紙の本
後藤が提示した問題は今なお生きている
2002/10/06 10:38
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
台湾民生長官として今日の台湾の基礎を作り、満鉄総裁として
満鉄の経営の基礎を固め、東京市長として関東大震災後の東京
復興に腕を振るった男、後藤新平。「大風呂敷」とも揶揄された
巨人の生涯を現代最高の政治学者北岡伸一先生が生き生きと活写
している。後藤新平は元々はお医者さんだったのですが全ての
関係を「医者と患者」の立場に引きなおして発想するところが
面白い。つまり医者は患者に対し知識・技術の面で圧倒的優位の
地位を占め、患者は精神的にも肉体的にも全面的に医者に
依存しているのであって、日本も台湾、満州、朝鮮に対し医者と
患者の関係になるようにならねばならない。そのためには大調査
機関(シンクタンク)を構築し、一大科学調査を断行してその
調査を基礎に政策を構築すべきだと台湾でも、満州でも東京でも
後藤は主張し実行している。草柳大蔵「満鉄調査部」で満鉄は
当時世界最大のシンクタンクであったと描かれているが、それが
後藤の発想の産物であることを思うと、そこに後藤の偉大さを
認めざるを得ない。また後藤は、やはり医者という立場から
「生物学的配慮」を非常に重んじ、欧米の思想やシステムを
いきなり台湾や満州に移植することを厳に戒めた。あらゆる
生命体にはそれ相応のシステムを持っておりいきなり外から
別のシステムを移植しても上手くいくわけがないのだと。まず
対象となる社会をよく調査し、それに上手く適合するように
工夫しながら改革を行うことが絶対に必要だと後藤は言ったのである。
それが後藤が主導した台湾の植民地化が上手くいき、後藤が関与
すること薄かった朝鮮統治が上手くいかなかった原因ともされて
いる。「アングロサクソンになれる人が成功する」なんて糸瀬茂の
ような軽薄な主張が大手を振るってまかり通っていた昨今、この
主張は十分傾聴に値するものである。そして最後に米国との協調
よりロシア・中国との関係を重視した後藤の外交思想が出てくる。
幾ら日米関係が強化されても国境を接する中国、ロシアとの関係が
不安定な限り日本の不安は除去されない。ロシアとの間でもっと
胸襟を開いた安全保障交渉が進展していれば、ロシアによる復讐に
対する恐怖から行われた満州事変もそれに続く日中戦争の泥沼化も
もしかしたらなかったかも知れないという北岡伸一教授の指摘は
深く重いものがある。現代の外交関係を考えるにあたって必読の
書と言える。
紙の本
後藤新平について
2024/02/02 08:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初にざっくり概要を知りたい人に便利。私もよく知らなかったので、だいたいどんな人かをこの本を読んで知りました。あとは、詳しい本を続けて読むとベスト。
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現・東京大学法学部教授(日本政治史)の北岡伸一による後藤新平(1857-1929)の評伝
【構成】
序章 医学と衛生
1 青年時代
2 衛生局時代
第1章 台湾民政長官
1 台湾統治の基礎
2 台湾の「文明化」
3 清国とアメリカ
第2章 満鉄総裁
1 総裁就任
2 初期経営方針-大連中心主義と文装的武備
3 満鉄をめぐる国際関係
第3章 官僚政治と政党政治
1 第二次桂内閣時代
2 在野時代
3 大正政変と桂新党
第4章 第一次世界大戦と日本
1 大隈内閣批判
2 寺内内閣の成立
3 中国とロシア
第5章 失われた可能性
1 世界大戦後の世界と日本
2 ヨッフェ招請と帝都復興
3 晩年
明治初期西洋医学を修め内務省のテクノクラートとしてキャリアをスタートした後藤新平は、台湾総督府のNo.2、満鉄総裁、逓信大臣を経て寺内内閣では非外交官で初の外務大臣に就くという異色の経歴を持つ。近年後藤の女婿にあたる鶴見祐輔が遺した長大な伝記が復刊されたり、都市計画を中心とした植民地経営の手腕が再評価されつつあるが、本書は敢えて後藤の「外交」を描こうとするところにその特色がある。
後藤は、台湾時代にその対岸の福建をめぐる対米関係に注目し、満洲においては満鉄による鉄道経営を軸にしながら、ロシア帝国(ソ連)、清国との対立ではなく提携関係樹立に心を砕く。都市を整備し、教育・医療を整え、鉄道を敷いて植民地を「文明化」することこそが後藤にとっての「外交」であった。軍事力でねじ伏せるのではなく、現地人を経済的利害関係に取り込み、そこに周辺諸国との友好的な関係構築の可能性を後藤は探った。
このように対中・対ソ関係の推進を目指した後藤が、第一次大戦中に大隈内閣によって発せられた二十一箇条の要求への断固たる反対から、満洲の権益を保護するために寺内内閣の外相として自らシベリア出兵へと舵をきってしまうという転回は興味深い。そして、自分が壊した対ソ関係を、晩年老体に鞭をうってヨッフェ、スターリンと直接会談をもつことで修復しようと試みるところなどは、常人の発想では追いつかない。
