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迷走日本の原点 (新潮文庫)
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紙の本
論争の書
2003/07/27 01:24
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
櫻井よしこの文章は保守系月刊誌でよく目にした。個人的感懐や埋め草的駄弁を一切交えず、鋭く事の本質を抉り真一文字に結論を導く「純粋時評」ともいうべき硬派・辛口の筆鋒は、その風貌と語り口のやわらかさもあってか、一種独特の品格と奥深さをたたえている。そこで主張されている議論に賛同するかどうかは別にして、怜悧な怒りと揺るぎない信念に裏打ちされた紛れもない「論」がくっきりと確かに立ち上がっている。
「櫻井よしこ、魂の直言集」と銘打たれた『迷走日本の原点』は、そうした時論とは趣を異にして、壊死寸前の日本の惨状をもたらした原罪と、もう一つの日本を希望をもって展望する起点を「奥深い歴史」のうちに探った書物である。俎上に上るのは、経済至上主義や「吉田ドクトリン」といった戦後日本のイデオロギー、金融、官僚、系列、教育といった疲弊した制度、領土や国防や国家観、憲法改正や在日韓国人といった未解決問題で、ジャーナリスト・櫻井よしこは、あくまで事実と歴史に即して、自らの「論」が立ち上がるべき原点を特定していく。著者の「論」を受け入れるかどうかを云々する前に、まずここで特定された事実(歴史)を吟味する冷静な作業が必要だ。論争の書とは、このような書物を言うのだと思う。
誰の言葉かは忘れたが、政治と行政を見切るためには税制と農政をウォッチすればよいという。本書でも「税制が日本人の自立を阻んでいる」と「バラマキ農政のアリ地獄ふたたび」の二つの章で、国家総動員法(1938年公布)に関連する戦費調達税制(直接税中心主義や源泉徴収制度)と食糧管理法(1942施行)以来の、税制と農政の迷走ぶりが詳細に報告されている。とても説得力がある文章だと私は思うのだが、さてそこからどのような「論」を立ち上げるべきかと考えたとき、微妙な違和感が拭えなかった。(それは、約80種の租税特別措置が税の公正を、ひいては国民の自立心を損なっているという主張と、農業を自立させるために国は農業への口出しをやめ、税制や行政措置を一刻も早く実施すべきであるという主張との間に政策的整合性が認めがたいといったことだけではない。)
櫻井よしこの「論」の根っこには、国というものに対する揺るぎない信念がある。個人のアイデンティティや自立の根拠とは、究極のところ国である。「個人の存在を粒だたせ、光らせていくと同時に、個人の総合体としての国を意識し、国益を考えていくことが重要な世紀に入ったのだ」(あとがき)。しかし、そこで言われる「国」とは、究極のところ諸個人と制度に尽きるはずだ。税制であれ農政であれ、もちろん金融や教育、社会基盤であれ、宇沢弘文が「社会的共通資本」と呼ぶ一切のものが、必ずしも「国」という観念によらずとも厳密に(工学的に)考察できるはずだ。
櫻井よしこの「論」が根底に据えた「国」という観念がまとうロマンティシズムの薄皮を慎重に剥いだときにこそ、たとえば最終章「フリーター200万人の漂流」で、フリーターを日本の閉塞を突破する人材へと転じるため、政府は大胆に若者たちを海外で学ばせるプログラムを組むべきだといった「現実的」な政策提言が生まれてくる。