紙の本
都市生物学から目が離せない
2020/11/22 21:30
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
冒頭から、地下鉄の路線ごとに遺伝子レベルの差異が生まれていったイエカを引き合いに出すことで、アマゾンの支流ごとに分化していった生物相のような事象が都会の中心で現在進行形で起きていることを、分かりやすくダイレクトに提示してくれる。
地理的な隔絶だけでなく、化学物質で汚染された水質環境、鳥の鳴き声を遮る騒音、道端に捨てられたタバコやスナック菓子が動植物にどのような影響を与え、生物がどのようにしぶとく生き残ってきたかをストーリー仕立てにして紹介してくれる。章立てもストーリーテリングもかなり巧くて最後まで楽しめる。
自然/環境選択によるDNAレベルの変化だけでなく、エピジェネティクス、赤の女王仮説、学習の伝播、性選択、果ては住民の行動や都市計画にも話を展開していて、生物と自然を巻き込むのがトレンドになりつつある今の都市計画に興味がある人はかなり楽しく読めると思う。落丁乱丁はあるけど改訂版に期待。
紙の本
生態系工学技術生物
2021/01/05 18:05
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「人工」は「自然」と相対するものという固定観念がくつがえされる、インパクトの強い一冊。「都市」という環境に合わせ迅速に変化する生物たち。たくましさを感じます。
内容は良いのですが、著述の仕方に少々クセがある感じがしました。
紙の本
都市だって自然環境の一つ。
2020/10/29 09:54
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
生き物からしてみれば都市は最近現れた環境である。もともと住んでいた生き物が住めない環境になることもある。そしてどんどん変化している。そんな都市でどんな生き物がどのように「都会的」になって生きているのか。海外のサイエンスライターの著書に多くあるパターンであるが、本書もたくさんの事例を挙げ、著者の主旨を伝えようとする。文章はとても読みやすい。
「工業化した都市部で黒化したガ」の話は教科書にも載るほどの有名な話である。現在ではどの時点でどんな遺伝子が変化したかまで研究されているようだ。こんな例もあるのか、と思うものも多い。著者の書くとおり、人間が気づいて調べた例の他にもきっと多くの「こんな適応」が起こっているのだろう。日本の読者はクルミを自動車にひかせて割るカラスや、六本木ヒルズの緑の屋上などの身近な話に興味が惹かれるかもしれない。
訳者もあとがきで書いているが、私たちが「自然」を感じる里山にも人間の手は入っている。都市はその程度が大きく、影響の広がる速度が速いという違いだけかもしれない。そう考えると著者の「都市も自然環境の一つにすぎない」という言葉はよく理解できる。その新しい環境にも、生きものは適応して生き続けるものがいるのはとうぜんなのだろう。
都市に適応して変化している状態が「進化」というとまで言ってよいのだろうか。遺伝子が変化していることもわかっている。それは「品種」の変化とは違うのか。そのあたりはまだ明確でない気がする。「進化」の定義のほうが変わっていくのかもしれない。
原題はDarwin Comes to Town。ダーウィンが今の都市を見たらどういうだろう。
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生物の生態というと手つかずの自然界をイメージしがち。本書は都市で独自にニッチな位置を獲得した生物についての稀有な研究。
ヒトがここまで増大する前の自然界。ヒトが環境を作り替え生まれた都市。例えば岩場に巣づくりしていたツバメはコンクリートの壁に巣を作り、また天敵を避ける意味でも都市に住む。また都市に住む生物は独自の進化を遂げる。工場の煤煙による大気汚染。天敵の鳥に見つかりにくい黒い毛虫が生き残る。
進化の他にもある個体がある行動を発見し周囲に伝搬するような例もある。ある鳥はタバコの吸い殻を巣に使い、ニコチンの力でダニの少ない環境を実現している。
豊富な事例から進化論そして都市論まで、筆者は縦横無尽にウィットも豊富に語っていく。
考えてみれば都市だって公園だって実は里山にもヒトの手が入っている。その中で環境に適応する生物たち。身近なところにも研究の種が転がっていることを本書は教えてくれる。
