桐生夏生氏による文豪・谷崎潤一郎氏を題材にして織り成される人間の業と欲望を徹底的に描いた作品です!
2020/07/18 09:26
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『顔に降りかかる雨』(江戸川乱歩賞)、『OUT』(日本推理作家協会賞)、『柔らかな頬』(直木賞)、『グロテスク』(泉鏡花文学賞)、『残虐記』(柴田錬三郎賞)、『魂萌え! 』(婦人公論文芸賞)、『東京島』(谷崎潤一郎賞)、『女神記』(紫式部文学賞)など数々の話題作・傑作を発表しておられる桐生夏生氏の作品です。同書は、美しい妻は絶対的な存在であり、楚々とした義妹は代表作の原点であり、義息の若い嫁は新たな刺激を与えてくれる欲望のはけ口である。大作家をとりまく魅惑的な三人の女たちを中心に、彼女たちの嫉妬と葛藤が渦巻く中で翻弄される男の目に映っているものは一体何なのでしょうか?同書は、文豪「谷崎潤一郎」を題材にして織り成された物語世界から炙り出される人間たちの「業」と「欲」を徹底的に描いた意欲作です!
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投稿者:ねむこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミロのシリーズや、OUTなどでしっかりと読者をつかんだ今になって、やっと本当に書きたかった物語を形にできたのかな。
とっても細雪読み返したいです気分。
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谷崎潤一郎と彼の作品に影響を与えた女たち。妻に始まりお手伝いさんまで、作品に使えるかどうかの一点で対応に変化がある。冷徹なのかたまたまなのか、想像が追いつかない。
重子の語りが本人を含め彼らをずっと凝視していて少し怖かった。
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谷崎潤一郎の半フィクションバイオグラフィ、という宣伝が目に入ったので読んでみた。私も例にもれず、10代の頃に谷崎・三島の耽美沼にハマったので、それこそ作品はもちろんありとあらゆる書簡集やら論文やらを読み漁った。若かりし頃のあの滾るものを思い出した。本作、非常に真面目に史実と史実の間を”ええ感じ”に盛ってあり、読みやすくわかりやすい。ただ、わかりやすすぎて、すこし寂しさが募る。寂の文字が大谷崎にはよく似合うのでそれはそれでええかとも思う。自分の中で構築している谷崎及び家族像とは少々違うところも目立つが、ギャップも面白く感じた。
視点人物はマスターピース『細雪』の雪子のモデルになった重子。細雪の雪子のキャラクターイメージから外れることなく、外れていないが故に、サプライズはないものの、ストレスもなく読めた。ヘビロテで時折再読し続けているが、大谷崎の描く女性にはシンパサイズしたことがないので、本作でもどうしても”兄さん”(谷崎)の方に気持ちが寄ってしまう。ラストシーンの重子と光源氏谷崎の一騎打ち(一騎打ちではないが)は圧巻。もうちょっと込み入った叙述が欲しいぐらいだが、さらっと描かれていながらも、画像が頭の中に強制投影されるような良いシーンだった。良いバランス。
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こういう小説、なんていうジャンルになるんだろう?(最後の解説によると、「モデル小説」というらしい。へぇ。)実在の人物を取材し、膨大な資料を分析した上で、当人たちの気持ちなどはあくまでも作家の想像によって書き、その人生の物語を描きだす。林芙美子をモデルにした「ナニカアル」もとても面白かった。沢木耕太郎さんの「壇」とか、すごく面白かったけど、あれもモデル小説というのかな?
本書「デンジャラス」は、谷崎潤一郎を題材にした物語。谷崎は妻・松子とその妹”重子”と暮らす。重子は義理の兄である谷崎を慕い、谷崎も自分を特別に思ってくれているはずだと感じている。そこに妻の連れ子や、重子の養子の妻(つまり嫁)、数多くの女中たちなど、様々な女性が入り乱れ、愛憎渦巻く物語が生まれる。
終戦前後のお金持ちの風俗を描いているという点でも、いろいろと興味深い。谷崎潤一郎は「痴人の愛」くらいしか読んだ覚えがないけど、本書で取り上げられている「細雪」や「鍵」、「夢の浮橋」も読んでみたいと思った。
この時代の作家って、自分の周りの人たちを踏み台っていうか、食い物っていうか、犠牲にしながら書いていたのかなぁ…。書かれる方は書かれる方で、それを誇りに思ったり、純粋に芸術作品として分析したりする。松子と重子が、「夢の浮橋」を読んで、「あの人は橋を渡って向こう側に行ってしまった」っていうところ、とても切なく感じた。
最後の、重子と谷崎の対決(?)のシーンは恐ろしくて、でもなんとなく、重子の妄想のような感じもして深い。重子の目線で書かれているのだから、他の誰にも確かめようのないことを重子が本当らしく主張しても誰も否定できない。女の業というか、私は勝ったのよ、と主張しているところがエグい。
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桐野夏生的ドロドロがいつくるかと思って読んでたけど、いつのまにか沼にどっぷりハマってる感じで終盤怖くなった。日常をずっと書いてるけど面白い。
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一人の男をとりまく魅惑的な三人の女。嫉妬と葛藤が渦巻くなか、文豪の目に映るものは。「谷崎潤一?」に挑んだスキャンダラスな問題作。〈解説〉千葉俊二
