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紙の本
浪漫派の世界
2015/09/30 12:16
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
三島由紀夫氏が「浪漫派はノヴァーリスで終わった」とどこかで書かれており、いつか読んでみたいと思っていました。夭逝した著者であり未完ですが、十二分に堪能できました。
入手困難でしたが、今回岩波文庫で新たに読めるようになり、勇んで購入したわけです。読後は浪漫派とはこういう世界を文学の中に構築した人たちなのかなと。
青年の夢の中に現れる「青い花」。それは少年から青年へと成長する時に出会う心を汲みとられるような方との「甘美な出会い」の象徴でしょうかね。
ドイツ文学特有の固い翻訳ではなく読みやすいもので、ゲーテやヘッセの教養小説のカテゴリーかもしれませんが、その甘美さはえも言われぬ世界をひきたてています。
紙の本
水をめぐる二つの夢
2002/04/07 17:03
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
四方田犬彦著『ハイスクール・ブッキッシュライフ』(講談社)にノヴァーリスを取り上げた章がある。本屋で立ち読みしただけなので細部はよく覚えていないけれど、その文章は『青い花』の要約に始まってノヴァーリスの奇跡のような断章や『サイスの弟子たち』へと話題を転じ、かつて南原実ゼミで著者と席を並べた中井章子が二十年かけて著した『ノヴァーリスと自然神秘思想』に言及して終わっていた。高校生の頃読んでいたならばもっと瑞々しい体験を語ることができたろうにと悔やまれるが、それでも『青い花』は中年ブッキッシュライフを濃く深く彩ってくれた。
この未完の小説の第一部「期待」は、水をめぐる二つの夢で語ることができる。もちろんこんな粗雑な規定など無意味に決まっているのだが、物語の骨格をなす旅、洞窟や坑道のイメージはいずれも水に至る、あるいは水の痕跡を示している。訳注には「ノヴァーリスにおいては、水に性的な意味がこめられている」とあった。また、マティルダ(青い花)の父クリングゾールの言葉──《戦いがおこると、万物の生成の源である原水が動きだす。すると新しい大陸が生成され、さまざまの種族が新たに膨大な溶液から析出するという。ところで真の戦いは宗教戦争であり、これはひたすらに破滅へむかってつきすすみ、そこでは人間の狂気がもろに露呈される。》(184頁)──は「すべての鉱物は高温の原海の沈澱によって生じた」とするヴェルナーの鉱物水成説を踏まえていること、「海と陸が愛の炎に溶けるという神秘主義的な隠喩には、熱によって固体が液化し、混合して他の物体が形成されるという、当時の熱理論が結びついている」ことが指摘されていた。
いずれも青い花(マティルダ)につながる二つの夢からの抜粋。その一。《まるで夕焼け雲にすっぽり包まれているようで、この世のものとは思われぬ感覚が体中にみなぎってきた。ひそやかな官能の歓びと手を結ぼうと、ほしいままな想いが次々と胸の内にわきおこり、いまだ目にしたこともない彫像が新たに浮かんできたかと思うとまた溶けあうように消えていった。だがいつしかそれが肉眼にもとらえられる生きものの姿となって青年の肌をつつみこんだ。四大元素のひとつ、やさしい水がまわりじゅうからふくよかな乳房となってまつわりついてきたのだ。たゆたう池の水は、じつはなよやかな娘たちの溶液で、それが青年の体にふれる瞬間、本来の姿に変じるかのようであった。》(17頁)
その二。《マティルダは手をふって、なにか言いたげだった。小舟がすっかり浸水しているのに、マティルダはいうにいえぬ思いをこめた笑みをうかべ、ゆっくりと渦をのぞきこんでいたかと思うと、あっという間にその中へすいこまれていった。》(171頁)
付録として、クリングゾールの印象的な言葉。《自然とひとの心情との関係は、物体と光の関係に似ている。物体は光をさえぎり、光を屈折させて固有の色彩を呈する。物体がその表面や内部に光を点じるとき、光が物体の明るさと等しくなると、物体は明るくなり、透明になる。光が物体の明るさより強くなると、光はその物体から放射して、他の物体を照らす。》(175頁)
紙の本
甘ーい
2010/05/01 11:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は一人の青年が旅の過程で愛と悲しみと、そして世界を知る物語になるはずだったのだろう。しかし作者の早世のために未完である。成長過程となる前半部分、そしてラストシーンだけが残されている。見知らぬ世界を知り、愛を得る過程は美しく、知性と官能が満ちていく。そこにはいくつもの詩やメールヒェンに彩られ、美こそが真実というのかなんとか、そういう迫力が伝わって来る。
ただやはり、おそらく奈落へ転げ落ちて人生の悲哀を味わい尽くすのだろうと想像される後半部が無いのは、つくづく惜しい。遺された最後のシーンの部分で、その壮大な展開が予想されるだけに。
面白いところは、一つは十字軍の被害からドイツの地に逃れてきたアラブの女性が登場し、主人公を導く役目を担う一人であろうと思われること。この18世紀末のヨーロッパでこういうのはかなり挑戦的だったんではないだろうか。しかしもちろん、物語的には世界の拡がりを感じさせるし、あらゆる障壁を乗り越えて美と真実を追求しようとする作者の意気込みも好もしく思える。
もう一つは、鉱山技師がやはり重要な役割で登場することで、作者自身が鉱山で学んだ経験があるとのことで、大地の組成から価値あるものを汲み出す技能に普遍的な価値を与えようとしているところも、作者の個性となっている。
そんなわけでいろいろ面白く素晴らしいのだけど、もし作者が長生きしていて、未完部分が完成したとしたら本作が作者の代表作になったかというと、やや迫力に欠ける気もする。たぶんこのアラブ婦人や鉱山技師のような人物がもう数人出てきて、何が本筋か分からないぐらいの大騒ぎになると、時代をひっくり返すような大展開があるかもしれない。あるいはぼんぼん育ちの主人公自身が、破壊者、革命者のような存在になるか。そしてそのような作品は書かれ得たと思うので、やはり非常に残念なことである。ただし本作だけでも、滴るような甘い情感が目一杯に堪能できるのはよき哉よき哉。