知恵の悲しみの時代 みんなのレビュー
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紙の本知恵の悲しみの時代
2007/02/19 14:20
もしかしたら誰にでもできること。心に触れた言葉を残し伝えること。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和の戦争の時代に公刊された本に残された言葉をもう一度みつめてみる。戦争が始まるころにこんな本が出版されていたのかとか、なぜ戦争の激しい時期にこんな本が、と考えさせる。書かれた文章そのものに感じるものがあったり、あとがきや翻訳者の言葉などに時代の人々の声が聞こえるものもある。
雑誌に連載された記事をまとめなおしたものであり、一つ一つは短いのだけれども、読み進むのにはとても力の要る、足の重さを感じる文章ばかりであった。多分それは、それぞれの本に残された、それぞれの個人の言葉と記憶の重さなのだろう。
・昭和七年に発行された「公民教本」。戦争がはじまった時の憲法(明治憲法)はその中でどのように語られていたのだろうか。
・1934年に文庫として発刊された、1929年に書かれたケストナーの「エミールと探偵たち」(1933年にヒトラーは焚書を行っているが、この本はそれを免れた数少ない本である)。翻訳者はどんな思いを「はしがき」に書いたか。
・戦争もかなり押し詰まってきたような1944年、なぜ「藩風と藩学」という廃止された郷土の学校の思い出の本が出版されたのか。
これらは戦争の表立った流れとしては残らないようなものかもしれないが、もしかしたら個人の生き方としては知っておきたい、伝えておかねばいけないと感じるものがこのなかにもあるのではないだろうか。著者はこれまでもさまざまな本をとりあげ、その心を伝えようと続けている。ここでも、その努力が続けられているのを感じる。著者がとりあげるのは、著者の意見に偏ったものであることは否定できない。それでも自分が感じたもの、大事だと思ったものを、一人ひとり、違う意見の個人が拾い上げ、伝えていくことが大事なのではないだろうか。
それはもしかしたら誰にでもできること、誰もが少しずつしなくてはならないこと。例えば私でも、自分の大事に思ったことを、忘れ去られないように、次の時代にまで残せるように、誰かに一言、どこかに一文、残すことぐらいはできるのではないか。たとえば、書評もそのひとつの形だったりするかもしれない。
古本屋にひっそりとある、字もかすれてしまったような本に見つけた、時代がみえる「あとがき」。行間に書き込まれた所有者の言葉。そんなところにもその時代の人の伝えたかったことが残っている。新しい本を買って読むばかりでなく、古い本が消える前にもっと触れておきたい、とそんな思いもつのってくる。
昭和の戦争だけではない。どんな形で身近な歴史を記憶に残し伝えていくのか。その大切さを考えさせられた。
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