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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
様々に評価できる作品。日本近代文学の嚆矢、二葉亭の日本文学における「余計者」の表現、21世紀の読者でも感情移入できるリアルな人物描写、明治20年代当時の文明批判、言文一致運動、これら以外にも私が気づかなかっただけで様々な評価が出来ると思う。
解説にあるように、明治初期は「学問のすすめ」に代表されるような、学問による立身出世が肯定され、「明治の御世」は世襲の封建制と違い、「新しい素晴らしい時代」とされてきた。そして同じようなイメージは今日でも受け継がれている。しかし、この小説では、学問よりも上司へのおべっかと奴隷的忠誠が出世の条件とされ、それができない主人公・文三は免職になってしまう。
免職以前は文三に娘をやってもいいと考えていた叔母や、心惹かれていた従妹も免職以降冷たく当たるようになり、同僚で上司に取り入って出世する本田昇に心を寄せていく。この3人が文三に手を変え品を変え、馬鹿にし、嘲笑い、軽蔑し、笑い話の種にするのが話の大半なのだが、これを読んでいくのが非常に心苦しい。
文三も反撃したり、従妹を教化しようとしたり、叔母に言い訳したりするのだが、これが悉く空振りに終わり、途中まで文三の内面を描写していたのが、文三が部屋に引きこもってから少なくなり、文三の内面というものが無くなってしまったのではないかと心配するくらいである。なお、作品は未完で終わっているが、作者の案によると、最後は文三が母の死、実家の焼失などによりアル中になり、精神病院に入院する予定だったらしい。
また、日本の言文一致運動という面からも面白く、作者の技術が変化していくさまが面白い。最初は近世文学の読み物みたいだったものが、「近代文学らしく」なっていく。
紙の本
男の片思いも立派な小説になる
2019/01/27 18:57
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
”くたばっていしめい”からペンネームをとったということしか知らなかった二葉亭四迷の「浮雲」を読んだ。お勢の一挙手一投足に惑わされて右往左往する主人公・文三の姿に若いころの自分を重ね合わせて苦笑いしながら読み進んだ。社交的な本田にお勢が心移りしてしまったのではないかと心配する様子は、明治中期も今も変わらない男心だろう。作者本人は「失敗作だ」と言っていたという話はありますが、私の心には響いた
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文三の免職から
2019/01/19 18:09
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投稿者:Otto - この投稿者のレビュー一覧を見る
文三の免職から始まった、様々な出来事が文三や昇、お政、お勢の思考を浮き上がらせていきながら物語は進んでいきます。そんな彼らの言動が、私たちにも多くの考えを与えてくれる作品です。
紙の本
☆浮雲☆
2023/05/11 22:06
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投稿者:ACE - この投稿者のレビュー一覧を見る
『浮雲』は、二葉亭四迷の長編小説である。
言文一致体で書かれた、日本の近代小説の始まりを告げた作品として知られている。
内海文三は、融通の利かない男である。役所を免職されても、プライドの高さゆえに上司に頼み込んで復職願いを出すことができず、苦悶する。一方、要領のいい本田昇は出世し、従妹のお勢の心は、本田の方を向いていく。お勢の心変わりが信じられない文三は、本田やお勢について自分勝手に様々な思いを巡らしながらも、結局何もできないままである・・・
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秀才だが要領の悪い文三と、ミーハーな従妹・お勢、要領はいいが軽薄な昇の三角関係を中心に、官僚腐敗を批判した、近代リアリズム小説。言文一致を成し遂げた未完小説でもある。
文三と昇、お勢とお政、四者が各々の果たすべき役割をきっちり守り、歯がゆい人間関係を寧ろ整然と見えるほどに演出している。まさに出来すぎた物語だが、不自然ではない。ありがちな男女関係・上下関係を無駄なくさらりと書き上げている。
韻を踏んだ調子のいい文章、諸所に散りばめられる洒落冗談、その奥に含まれた痛烈な社会風刺。処世術を知らない者は惨めな思いをするばかりで、正しいことをしているのに報われない。文三は男としては意気地なしだが、人のいい青年であるがゆえに私は最後まで彼を憎むことはできなかった。
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面白い。近代文学でこんなにおもしろかったのは初めてかもしれない。現代にも言えることですね、これは。未完なのは残念だけど。
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坪内逍遥の提唱した近代小説のあり方を履行したのはこの小説じゃないでしょうか。一度ロシア語で書いたものを和訳したんですよね(二葉亭四迷はロシア語学校で学んでいた)未完なのが残念です。
