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紙の本
どこまでも追ってくる
2013/12/23 14:36
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
たぶんごく平凡な男。小さな野心にも挫折した。学生の時に参加したデモで間が悪く公務執行妨害のくじを引いて、それでも映画雑誌の編集部に拾ってもらったのは運がいい方、むしろ同世代憧れのチョイ悪経歴か。
それがスペイン内戦からナチスへと続くファシズムの系譜、戦後日本の疑獄事件、そしてチリの軍事クーデターという現代史の怒涛を漂流することになる。彼ら自身も、実は日本古来からの海洋漂流民の末裔だったり山岳漂流民の末裔だったりと、そもそもが忙しい。さらに右翼の大物に気に入られたり、恩師の娘が追いかけて来たり。どうも主人公が何か活躍するというより、状況に流されるままに漂流しているだけではある。しかしその無為さに意味があって、たまたま国家の土台を揺るがすような秘密に触れた者は、抹殺されるか、そこから逃れて逃亡するしかないということなのだ。
漂流民という存在が、そもそも国家の局外にいることであり、もうそれだけで国家に追われるのに十分な理由になる。海上を棲み家とし、山岳を棲み家とするような人々にとって、引かれた国境は自分たちの生活エリアを分断し、国家の中央機関は辺境に位置するだけの存在だ。つまり国家というものは、必ず誰かしら人間の生き方に矛盾した存在となる。そのことが主人公の突入するチェイスの根本原因であり、スペインでも、日本でも、チリでも、その矛盾を覆い隠そうとすることが国家権力の本質を現している。
それは歴史の問題でないことは、現代のシリアでもスーダンでも、順調な経済発展を遂げているように見える多くの国々でも、その軋轢が存在することで分かるだろう。凡俗なる主人公に降り掛かった否応無しの冒険は、すべて誰にも訪れる。
物語はフランコ、ヒットラーに振り回された一人の画家の生涯を、ピカソ、音楽家カザルス、詩人ネルーダという、やはり似たような苦難の道を辿った芸術家達が見守る。ひと時の祝祭のような、しかし絶望を謳う祝祭だ。