文学論 みんなのレビュー
- 夏目漱石著
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
文学論 上
2007/04/19 14:41
作家と身長
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の序の末尾に以下のような有名な一節が出てくる。「倫敦に住み暮らしたる二年は尤も不愉快の二年なり。余は英国紳士の間にあつて狼群に伍する一匹のむく犬の如く、あはれなる生活を営みたり。(中略)英国人は余を目して神経衰弱と云へり。ある日本人は書を本国に致して余を狂気なりと云へる由。」
どうして漱石はここまで追い詰められたのか。高坂正尭は、経済的に没落し、零落した現在の英国人と、「日の没することの無い大英帝国」の臣民を気取っていた今から100年前の英国人は全くの別物で100年前は自信に満ち溢れ傲岸不遜な連中が多かったのではないかと考察している。漱石はロンドンで「いじめ」にあったらしい。いじめにあって「引きこもり」となって、ついには英国人に「あいつは狂っている」とまで噂されるに至っている。文学に「いっちゃっている人たち」は明治の懊悩などと、このネクラの漱石を称揚するが、山本夏彦は私に漱石について全く別の視点を与えてくれた。そのタイトルは「作家と身長」というもので、作家の文章の背景には作家の世界観があって、その世界観は作家の身長によって大きく左右されるというのがその趣旨である。その例として挙げられたのが、我らが漱石先生で、夏目漱石の身長は5尺(約150センチ)たらずである。英国人の身長は現在と大差ない175センチ程度としても。これは相当なチビである。おまけに漱石の写真はことごとく修整されているので山本さんに指摘されるまで気がつかなかったが、漱石は幼少時に天然痘を患っており、その後遺症で「あばた面」だったそうなのである。あばた面は当時の英国では、既に珍しく、心無い英国人がこれを鹹かったとしても、無理のない面がある。ここまで来て、私は現代の日本に生まれて本当に良かったと思っている。何を隠そう今から26年前、私は初めて英国に行った。ケンブリッジで学ぶためである。ロンドンに降り立つ前の心境はまさに「狼群に伍する一匹のむく犬の如」きものであった。まだまだ「白人優位」の思想が日本で強く、戦々恐々としてガトウィック空港に降り立ったものである。ところがそこで私は「英国人は背が高くない」という発見をする。皆さん、私と同等かそれ以下の身長なのである。生活水準も、既に日本の方が上であった。都市のインフラ整備が立ち遅れていたロンドンは、当時の段階で東京より遅れていたのである。この発見後、私は全く物怖じしなくなった。英国でも普通に振舞うことが出来た。私の息子・娘と今夏ロンドンに行くが、彼ら彼女らもおそらく全くロンドンに行っても動じないだろう。緊張なんかしないだろう。英国人の身なりは押しなべて日本人より貧しいことを発見するであろう。レンガにスプレーで落書きすると絶対消せないということをそこに見るであろう。それもこれも吉田茂が日米安全保障条約を結び全面講和でなく単独講和の道を選んだお陰なのである。日本が経済的に発展し英国の水準をはるかに上回るまでになったお陰なのである。なお、本書は冒頭の「序」以外、特に読むべき価値は無い。Fだのfだのを振り回して、まるで物理学の講義をするかのごとく、漱石は文学論を論じるのだが、まるで理解できない。漱石は「文学なんか外道のするものです」という通念が支配的だった当時の時代にあって、何とか文学を「学問」にしたかったのである。その力みが「臭み」になっている。読めたものではない。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |