紙の本
無関係な死・時の崖
2001/10/04 19:54
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投稿者:あんぱん - この投稿者のレビュー一覧を見る
安部公房の短篇小説集。
「時の崖」はボクサーの心理描写によるなかなか画期的な短篇小説である。
無関係な死は知らぬ間に見知らぬ死体が部屋に放置され、それを発見した部屋の男性が邪推により自らの存在をも失ってしまいそうになってしまうという安部公房お決まりのパターンの短篇小説。
他に8篇の短篇小説が収められている。
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昭和32年ごろから35年ごろまでに文芸誌などで発表された氏の作品を集めたもの。表題にもある「無関係な死」は、昭和36年4月に「群像」に掲載された作品であり、私にとって安部公房作品の中で最も好きな作品である。こんなに面白くスリリングで知的な小説を、私は他に知らない。まあ私が知らないだけなので当然もっと面白い小説はどこかにあるはずだが、今のところはまだ知らない。
「客が来ていた。そろえた両足をドアのほうに向けて、うつぶせに横たわっていた。死んでいた。」という出だしで始まるこの作品は、Mアパートの住人Aなにがしが、ある日仕事から帰ってくると自分の部屋に見知らぬ死体が転がっていた、という衝撃的状況を必死で解決しようする物語である。このあまりにも馬鹿馬鹿しい、思わずふきだしてしまいそうな設定に加えて、Aなにがしが極めて真面目に、そして詳細に、この状況を考察するのだから、まさに抱腹絶倒である。それだけの考察ができるとは、さては職業は探偵か何かだな、と思わせるほどの鋭い洞察力なのである。しかし、なんとかこの危機を脱しようとする彼の鋭い推理力と豊かな想像力は、悉く裏目に出てしまい、事態は悪化の一途をたどるのである。これがまた腹が捩れるほどおかしい。
安部氏の緻密な文体を味わうには最適な作品なので、あまり引用はしたくないが(できれば直接読んで味わってもらいたい)、私が一番好きな一節を紹介しよう。
「自首をえらぶか、死体との格闘をえらぶか、とにかく勇気が必要なのだ。どちらであろうと、より大きな勇気を必要とするほうが正しい解決にきまっている……。」
この短編集には、「無関係な死」の他にも、安部氏の魅力を存分に味わえる素晴らしい作品が掲載されている。たとえば、「使者」という作品は、後の「人間そっくり」(昭和42年・早川書房刊)のもととなった作品であり、あわせて読めば違いを楽しむことができる。また、「人魚伝」は、恐ろしくも切ない人魚小説であり、「密会」(昭和52年新潮社刊)を思わせる悲痛な愛が描かれている。
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東大医学部文化の象徴?
文体が特異だ。
これまた友達に薦められて読んだ公房だけど、
この人しかこれは書けないだろうと思う。
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なんとなく家に帰ると、そこには死体がいた。やがて男はその動かぬ死体に追い詰められ、人間として機能しなくなっていく・・・収録作品「無関係な死」は、あまり知られてはいませんが人間の内面をよく表した名作です。
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「砂の女」などで有名な安部公房の短編集。
個人的に好きなのは「人魚伝」 。
主人公が人魚に恋をする話だけれど、実は……。
作品全体に漂う幻想感が凄く好み。
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自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられてゆく『無関係な死』、試合中のボクサーの意識の流れを、映画的手法で作品化した『時の崖』、ほかに『誘惑者』『使者』『透視図法』『なわ』『人魚伝』など。常に前衛的主題と取り組み、未知の小説世界を構築せんとする著者が、長編「砂の女」「他人の顔」と並行して書き上げた野心作10編を収録する。
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どの短編も変な悪夢にうなされてるみたい。二段ベットで暮らしているとか、人魚を発見するとか、部屋に知らない死体があるとか、ありえない事実をなぜか受け入れてしまっているのは悪夢以外にありえない気がして、でも理性的になんとか抜け出そうとする無駄な努力がまた目覚める直前の夢のよう。解説には、彼の小説は常に壁の中の世界だとあったけど、箱の中で主人公達は更に眠っているのではないだろうか。
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生ぬるくて黴臭い風が首筋を吹き抜けていくような、独特の空気が魅力です。『なわ』の主人公のように、各物語を穴からひっそりと覗いているような。特に好きな作品は『無関係な死』。帰宅し、元々そこにあったかのように置かれた死体。呆気にとられて状況が全く掴めない主人公の心境を、見たままの状況をなぞった出だしの文から見事に表現している。全くの“無関係”で在りたい、面倒な事には巻き込まれたくないという、人間の根本的な本能の拒否感。その彼が彼をどんどん追い詰めていく。
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自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして追いつめられてゆく『無関係な死』。ボクサーの独り言『時の崖』ほか、『誘惑者』『使者』『透視図法』『なわ』『人魚伝』など短編。あんまおもんない。
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実験的短編集と言って良いのかもしれない。「人間そっくり」の基とも言える「使者」、その後の「箱男」へ繋がっていくのだろう作品の構築のされ方など見所は大いにある。
個人的には「人魚伝」「無関係な死」が気に入っている。この収録作品の共通するところは「追うモノと追われるモノ」ということだろうか。初期の安部作品から第二段階に入りつつあることを伺わせる短編集である。
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短編集。公房お得意の不条理ワールドが広がる表題作「無関係な死」。
ある日突然自分の部屋に知らない死体があった!!
あなたならどうする??
みたいな。当然どーしようもできずに混乱するでしょう。
「無関係であることを証明するのは難しい。」みたいな事を言ってました。
ほんとにそうだね。
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アパートに帰宅した男。部屋の中には知らない男の死体があって・・・
小説の中の死。そして、無関係であることを理由にその死を拒絶する登場人物。
中井英夫の”虚無への供物”を彷彿とさせる一作。
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「人魚伝」が特に面白かったなー。「無関係な死」も秀逸。
脳みその隅っこを耳かきで引っ掻くような知的快楽エンターテイメント。
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部屋に突然現れた見知らぬ死体に追い詰められる男
安部公房の精神的に四面楚歌になっていく描写はほんとうに怖くて苦しい。
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短編集。
宙ぶらりんの嫌なきもちが残るのが癖になる感じ。
最後に、自分が思っていた場所より
ありえない角度で少しズレて落ちる。
「使者」「賭」が好きだったが
描写がすごいと思ったのは「無関係な死」だ。
「しかし、手首というやつは、いかにも表情たっぷりである。顔以上に、死が濃厚に集中していて、うっかり触れでもしたら、たちまち死を伝染されてしまいそうだ。」
「なるほど、死体など、色つきの水にひたした、ただの海綿の袋にすぎないのかもしれない」
「どうやら死体は、この小さな血痕で、しっかり彼の部屋に錨をおろしてしまうつもりらしい」
安倍公房は比較的読みやすいので好き。