- 販売開始日: 2024/02/10
- 出版社: 柏書房
- ISBN:978-4-7601-5556-9
密航のち洗濯
〈密航〉は危険な言葉、残忍な言葉だ。だからこれほど丁寧に、大事に、すみずみまで心を砕いて本にする人たちがいる。書き残してくれて、保存してくれて、調べてくれて本当にありがと...
密航のち洗濯
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商品説明
〈密航〉は危険な言葉、残忍な言葉だ。だからこれほど丁寧に、大事に、すみずみまで心を砕いて本にする人たちがいる。書き残してくれて、保存してくれて、調べてくれて本当にありがとう。100年を超えるこのリレーのアンカーは、読む私たちだ。心からお薦めする。
――斎藤真理子さん(翻訳者)
本書を通して、「日本人である」ということの複雑さ、曖昧さ、寄る辺のなさを、多くの「日本人」の読者に知ってほしいと切に願います。
――ドミニク・チェンさん(早稲田大学文学学術院教授)
【本書の内容】
1946年夏。朝鮮から日本へ、
男は「密航」で海を渡った。
日本人から朝鮮人へ、
女は裕福な家を捨てて男と結婚した。
貧しい二人はやがて洗濯屋をはじめる。
朝鮮と日本の間の海を合法的に渡ることがほぼ不可能だった時代。それでも生きていくために船に乗った人々の移動は「密航」と呼ばれた。
1946年夏。一人の男が日本へ「密航」した。彼が生きた植民地期の朝鮮と日本、戦後の東京でつくった家族一人ひとりの人生をたどる。手がかりにしたのは、「その後」を知る子どもたちへのインタビューと、わずかに残された文書群。
「きさまなんかにおれの気持がわかるもんか」
「あなただってわたしの気持はわかりません。わたしは祖国をすてて、あなたをえらんだ女です。朝鮮人の妻として誇りをもって生きたいのです」
植民地、警察、戦争、占領、移動、国籍、戸籍、収容、病、貧困、労働、福祉、ジェンダー、あるいは、誰かが「書くこと」と「書けること」について。
この複雑な、だが決して例外的ではなかった五人の家族が、この国で生きてきた。
蔚山(ウルサン)、釜山、山口、東京――
ゆかりの土地を歩きながら、100年を超える歴史を丹念に描き出していく。ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』初の書籍化企画。
【洗濯屋の家族】
[父]尹紫遠 ユン ジャウォン
1911‐64年。朝鮮・蔚山生まれ。植民地期に12歳で渡日し、戦後に「密航」で再渡日する。洗濯屋などの仕事をしながら、作家としての活動も続けた。1946-64年に日記を書いた。
[母]大津登志子 おおつ としこ
1924‐2014年。東京・千駄ヶ谷の裕福な家庭に生まれる。「満洲」で敗戦を迎えたのちに「引揚げ」を経験。その後、12歳年上の尹紫遠と結婚したことで「朝鮮人」となった。
[長男]泰玄 テヒョン/たいげん
1949年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校、上智大学を経て、イギリス系の金融機関に勤めた。
[長女]逸己 いつこ/イルギ
1951年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校を経て、20歳で長男を出産。産業ロボットの工場(こうば)で長く働いた。
[次男]泰眞 テジン/たいしん
1959‐2014年。東京生まれ。兄と同じく、上智大学卒業後に金融業界に就職。幼い頃から体が弱く、50代で亡くなった。
目次
- プロローグ
- 密航 1946
- 関釜のあいだの海/蔚山からの密航船/K村の警防団/下関での感染拡大/仙崎港の朝鮮人たち/1946年のコレラ禍
- 第1章 植民地の子ども
- 1 朝鮮 1911‐24
- 鯨のまち長生浦/方魚津の日本人町/蔚山の市街地/江陽里の老人たち/対馬の先へ/植民地都市釜山
- 2 日本 1924‐44
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ある家族から戦後日本の現代社会を照らす