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進化とは、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」、ではなかった!人間が自分たちのためにつくったはずの都市が、今では生物たちにとって〈進化の最前線〉になっている。都市には生物にとって多様な環境を提供できる余地があり、しかも地球上の多くの場所が都市化されており、都市こそが生物の進化を促す場所になっているのだ。飛ばないタンポポの種、化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚、足が長くなったトカゲ・・・私たちの身近でひそかに起こっている様々な進化の実態に迫り、生物たちにとっての都市のあり方を問い直す。
ダーウィンの進化論は学生時代に習ったけれど、全く詳しくない。でも動物は好きだし、今の環境破壊には罪悪感とできることはやりたいなという気持ちがある。都市における進化って何だろう、面白いなと本書をとりましたが、こんな短期間で環境に合わせて遺伝子レベルで変化していくのかとびっくりした。遺伝子だけでなく個体間で学習したことを伝えるっていうのも、面白いなあ。人間が思うよりずっと、生き物たちはしたたかで強いんだな。外来種も含め、都市の中で彼らが生き生きと暮らせる環境を整えていくというのは持続可能な手段に思える。無理をするのではなく、現実を見据えた筆者の提案に賛同します。
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非常に興味深く読むことができた学術書であった。
生物の進化というと僕たちは100年、1000年単位でじっくりと変化していくと考えてしまうが、この本に書かれていることは、生物は思った以上に素早く進化してしてしまう。
いろいろな生物の進化の状況が記載されているが、特徴的なものでいえば、イギリスに住むある種の蛾である。
この蛾はもともと白い色の蛾だったのだが、産業革命時代に工場からの排気によりイギリスの空気は著しく汚染された。
つまり、木や壁などが黒く汚れてしまったのだ。
この蛾は体の色を黒く汚れた木や壁にとまっても目立たぬように白色から黒色に変化させていったという。
そして、産業革命も一段落つき、昔のように空気もきれいになってきた。そうするとこの蛾は黒色に変化した体の色を世代を経るごとに薄くしていき、昔のような白色に戻ったという。
つまり、200年にも満たない間にある昆虫は完全に色を変化させるような進化をしたのだ。
また、ある国の鳥は、巣を作るのに今までは木や草を使っていたのだが、ある時からタバコの吸い殻で巣を作るようになったという。
これは巣を作る木や草が無くなったからではなく、たばこの吸い殻に含まれるニコチンなどの成分が鳥の巣に住み着く寄生虫を殺す役割を果たすことをこの鳥は何らかの方法で知り、その世代以降、タバコの吸い殻を利用して巣を作るようになったという。
恐るべき進化である。
人間が思っている以上に生物たちは今の環境に順応しているのだ。
昆虫や小動物の世代交代は数十年で何サイクルもできる。その間にDNAのレベルで変化を起こしていき、彼らは進化していく。
人間の寿命は長いので、変化をしていく経過は非常にゆっくりである。
しかしながら、人間だって生物である。
見えない変化がじわじわと起こっているに違いない。
そう考えると、数万年後に今の人類が生き残っているとしたら、僕らが想像できないような進化を経ているのかもしれない。
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【本書の概要】
「生物の進化」は、何百年単位で起こる緩慢な遺伝子変化だと思われているが、実は都市における生物は、わたしたち人間が急速に作り替えた生活環境の変化に適応するように、急速に進化を続けている。
そうしたダイナミックな進化を記録するためにも、「都市進化研究」に携わる市民科学者を育成し、都市生物の進化を記録する「都市進化観察スコープ」を作ることを提案したい。
【本書の詳細】
0 前文
イギリスの「ロンドンチカイエカ」という蚊は、地下鉄に生息するにために自らの遺伝子を変化させた。この蚊はわたしたちに次のことを明示している。それは、何百万年もの時間をかけて行われると考えられている「生物の進化」が、いまここで観察できるほど急速に起こりうるものであるという事実だ。それは同時に、地球の生態系に対するわたしたち人間の支配力が非常に揺るぎないものとなった結果、地球上の生命が、全面的に都市化していくこの惑星への適応手段を進化させる過程にいるのではないかという可能性も示唆している。
減少しつつある無垢の自然ばかりにわたしたちが目を向けている間に、自然は全く新しい「都市生態系」を進化させ続けていたのだ。