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大学の授業で触れて以来、谷崎の作品はだいぶ読んだと思うが、私生活については妻譲渡事件くらいしか印象に残っていなかった。
千萬子との関係のほうがよほどスキャンダラスなのに、これまで知らなかったとは。
妻松子の妹、重子(細雪の四姉妹の三女、雪子のモデル)の視点から谷崎と彼が作り上げた家と、そこに棲まう女性たちを描く本作。
彼女たちは文豪と呼ばれる作家とともに生きるということの覚悟を知りながらも、その作品世界に翻弄されながら時に恍惚となり時にいきり立ち、時に憔悴する。
谷崎の作品とリンクするかのようならラスト近くで重子が谷崎と対峙するシーンにハッとさせられる。
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割と淡々としてて、さらっと面白く読めたけども最後、怖かった。業。
光源氏じゃん、谷崎とか思ってたんだけどいや怖い。
ええ感じの隙間を埋めてて、どう考えても妻譲渡事件より松子との始まりの関係の方がスキャンダラスすぎる。そして、それを「なんもないでっしゃろ?小説家の妻やからなぁ」という感じで進むし、千萬子との割とスキャンダラスな関係も「ただの芸術家との戯れですけど?」って感じで、こちらも「そうでっか…」みたいな気持ちで読み進めてしまう。
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2020.12.05.読了
桐野夏生氏のファンであるわたし。
桐野氏は天才だと思っている。
その先をどうしても読みたくなる衝動が抑えられない。作品への引き込み方は半端ではない。
これは、谷崎潤一郎とその周りを囲んだ女たちの物語。とりわけ大きな出来事があるわけではなく、戦前戦後を通しての谷崎の生き方に翻弄される女たちの話であるから、嫉妬や寵愛、裏切りといった日常的な細々とした感情を表現する内容でありながら、とても読ませる作品。
1日で読んでしまった。もったいない(笑)
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読みだした途端に感じる不穏な空気に夢中になった。谷崎潤一郎と妻の松子、松子の妹の重子をめぐる関係。あからさまな肉体関係はないようなのだけれど、もっと複雑で不穏で水面下でうごめいているからこそ、妙に生々しく、スリリング。
そこに松子の連れ子の青一(戸籍上は重子の息子)の嫁の千萬子が現れて、物語はまさにタイトル通りのデンジャラスなすごみを帯びていく。
千萬子の賢さ、したたかさと若さ。松子と重子の自負と嫉妬。谷崎に迫る老いと焦燥感。
この絶妙なブレンドをなせるのも桐野さんならではだと思う。
今度は谷崎の往復書簡集を読んでみたい。
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私の大好きな桐野夏生が、私の大好きな谷崎潤一郎の生涯を描く。これは読んでみなければ。細雪のモデルとなった妻とその姉妹、そして谷崎本人を、まるでNHKの朝ドラのように描く本作。谷崎の残した文章や周囲の人の記憶といった点を、桐野なりのストーリーとして線にしていく。線はフィクションだが、谷崎自身や彼の作品を理解する補助となり、今すぐ彼の作品を再読したくなる欲望に駆られる。作家としての姿勢を谷崎に語らせて、実は桐野そのものを語らせている手法も面白く、桐野、谷崎両者をより深く堪能することができる。とにかく物語が面白く、久々にページを早くめくりたい気分になった。年末年始に楽しい読書ができた。
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谷崎潤一郎の「細雪」を久しぶりに読みたくなりました。雪子の結婚が決まったのに下痢が続く、という中途半端な終わりと言えなくもないラストでしたが、まるでその続きを読んでいるような気分になりました。ところどころに桐野調を感じさせながら、結構谷崎潤一郎に寄せている作品だなと思います。あくまでもフィクションという位置付けで読みましたが、実際彼とその周りが物語の通りなら、谷崎も含めみんな生きにくい人生だったんじゃないかなと思います。
あと「細雪」の登場人物である貞之助兄さんがやたら良い人だったのはこういうことかと納得しました。自分がモデルだからなのね。基本的に小説はそこにある物語が全てで、筆者の背景とか人物のモデルとかに興味がないので、「細雪」がどういう経緯で書かれたものか知りませんでした。おかげで新鮮な気持ちで読めて楽しかったです。
三章目のラストでばしっと谷崎に物申した重子さんかっこよかったですね。若い千萬子に溺れるのはまぁいいとして、そこに金をつぎ込んでいく様が本当に見苦しかったのですっきりしました。
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谷崎の三番目の妻・松子の妹である重子が語り手となって進む。『春琴抄』や『盲目物語』に影響を与えた妻の松子、『細雪』の雪子のモデルとなった重子、そして『鍵』や『瘋癲老人日記』を創作するきっかけとなった谷崎の息子の妻・千萬子。作家谷崎と三人の女の関係はただの家族、親戚とは言い難く濃密で、かといって簡単な愛憎劇でもない複雑さ。
文豪谷崎にモデルにされる、谷崎へインスピレーションを与えることのできるということの誇りと優越感。また自分の生活、周りのもの全てを芸の肥やしにして芸術に昇華させる作家の業の深さ。そうした凄みに迫った一作だった。
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谷崎潤一郎の生涯と女性について、谷崎潤一郎を殺した女性の一人称で描かれていた。
主に4人の女性が登場したが、それぞれが彼を中心に生きていて、翻弄されていてでも結局誰を中心に回っていたのかわからないような不思議な気持ちになった