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紙の本
テロリストが絶望する時
2016/11/26 20:08
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
産業発展に湧く大英帝国にも社会矛盾は積み重なってきて、それが社会主義者を生み、フェビアン協会のような穏健派もいれば、革命家も、アナキストも、テロリストも跋扈し、それらを利用とする外国勢力も策動する。心情的に賛同する者もいれば、生活の向上よりも秩序を重視する者もいて、労働者も警官もすべての人に、それぞれ固有の態度がある。強固に見えるイデオロギー組織もけっして一枚岩ではなく、それぞれの主義主張でてんで勝手にしている。
当時グリニッジ天文台の爆破未遂というのが実際にあって、その奇妙な事件からインスピレーションを得て書いた作品だという。誰が何のためにグリニッジを。描かれるテロリストや理論家たちの姿はたしかにみな怪しげであり、あるいは現実はたぶんもっと奇態だったのかもしれないが、この作品の人物たちはそれぞれに理性的な常識人であるところがむしろ怖い。
誰も狂ってもいないし、自暴自棄でもなく、小市民としての生活を守ろうとしている。その動機、発想、手段、いずれも個々の立場からは合理的なのだが、結果は頓馬なものに成り果ててしまう。それは帝国の繁栄の中で息づき始めたヒューマニズムと現実の衝突がもたらす軋みなのだろう。
体制側としても、社会主義者やアナキスト達の存在を認めながら、排除できないでいる事情でも同じことで、両方のサイドからの押したり引いたりを繰り返し、明確な論理も成果もないままの中で、曖昧な疑問や不安や恐怖が、少しづつ人々の意識を動かしていき、社会の変革を紡ぎだしていく過程といえる。
積み重なっていく幾つもの不合理の狭間で、あり得べからざる悲劇もまた生じる。主人公の妻にとっても、優しく頼れる夫であった男は、突如として自分にとっての混乱と矛盾の顔で立ち現れる。それは個人でも夫婦にでも解消できない巨大な壁を背負っていて、逃れられない破滅となったのだ。
平凡な暮らしを望みつつ、二重スパイ的な活動にも誇りを持つ主人公にとっても、この結末は予想できないものだったらしい。それは人間の意思や理性、正義であれ悪徳であれ、そういったものとは全く別の要因で社会は動き、変革されていくものであることを悟らされたからではないか。そこから先は、坂道を下るように転落するしかなかったのではないか。理想でも思想でもなくても、信じていた自分の力というものが崩れ去った男の、そして女の生き様に、作者の見たロンドンが集約されている。
紙の本
初めてのコンラッド、面白かった
2021/01/26 22:20
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
巻末の訳者・土岐氏による解題によると、ケンブリッジの学者・批評家F・R・リーヴィスという人が「偉大なる伝統」という自著のなかでジェイン・オースティン、ジョージ・エリオット、ヘンリー・ジェイムズと並ぶイギリス小説史上の大作家と記してから、そう認められたと書いている。その4人の中でヘンリー・ジェイムズは元々アメリカの人だし、彼もポーランドの人というのは面白い。ヴァーロックはいずれは殺される運命にあるとは思っていたが、アナーキストでもなく、大使館の人間にでもなく、警察にでもなく、妻に殺されるとは。ヴァーロック夫人が絞首刑を怖がり、「与えられた落下距離は十四フィート」と呟くシーンは何とも怖い
紙の本
危険なバトンを繋ぐ
2022/07/02 14:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
某国大使館から過激派組織までと、ロンドンの街並みに陰謀が渦巻いていました。心に孤独を抱えたヴァーロックを始点に、リレー形式で映し出される物語もスリリングです。