もちろん、都市および都市的環境の侵略から野生の土地を保全しなければならないのは当然である。しかし、同時に、私達は従来の保全活動の実践(都市に潜む雑草や害獣の駆除)によって、人類の将来を支えてくれていた生態系そのものを破壊している可能性がある。
いまここにおいて、未知の新しい生態系を形成しつつある進化の力を受け入れ、それを利用することで、都市部に自然が育っていくのを許容する方向に向かう必要があるのではないだろうか。
1 人間が作り出した都市が生物多様性に貢献している
アリの創るアリ塚や、ビーバーの創るダムは、「生態系工学技術生物」として適応してきたアリやビーバーが作り出す複雑な自然生態系だ。アリ塚やダムは、自らの住処の材料として周辺環境の資源を活用することで生態系の再構築を行っている。
人が作り出す都市も基本は同じであり、生態系工学技術生物としてのホモ・サピエンスが作り出す、早大にして急激に地球に広がっていく自然の構造と捉えることができる。アリ塚とビーバーダムと人間の都市は、そこに適応分化する新たな生物多様性を生み出している。
そうした生物多様性を都市部で高めているのは、実は「外来種」である。
飛行機や自動車の発達、ペットの国際取引など、都市部に多くの種が流入するようになった結果、ヨーロッパ及び北アメリカの都市では、野生植物の35~40%が外来種となっている。
田舎の田園よりも都市において生物多様性が高いのは、主に次の要因が考えられる。
(1)異国の住人の絶え間ない往来がある
(2)都市に発展するような場所は、最初から生物学的に豊かな土地である
(3)都市境界に隣接する地域において、良質の生息地が失われた
→農業が集約化した田園耕作地よりも、都市の乱雑な環境において生物多様性が豊かになった
(4)都市の緑���隔絶された結果、パッチ状の生息地として変化に富んだ景域を形成するようになった
2 前適応
前適応とは、通常の進化、つまり自然選択の結果として起こる進化の逆――「進化の前に適応を行う」ことである。都市が提供する環境のなかに、ある生物種が以前の時代に営んだ生活局面にたまたま類似した状況が見つかることで、進化するよりも早く環境に適応する。
例えば、もともとは低木の茂みを住処としていたイエスズメが、駐輪場の複雑な金属のジャングルジムに適応するようなものだ。他にも、もとは崖を住処としていたハトや燕が、家やビルの軒先に巣を作る現象も前適応といえる。
都市の鳥には、岩質で複雑な構造の気質を好む種や、人間と共通の食の嗜好を持つ種、あるいは生息地に関してえり好みをしない種がいる。これも前適応の結果だ。
また、都市への前適応は鳴き声の響き方も左右する。都市の騒音はほぼ低周波であるため、都市部において最も普通に見られる野鳥は、比較的高い声の持ち主である。
3 工業暗化
19世紀初頭から後半にかけてヨーロッパで工業化が急速に進んだ結果、もともと白黒のまだら模様であったシモフリガが、都市部においては体色が黒く変わっていった。工場から出る煤の影響で黒くなった木肌の上では、白黒まだらは擬態の効果がなく鳥に捕食されてしまう。これは「工業暗化」と呼ばれる現象であり、世界で初めて「進化が現に進行中」のケースが発見された出来事であった。
ダーウィンは進化論の中で「進行中の緩慢なる変化を見ることはできない」と述べたが、事態はそれよりも急速に起こっていた。黒いガがマンチェスターを乗っ取るまでにはたった50年しかかからなかったのだ。
こうした工業化へのバックラッシュとして、1950年代から60年代にかけて、イングランドで大気汚染を抑制するための法律が施行された後には、白いガの割合が増加していった。
生物のDNAに生じたたった一つの変化が、人間由来の強力な自然選択圧に駆り立てられて、急激な変化をもたらす進化過程をスタートさせたのだった。
4 都市に適応するよう、遺伝子プールが断片化される
しばしば著しいパッチ状を呈することのある都市環境は、ロンドン地下鉄のトンネルに住む蚊都市公園に住むネズミなどのように、都市野生生物の遺伝子プールを非常に狭い範囲の生息地ごとに細分化する。
また、生息環境に起こる化学物質汚染に適応して進化する種(殺虫剤への耐性が増すゴキブリ)がいることや、人工光に適応するよう進化する種(ライトに近寄らないよう変異したガ)もいることが分かった。
前もって存在する遺伝子の変異帯を利用する進化を、生物学者たちは「軟らかい選択」と呼び、その時その場で生じる新たな突然変異を利用した進化を「硬い選択」と呼ぶ。進化と言えば前者であり、環境の変化が繰り返された結果最後に残った個体に備わる「結果論的事象」だと思われがちだが、環境変化が要求する遺伝子の組み合わせを瞬時に選び出して発芽させる能力も、遺伝子に備わっているのだ。