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本書の日本文学史上の意味を知るためには、まず当時日本にあった文学、すなわち読本や滑稽本などを理解していないと、そこから如何程に進化したかを確認できず、また逍遥の小説神髄を読んでおかないと何を目指して執筆したのかがわからないと思います。
よって、当時の日本文学の状況や、小説神髄の概要を知った上で読むことをおすすめします。
日本における文学は、私見ですが、戦後の高度経済成長期に完成しており、今日のそれはエンタテインメントの一つとしてしか受け入れられていないと思っています。
その今ある小説の起点の一つとして数えられるのが本書、浮雲です。
ただ、本書が書かれた時点でようやく日本は列強に遅れてスタートを切ったわけなので、今では小学生で習うレベルの文章の書き方が定まっておらず、"、"や"。"のつけかたや、"「」"の使い方すらあやふやな状態でした。
本書は3部構成となっておりますが、各章ごとに文章の書き方が全く違う、試行錯誤の過程が見られるのが特徴となっています。
内容は、ダメ人間の内海文三が上司に嫌われてクビになり、好き同士だったはずの美少女が、世渡り上手な元同僚に取られまいとする。身も蓋もない要約ですが、簡単に言うと、ニートの引きこもりが主人公の恋物語です。
おまけに未完となっています。未完なのか、終わっているのかは有識者で意見の別れるところであり、どちらにせよ出版されている内容では、恋の行方は有耶無耶のまま終わっています。
言文一致、会話部分では口語体を使い、地の文は分けているのも、今では当然ですが当時としては画期的な発明です。
そういった文学的意味や、白ゴマ点のような特殊な句読点などが本書の楽しみどころですが、純粋な読み物と見ると、これが意外と面白かったです。
2016年現在より130年ほど前の作品なので、日本語で書かれていても読むのが大変なところはあるのですが、中盤あたりから筆者も筆が乗ってきたのか、スイスイ読めるようになります。
ダメ人間の文三がおばにやり込められるところなど、読んでてかわいそうになりました。誰が悪いって、文三が悪いのですが。
読み物としてもおすすめです。
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初の言文一致体小説だということで、読んでみました。内容自体は物凄くつまらないので、近代小説が好きな方にはオススメできない本です。小説を「言文一致体」でどのように表現したらいいのか、当時のその苦悩がわかります。
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何てことない話といえばそれまでだけれど、こういう素朴な日常を描いたものって好きです。
恋の淡さも、今の時代から考えると奥手すぎるほど控えめな様子も、
恋心を抑えきれずに右往左往してしまう様子も、じれったいけれど、何か共感できちゃいます。
そして何より、言葉回しがすごく面白かったです。
駄洒落みたいな掛詞や、ひとつの言葉を引き出すための飾り言葉や枕詞(っていうのかしら)が散りばめられていて、
日本語って、すごく茶目っ気があって楽しい・面白い文化だなと思いました。
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学校の課題で、途中まで読んだ。
想像よりは読みやすかったけど、やっぱりこの時代の作品というのはつらつらしていて嫌らしい。
漱石よりいいような気がするけれど…やっぱ気のせいかもしれない。
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いつの時代も、完璧な男性ではなく、自分を必要としてくれる男性に惹かれるものなのかな。
それにしても文三さんヘタレすぎでしょー
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読みだすと楽しい。けど、まあ煮え切らない文三。お勢の奔放なところにも苛々した。まあでも当時では小説は人の内面を書くものとした先駆け的な作品なので、こういうドロドロ感は否めないのかもしれないですけど。
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二十三歳の青年が失職したり、家の中で一緒に住んでいた従姉妹への恋や同僚への嫉妬、憎悪や叔母との関係など、人間の仔細な描写の極めて卓越に描かれた作品。明治十九年(出版二十年)、二葉亭四迷が齢わずか二十三にして完成させた作品である。大変おもしろく、夢中になって読んだ。こういった昔の小説で、自分と歳が近い青年の物語というのは、非常に身にしみておもしろく感じられる。2008-11.17.
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注釈が多い。当時の世俗、世情、言葉回しなど注釈なしでは解せない。しかし話の展開、文章のキレが良いので読みやすい。結末は悩める青年はそのままに。現代にも通ずる。