同時代人から突拍子もないものとして受け入れられなかった後藤新平のユニークな発想を、著者は彼が培ってきた「生物学的」国家観をキーワードとして魅力的に説明している。後藤新平というレンズで近代東アジア国際関係を見つめ直してみるのも面白い。
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後藤新平の入門書として選んだけど、文体が私に合ってたみたい。後藤の外交政策や人間性の描き方は示唆に富んでいて、さりげなく現代社会の参考にもできそう。
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[ 内容 ]
後藤新平が、台湾総督府民政長官や満鉄総裁として植民地経営に辣腕を振い、鉄道院総裁として国鉄の発展の基礎を築き、都市計画に雄大なヴィジョンを示したことは今日なお評価されるが、外交指導者としては、ほとんど忘れられている。
しかし、当時にあっては矛盾と飛躍に満ちた言動ながら後藤の人気は高く、「唯一の国民外交家」とまで評されるほどであった。
本書は、外交指導者の条件を問いつつ、後藤新平の足跡を辿る評伝である。
[ 目次 ]
序章 医学と衛生(青年時代;衛生局時代)
第1章 台湾民政長官(台湾統治の基礎;台湾の「文明化」;清国とアメリカ)
第2章 満鉄総裁(総裁就任;初期経営方針―大連中心主義と文装的武備;満鉄をめぐる国際関係)
第3章 官僚政治と政党政治(第二次桂内閣時代;在野時代;大正政変と桂新党)
第4章 第一次世界大戦と日本(大隈内閣批判;寺内内閣の成立;中国とロシア)
第5章 失われた可能性(世界大戦後の世界と日本;ヨッフェ招請と帝都復興;晩年)
後藤新平年譜
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[ 参考となる書評 ]
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本書は植民地経営・都市計画に類まれなる才能を発揮し、そのすぐれた外交ビジョンから「唯一の国民外交家」と称えられた後藤新平に焦点を当てる。
後藤の発想はとてもユニークだ。
彼は常に「生物学の原則」に基づく政策を行う。
これは医学経験から導き出された彼独自の発想であり、徹底した現地調査と現地慣習の尊重に基づいた政策を是とするもので、台湾や満鉄の植民地経営では多大な成果を上げた。植民地を「野蛮」として見下す傾向にあった当時においては卓見である。
また、東京市長時代には関東大震災後に大胆な復興計画を立案し、「大風呂敷」と揶揄されながらも先進的な都市改革を提示した。
惜しむらくは晩年に彼の支援者が現れず、後藤の真価が発揮されなかった事だろう。いつの時代も長期的利益は短期的利益の陰に隠れてしまうようだ。
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最初に後藤新平を知ったのは、植民地台湾の民政長官としてだった。本書を読んで、東京都市復興計画のこと、満鉄総裁のときのこと、大変勉強になりました。
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台湾経営、満鉄経営にて成果を挙げた後藤新平の生涯を追う一冊。
前半は生い立ちから台湾/満鉄について記述されているが
後半は日本に帰ってからの政治家としての活動が主。
巨大なバックボーンを得て緻密なデータ集計のもと
ブルドーザーのごとく植民地経営を行った前半に比べて、
後半の成果の少なさは悲しさすら感じる。
外交及び東京の都市計画に関する思想そのものは
すばらしかったのかもしれないが、
それを実現できなかったのが、後藤新平なのだと思う。
昔の本ではあるが、充分読みやすく内容も分かりやすい良書。
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後藤新平の偉大さを再認識させられます。
説明するのが苦手だったとかの人間らしい記述や語学が苦手だったとかの記述に勝手に親近感が湧きました。
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後藤の外交の基本戦略である「日中露(ソ)提携論」というユニークな外交思想をベースとした評伝。結果的には後藤の構想は上手く行く事はなかったわけだが、目まぐるしく変化する内外の政治情勢の中で奮闘する後藤を見ていると(かなり強引な事もやってはいるが)、一筋縄ではいかない政治の難しさを痛感できる。
読み応えがあるのは第一次大戦以降を扱った4章・5章。歴史にIFは禁物ではあるが、もし「日中露(ソ)提携論」が上手く行っていれば、その後の歴史は全く違うものになっていただろうと思わせられる内容になっている。また、著者は後藤をやや辛口に評価している部分もあるが、後藤みたいなタイプは好きなんだろうなと感じるところもある。
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後藤新平を通して当時の歴史を俯瞰できた。
また、考え方が合わないとか脅威になり得るとかで直ちに相手を潰しにかかるのではなく、共通の利益を見出し、それを共通の価値観として共有し、共同でことにあたるという考えはすごく素敵だと思った。実際戦争のほとんどは敵愾心から起こるものだけに。