しかし、この本を読み進めてもなお、読者には一つの疑問が残るはずだ。それは、ある特徴を進化させる���いうことは、その形質があらかじめDNAにコード化されていなければいけないのではないか、ということだ。言い換えれば、体表が黒くなったガや翼が短くなったハトは――人間が持つ生まれつき白い肌が紫外線で黒く変わるように――生活環境の後天的変化を受けているだけではないのか、という疑問である。
この疑問はもっともであり、現に今も、動物の習性が生来的か学習によるものかを解き明かすための様々な実験が注意深く行われている。そのなかで、いくつかの生物の習性は生来的な進化であることが証明されている。しかし、たとえ都市的行動が学習によるものだとしても、何世代も経過するうちに、その学習結果が遺伝子に組み込まれるということはおおいにあり得る。
5 進化のフィードバックループ
南フランスの小都市では、ナマズが水辺にいるカワラバトの足に食らいつき、水中に引きずり込んで捕食する様子が確認されている。ナマズは泥の中を探って生物を捕食する魚であり、岸にジャンプして捕食するように生まれてはいない。
ここで登場するのがわたしたち人間である。人間は、カワラバトとナマズを都市へと持ち込むことで、それ以前には存在しなかった新たな生態学的条件を作り出したのだ。
都市の環境が生物に与える影響はあくまで一方向的なものだ。しかし、ナマズとハトの戦いは、ナマズがハトの水飲み行動に合わせてジャンプするよう進化し、ハトがナマズの捕食行動に合わせて素早く離陸するよう進化する、という「進化のフィードバックループ(第二種接近遭遇と呼ぶ)」を形成するかもしれない。そして、このループが一度発生すると、――まるで核兵器を防ぐために誰よりもたくさん核兵器を作るように――彼らは互いに進化をしつづけていかないと立ち行かなくなる可能性があるのだ。実際に進化のループが成立しているかは未確認だが、そうした応酬的な相互適応を進めつつある可能性は高いはずである。
6 教える動物
牛乳瓶のフタを明けるシジュウカラ、自動車のタイヤでクルミを割るカラスなど、動物の中には、人間達の情報を解読し、親しい仲間にその秘密を教えることのできるものがいる。彼らの特徴は、新しいものにより強く好奇心を示し、人間への恐怖心が少ないというものだ。そして、田舎の生物よりも都会の生物のほうが、より興味関心を示し、正体不明なものにも恐れを抱かず、餌にありつくための問題を解くスピードが速いことが分かった。
問題解決、新しいもの好き、そして許容性は、いずれも都市における進化を促す傾向がある。
7 歌声
都市の騒音は周波数が低いため、都市に棲む生物のほうが、田舎の生物よりも高音かつ大きく鳴く。これは遺伝子的変化と学習の両方の要因がある。
8 ダーウィン的都市づくり
世界の都市における土壌微生物や草本類は、輸送機関の発達で国境を越えて持ち込まれる生物が増えた結果、より均質に近づきつつある。世界の都市の生態系は、均質ながらも分散化した都市型生物多様性へと移行しつつある。そこでは、共通の生き物集団が生息し、人間が都市に導入する新しいテクノロジーに対応するために、常に種や遺伝子や新たな特性を交換しながら進化し続ける。結果的に環境の変化は高速化し、遠隔連携によって世界の都市のネットワークを通じて世界中に影響を及ぼす。
地球の都市生態系の構築に人間が大きな責任を負っている以上、これからどのような都市関係を設計するかを考えることは極めて重大なミッションである。
世界の都市で盛んに起こっているのが、ビルの屋上を活かした都市庭園の造成である。空きスペースを活用した緑地化は非常に有用な試みであるが、人間の手で入念に管理される「都市の緑」には雑多性が存在しない。
そこで、都市の緑のあり方について次のような提案をしたい。
(1)成長するに任せよ
→自発的な緑の空間の形成を
(2)必ずしも在来種でなくていい
→都市環境に適応進化しつつある種の多くは外来種である
(3)元の自然を拠点として守る
→都市に散らばる「都市以前の自然」を守ることも同様に大切
(4)栄光ある孤立
→緑の空間同士を繋げる必要はない
この4つに加え、都市進化研究に市民を巻き込むことで市民科学者を育成し、都市生物の進化を記録する「都市進化観察スコープ」を作ることを提案したい。
【感想】
常識がひっくり返る感覚を久しぶりに感じた。
そう、そうなのだ。言われてみれば確かにその通りなのだ。
家の中に出没するゴキブリには殺虫剤が効かなくなり、崖を住処とするツバメは玄関の軒先に巣を作る。カラスはあの手この手で家庭ごみを漁り、コンクリートを突き破って成長する大根が人々からもてはやされる。
