってから行方をくらませていた。何とか誠と連絡を取ろうとカンパニーの元団員や、誠とは疎遠な母親を訪ねていく。
一人の女性を描き続けている画家の豪は誰の話も聞いていないような、身勝手で魅力的な、端正な顔立ちの男だ。彼の恋人の有美は彼のミそューズに対し、言いようのない気持ちを抱えていた。会わないほうが幸せになれるだろうと思いながら、その日も呼び出された時間に彼のアトリエに足を運んだが、その日から彼と連絡が取れなくなってしまった。彼の部屋で見つけたカインの舞台のチケットは二枚。これは私とではなく、あの女と行くのかもしれない。その思いが、チケットを持って帰る気にさせたのだ。
そしてもう一つの誉田に主役として選ばれながら途中で役を下され、それでも練習をしすぎて脱水症状で亡くなった娘を持つ夫婦。母親は娘の葬儀で謝罪のひとつもしなかった誉田のことを半ばストーカーのように見張っていた。そんな彼女はあるネットの書き込みで「誉田が“俺が間違っていた”と口にした」という書き込みを見つけ、もう一度誉田に会いに行こうと考え始める。
三つの流れがゆっくりと、濃密にカイン初演へと流れ込む。
端正な文章と、一点へ集中された熱量が読む速度を緩めさせない。
仕事に行く途中の信号待ちや、仕事の休憩中、子供たちの寝かしつけの間、ずっとこの本は傍らにあって、隙あらばページを開いた。
芸術に命を懸けるということはこういうことなのだろうな。
基本的に圧迫された空気でお話が進むなか、後半の、誠が幼いころ探していた絵本を弟と作って何度も二人で読み返していたその本体は、実際の絵本ではなく、誠が見た夢のお話だったことを豪の父親と話しながら思い出す。自分の見た夢の映像を、なのにそのままに描いてくれた弟。その時の深い、豪との邂逅を願う気持ちに、ただただ誠の隣で同じように目を閉じているような気持になった。
尾上の夫婦との出会いで、何かを創り上げる人間から見たひとつの真実が夫婦の胸の内の一番重たかったものを掬い上げる。その時の窓の外から差し込む光に、私も眩しさを感じた。
そして最後の一文に、人間のたどり着ける場所は私が思っている以上に高く、深い場所なのかも知れないと思った。
読み終わってからも、この本に描かれたカインとアベルだけではなく、たくさん存在してきた“アベルとカイン”のことを考えた。
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世界的に名の通る指導者の率いる劇団で初めて主役を射止めたバレエダンサーの兄と、特徴的な絵で興味を惹かせる奔放に生きる弟。兄は公演の迫ったとある日、忽然と姿を消す。
慌てて彼を探す恋人、兄とルームシェアをしていた同じ劇団に所属するダンサー、劇団の指導者に恨みを持つとある夫婦などの多視点から物語は描かれていきます。そうして、ひとつの芸術に心身を捧げることの、本人と他人とを巻き込む残酷さと崇高さ、が描かれていきます。
厳しい指導者とそれに何とかして食らいつく弟子という構図は、映画「セッション」をやはり思い出すのですが、その映画を観たときにも感じた、一定のレベルを超えた「求道者」の想いは正確には理解しきれない、という思いをまた抱きました。自分の求める芸術のためとはいえ、そこまで他人を「使えてしまう」ことそのものが、空恐ろしいと思ってしまうのです。
そして多くの登場人物が出てきますが、兄の恋人や弟の恋人が似通っているように見えて、特に弟の恋人のほうにはあまりに同じ行動を繰り返しているようで少しも感情移入ができず、ちょっと辛いというのもありました。
ただ話は見事に収束し、ミステリとして綺麗な組み立てが成されていて、どろどろ鬱鬱とした物語ながらそれほど読後感は悪くありません。そのミステリの筋立て、意外性の導くところは巧いなあと思いました。