2024/08/04 18:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルや表紙絵・装丁から受けていたイメージと、実際の本書の内容とはかなり開きがあった。
想像していた「苦労して戦後を生きた在日朝鮮人一家の物語」ではないのだ。そんなステレオタイプは打ち砕かれる。
もちろん本書で取り上げられているのは、戦後を苦労して生き抜いた在日朝鮮人一家ではある。日本の植民地支配によって「日本人」だった朝鮮半島の人たちは、日本の敗戦で、一方的に国籍を奪われる。
それだけでも十分理不尽であるし、混乱や差別、貧困と言った数々の問題が立ちはだかる。しかし、本書は日本の植民地支配や歴史を糾弾するものでも、涙を誘うようタッチのノンフィクションや評伝でもない。
ある意味、突き放しているかのように、日本の敗戦後の混乱の中で日本にたどり着きこの地で生きた在日作家の歩みを、わずかな史料などから淡々とたどった論考である。
ルポと言うよりは論文に近い体裁のためか、最初は関心はあっても読みにくく、なかなか内容に入り込めなかったのだが、現在に生きている子どもたちへのインタビュー当たりからだんだんと吸い寄せられ、一気に読ませる。
家族の国籍問題などを取り上げている部分は、現代においても何も変わらない問題であり、興味深かった。
ある作家とその一家の戦後を通し、歴史の一端に触れられるだけでなく、現代社会が抱えるさまざまな問題を照射する一冊であった。良書。
「朝鮮詩集」の陰が薄い本
2024/12/24 15:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
尹紫遠と言えば知られているのは金素雲の「朝鮮詩集」の解説ぐらいだろう。どういう事情かは知らないが金素雲の記述が少ないのは著者の立場があるのだろうか?朝聯に関わりを持った尹紫遠が韓国政府からパスポートを取り上げられて日本で生活していたとはいえ北朝鮮ではなく韓国を選んだ金素雲と関わりを持ったのか?それは重要ではないのか?
金素雲にしても最初の妻は日本人で娘が結婚したのは日本人の牧師なのは習知の事だ。
著者は韓国を批判する為に4・3や保導聯盟事件を取り上げるなら朝鮮戦争は一応、南侵とは書いているが、これはどうなるのか?人民軍占領下で韓国の著名人を北に拉致したのは朝鮮人民軍ではないのか?と言いたくなる。この時代の韓国の著名人の運命を調べて一番気が滅入るのは植民地時代でも昭和10年代の「皇民化運動」でも韓国でもなく朝鮮民主主義人民共和国で辿った運命だ。
在日朝鮮人家族の戦後から、現代社会を照らす
2024/06/12 12:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
【在日朝鮮人家族の戦後から、現代社会を照らす】
表紙絵をはじめとする装丁から私が受けたイメージと、実際の内容とはかなり開きがあった。
想像していた「苦労して戦後を生きた在日朝鮮人一家の物語」ではないのだ。そんなステレオタイプなイメージは、打ち砕かれるのだ。
もちろん、本書に取り上げられた家族は、戦後を苦労して生き抜いた在日朝鮮人一家ではある。
日本の植民地支配によって「日本人」だった朝鮮の人たちは、日本の敗戦で一方的に国籍を奪われる。それだけで十分不条理だし、混乱や差別、貧困などいろいろな問題が立ちはだかる。
しかし、本書は日本の植民地支配や歴史を糾弾するものでも涙を誘うようなタッチで読ませるノンフィクションや評伝でもない。
ある意味、突き放しているかのように、日本の敗戦後の混乱の中で日本にたどり着きこの地で生きた在日作家の歩みを、わずかな資料などからたどった論考である。
ルポというよりは論文に近い体裁(文体の問題?)のためか、最初はこうした問題に関心があっても、少々読みにくく、なかなか内容に入り込めなかったが、現在に生きる子どもたちのインタビューが出てくる当たりから、だんだん吸い寄せられ、一気に読めた。
家族の国籍問題などを取り上げている部分は、現代においても何も変わっていない問題で、非常に興味深かった。
ある作家とその一家の戦後を通して、歴史の一断片に触れられるだけでなく、現代社会が抱えるさまざまな問題を照射する一冊だ。