生物が都市に適応する事例を、わたしたちは何度も目の当たりにしている。しかしながら、わたしたちは依然「生物の進化」という現象を、緩やかで目に見えない漸進的な営みにすぎないものとして認知している。人間が都市をコンクリートで覆い始めてから100年程度しか経っていないにも関わらず、生物たちは着実に適応しはじめ、DNAレベルで変異が発生しているという事実を、わたしたちは理解しておかなければならない。
わたしたちが都市の造成=自然破壊という図式を思い浮かべ、人間と自然を対立するものとみなす理由は2つ考えられると思う。
1つは、人間が動植物を一方的に管理していることから来る、彼らへの贖罪の意識である。
焼き畑や熱帯雨林の伐採、それに伴う環境の悪化が世界的課題になってから、人間は自分たちが起こした行いと責任を自覚するとともに、生態系の保護を優先するようになった。
しかしながら、「生態系保護」の持つ意味合いが「手つかずの自然主義」に変わってしまった感は否めず、その認識の齟齬が、都市の中で繁栄する動植物の存在を軽視することに繋がっている。
もう1つは、生態系の多様性が消滅することへの危惧だ。世界が均一なコンクリートで覆いつくされると、例え種が絶滅しなくても、生態系の幅が縮小し多様性が消滅する。これは近年メディアでも取りざたされる「外来種の敵視」にも現れている。
しかし、ある種を排斥することが多様性を生むと簡単に言えるのだろうか。
日本の田で繁茂するイネが本来外来種であるように、その地域に根付く外来種は、環境形成の一員として帰化し多様性の輪の中に織り込まれる���環境の変化と生物の進化が不離の関係にあるならば、外来種が混じった環境もまた、同様に尊重されるべき自然のはずだ。
そう、本来であれば、自然と人間を二項対立に据えるのが間違っている。
筆者は人間と自然の新しい調和の例を引き合いに出しながら、「都市生態系」という概念を詳細に論じていく。都市化は人間の手による生態系の再構成であり、その中で、非常に細かく分割された緑の生物圏が独自の多様性を保ちながら発展しはじめる。コナゴナに破壊されたかに見える命は破片以上の細かい断片として新たな環境を形成していく。
自然は人間が考えるよりもずっと強い。そして、そのことを理解していない人間が推進する「生態系の保全」は、緑が復活するメリットよりも、行き過ぎた管理から発生するデメリットのほうが大きいのではないか、そう警告する筆者はいわば「緑の自由主義者」だ。
筆者のそういった姿勢を、訳者は「過激な都市論」としてやや批判していたが、「世界的潮流である生態系保全の一面に潜む罠を認識し、本来あるべき姿を市民に明示する」という観点では、そこまで荒唐無稽では無いのかもしれないと、私は感じた。
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人間は決して特別な存在ではない、という言説が最近特に増えている。
大津波を「想定外」と言ってしまう人間の傲慢さを考えると、やはり、人間もまた自然の一部であるということを常に意識すべきだと思う。
そう考えると、自然の一部たる人間が作り出した「都市」もまた、自然の一部と言える。
森や海ばかりが自然ではないことは、この本を読み、都市に順応すべく進化する生物たちを知れば分かることだ。
鳥の鳴き声の話が面白い。
都市はうるさい。その中で仲間たちとコミュニケーションを取るため、「聴こえる」周波数に進化する鳥たち。
都市同士は、交流し、影響しあって均一化する傾向にあるならば、都市で進化する生物たちもまた、同じように進化するのか。
好蟻性生物ならぬ好人性生物を追いかけることで、ダーウィンの進化論実験を、体験できるとは。それも都市の進化に合わせた高スピードで。
興味深い。
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生物の進化について書かれた本ですが、題名の通り、都市において人間が誘発する急速な進化的変化(Human Induced Rapid Evolutionary Change:HIREC)の不思議について述べられています。
普段生活していて気が付きませんが、リアルタイムで進化的変化が起こっていると思うとワクワクしますね。どんな種類の動物・植物でも都市になじむわけではありませんが、都会に打ってつけの性質をもった性質をもった生き物がおり、その種固有の性質と進化の過程がとても分かりやすく解説されていました。
イエバトやスズメなど駅前にいますが、コンクリート、車、ゴミなどによって篩にかけられ、どの種が都市に留まるかを決定するのが「前適応」。砂漠のガス井のポンプから発生する騒音を用いた実験では、ナゲキバトのような低い音で囀る鳥はガス井に近寄らず、チャガシラヒメドのようなソプラノで囀る鳥は、騒音をはるかに超えて伝わり、また、ノグロハチドリは圧縮ポンプの近くに好んで巣をつくるらしく、これはハチドリの捕食者であるスクラブジェイが騒音に耐えられないから、という理由が考えられたそうです。都市の騒音もほぼ低音であり、”騒音公害と鳥類のマライア・キャリーたちの前適応との関係を証明するのに、なんと砂漠での調査が必要だったのである”は、なんともおしゃれな言い回し!HIRECは、人間、特に高密度の都市人口が野生の10%ないしそれ以上の選択圧を有するらしい、ととても興味深い内容でした。そして訳者あとがきの「自然保護、あるいはもっと大きく自然と人類の共生という観点から都市をどのように位置づけるか定説があるわけではない(中略)。都市と自然を対立させ、都市を否定し、手付かずの自然の回復を目指すことこそ環境倫理の方向という意見もなお強固である。」の後に、少し長いですが、里山とか、そういうものではなく、都市活動と自然を調和させるような活動こそ大事ではないか、という指摘はその通りと思いました。
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面白かった!スヒルトハウゼン博士は日本でもよく知られたオランダの進化生物学者、生殖器官のスペシャリスト。だが、本作は人間がドラマティックに環境を変化させた”都市”の”自然”環境にアジャストし、急速進化している生物についての、所謂総説。”Darwin"はダーウィン博士人物だけでなく、進化速度の単位でもある。1ダーウィンはおよそ1000年に0.1%の増加or減少。タイトルは都市の進化速度のあばれっぷりを感じさせる。
引用されている鳥関係の論文はすでに読んでいたものがほとんどだが、昆虫や植物類は初見のものも多く、フレッシュに楽しかった。先日読んだロソス博士のアノールの話ももちろん出てくる『生命の歴史は繰り返すのか』。スヒルトハウゼン博士のダシャレを日本語訳するのは、本当に大変なことだとも思う。
都市部特有の気象現象も生物に多大な影響を及ぼす、車や列車、人間がハリネズミの毛のように密集して過剰なカロリーを生み出し、その熱が高層建造物群の間に滞る、アーバンヒートアイランド。さらに、あらゆるところに使用されている、石材、アスファルト、金属が日中に太陽から直接、窓ガラスの反射光から間接的に熱を吸収し、夜間にゆっくりとその熱を放出する。住民数が10倍増えるごとに、気温は約3度上昇。さらに都心部には高温の空気柱が立ち上がり、そこに向かって全方向から風が吸い込まれる。空気柱が上昇するにつれエアは冷却され、空気柱に含まれる都市の塵の粒子を核にして水分が凝結、都市型集中豪雨が起きる。
島嶼生物地理という生態学理論の説明。騒々しい環境での鳥のさえずり変化の調査。エピジェネティクス。都市では男らしくないほうがモテる。シーボルトが日本からもちこんだ外来種。都市化研究のフィールドワーク。
たくさんの例がでてくる中から面白いものを挙げると
・ロンドンチカイエカ 地下鉄の構内で進化した蚊たち
路線によって亜種固定されている蚊
・アリとアリ社会に特化して進化した生物たち
特にアリの化学言語は社会的免疫系として機能しているんだが、好蟻性生物のアリへのハッッキング方法が色々あってすごい。甲虫クラヴィガー(Claviger testaceus)は腺から昆虫の死臭を出すことができ、アリ自身に巣内の育児室の食餌場に運んでもらい、アリの卵、幼虫、蛹を食らう。
・有名なマンチェスターのシモフリガの話
・NYC公園のそれぞれで進化しているシロアシネズミ
カビの生えたジャンクフードに発生する菌が生み出すアフラトキシンという発がん性有毒物質を中和する役目を担う通常とは大きくことなるAKR7遺伝子を持っている。さらに、FADS1という高脂肪食の処理をする遺伝子をも持つ。アイソレートされた小さい個体群の進化の例、ハリウッドの高速道路地帯のボブキャット、パリのインコなど。
・ドバトの羽色と亜鉛
・ヨーロッパアワノメイガとトウモロコシコンバイン
・メキシコのメキシコマシコとイエスズメ、タバコの吸い殻で巣の防虫。
・マミチョグ
ロンドン地下鉄の蚊
Why There's a Unique Mosquito Species in the London Underground
https://youtu.be/l4BMT8K8Wx4
『アムステルダムの野生生物』(2015)
De Wilde Stad filmtrailer
https://youtu.be/y5Sho_Sqji8
トレーラー
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著者はオランダの進化生物学者。特に前半が興味深い!
前半は都市で独自の進化を遂げつつある生物たちのストーリー、後半は著者の自然/都市論が語られる。
まず、自然に対するヒトの捉え方が少し独特。かつてビーバーが巣作りのために川を堰き止めダムを作るとき、元の環境は破壊され、そこに新たな生態系が生まれる。アリは大きなコロニーを形成するが、そのコロニーには好蟻性の昆虫たちが自分達のニッチを見つけ暮らしている。元の環境を変化させ、新たな生態系をも創造するビーバーやアリは、本書では「生態系工学技術生物」と呼ばれている。そして、その究極がホモ・サピエンスということだ。
世界は均一化した急速な都市化によって、かつての自然は失われている。だが、その都市という環境をニッチとして生きる好蟻性ならぬ「好人性」の生物が現れている。それは、元々都市化に向いている性質を持つという「前適応」によるものだったり、エピジェネティクスであったり、DNA自体の変異であったりし、最終的には分化した、違う種であると言えるほどの遺伝子的な特徴を持つまでに急速なスピードで進化を遂げている。
たとえば、本来暗闇を好むはずのクモが、電灯に群がる羽虫を捕らえるために進んで電燈近くに巣を張る習性を得ていること。かと思えば、都会の羽虫も徐々にだが人口の電燈に慣れていき、都会で何世代か経た羽虫は、森に住む羽虫より電燈に群がる数は少ないということ。
都会に住み着く鳥は、鳴き声の周波数が高いという前適応を持つために都会の騒音と競合せず仲間同士のコミュニケーションが取れること。羽の形状が短く丸く、瞬発力を持つこと。また、鳥の中には森の中で住んでいた頃より周波数が高くなっていく種がいたり、長距離を飛ぶよりも瞬発力に優れた羽の形状に変化していっていること。
また、興味深いのは、都会という新たな環境に適応している動物たちの特徴は、問題解決に関する知性を有すること、新しいものに興味を持ち、魅力を覚えることであるという。これは人の社会での在り方にも準えることができそうだ。
また、私が以前たまたま福岡に行った時に印象に残った市民センター「アクロス福岡」が載っていたのに驚きだった(アルゼンチンの建築家エミリオ・アーンバースが建てた「福岡県民ホール」とあったので、多分このことだろう)。ここの屋上庭園には76種の草木の種子が蒔かれ、理想的な植物の混生状態に工夫されている。ただ、筆者としては、より理想的なのは、緻密に計画された植生よりも、何も植えない空白を用意し、ただ飛んでくる草木の種子等の生育に任せるのがいいのでは、と言っているが。
個人的には、壁面全体を覆っていた植栽が年を重ねるにつれて最初から植えられていた植栽と、勝手に生えてきた草木とが合わさりある意味新たな都会の中の自然を作り出していくのもまたいいのではと思っている。明治神宮の100年計画の森づくりのストーリーを思い出した。
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「進化はいま、都市で起きている!生物学の新常識がここにある。進化とは、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」、ではなかった!人間が自分たちのためにつくったはずの都市が、今では生物たちにとって〈進化の最前線〉になっている。都市には生物にとって多様な環境を提供できる余地があり、しかも地球上の多くの場所が都市化されており、 都市こそが生物の進化を促す場所になっているのだ。
飛ばないタンポポの種、化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚、足が長くなったトカゲ……私たちの身近でひそかに起こっている様々な進化の実態に迫り、生物たちにとっての都市のあり方を問い直す。」