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商品説明
狂気にとらわれていくOLを描いた「溶けていく」、日常の謎を描く「おにぎり、ぎりぎり」、『メフィスト』連載の「新釈おとぎばなし」など、優美なたくらみにみちた「9つの謎」を収録したミステリ短編集。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
溶けていく | 7-44 | |
---|---|---|
紙魚家崩壊 | 45-69 | |
死と密室 | 71-89 |
著者紹介
北村 薫
- 略歴
- 〈北村薫〉1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。89年「空飛ぶ馬」でデビュー。「夜の蟬」で日本推理作家協会賞を受賞。他の著書に「冬のオペラ」など。本格ミステリ作家クラブ会長。
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紙の本
文字の中に秘められた文字
2006/05/25 23:47
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:リッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「文字の中に秘められた文字」
とでも表現すればよいのでしょうか。
例えば、日本のお札。よくよく目を凝らすと、いろいろなところで小さな文字が線を描き、その線が文字や絵を描いていることに気づく。
北村薫さんの作品を読んでいて、いつも感じるのがこの感覚。
個々の物語を楽しみ、その中に隠された物語(まさに「謎」でしょう)に触れ、それがいっそう物語を豊かにする。
そして本作のように、一見バラバラであった物語が、約15年の時の流れの果てに一冊の本にまとまると、その個々の物語が組み合わさり、さらに大きな物語を構成してるかのようです。
まるで、この本のこの場所にあるために、生まれてきたような感覚にとらわれます。
進めば進むほど奥がどこまでも続いていくかような、見つめれば見つめるほど底が深くなっていくかのような作品です。
何度も読み返して、味わいたいように思います。
紙の本
《優美なたくらみ》の正体とは?〜巻頭作「溶けていく」を例に。
2006/08/12 00:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:相楽智幸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
収録作品は全て、過去に雑誌掲載された短篇の再掲です。
しかし、改めて一冊の本として読むと、《まさにこうして並べて出されるべきもの》と思えます。そして、どの作品も「優美なたくらみにみちた9つの謎」という紹介通り、どれも一筋縄ではいかない、いかにも北村作品らしい佇まいを持った秀作です。
一冊全ての感想をまとめると余りに長くなってしまうので、とりあえず、巻頭作「溶けていく」について、少し。
この作品の大きな魅力は、表に浮かぶ筋立ての裏面に、もう一つの描かれざる恐怖の物語が立ち上がってくることにあります。
《描かれざる恐怖の物語》とは、即ち、《美咲=読み手》の物語の裏に広がる、《作者》の物語です。
作中の漫画の作者は誰であるのか。
《彼》がその表現に込めたであろうものと、美咲がそこから独自に広げていってしまった世界との恐るべき差異。
美咲と《彼》との最後のやりとり------特にあのひとことを口にした時の、書かれざる彼の声、表情、その心の動きはどんなものであったのか。
-------そうした《描かれざる》物語に思いを馳せる時、《《美咲=読み手》の悲劇》の裏側に、《《表現を世に問う者》が抱えずにはいられない恐怖》という、隠されたテーマが見えて来ます。
字数の問題とネタバレの回避のため、詳細は省きますが、この短篇は、ある意味において、スティーブン・キング『ミザリー』よりも恐ろしい、《読者》を描いた小説なのだといえるのです。
この作品も含め、全体的に《他の北村作品も読んでいるファン向け》もしくは《熱心なミステリファン向け》というマニアックな気配が多少あるため、《誰にでもお薦め》とは言えないかもしれませんが、過去の北村作品が楽しめた人ならば、その期待は裏切られないだろうと思えます。
紙の本
溶けてまどろむ崩壊する。
2009/05/13 13:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルのなんだかおどろおどろしい雰囲気とは裏腹に、中身はなんとも軽いタッチのこじゃれたミステリー短編集である。
軽い、といっても決してチンケな安っぽい作品というわけではない。
全体を通していえること、それはどれもどこかが「崩壊」しているということ。そう、このタイトルのように、表紙の家のようにありえない形でありえないものが現実にありえるギリギリのところで崩壊している。
崩壊するものは何か。
現実、己の存在、自我、理性、物質、居場所、論理、常識・・・日常。
少し壊れた変人たちが織り成す物語はやっぱり少し奇妙奇天烈で、凡人である(と信じている)私たち読者には
見世物小屋を覗き見するかのようなスリルと興味がせきたてられる。
世間話をするように語られる軽快なノリ。
ヒソヒソ話を耳打ちされるような秘密めいたお話。
時にはグチを、時には自慢話を、時には駄洒落を程よくミックスした多種多様なショートストーリーたちが
それぞれの個性を放ちながらも全体として上手く溶け合っているから不思議である。
何しろ最初からして、私たちはその題名どおり溶け込んでしまう。
都心に一人暮らしをする平凡なOLがコンビニで偶然見つけた雑誌の漫画家の絵に虜になる。コピーしてはホワイトで修正加筆を繰り返し、現実の同僚たちを見立てていくうちに虚像と現実が曖昧になり・・・溶けていく。
そのほか、ここに収録されている物語は、確かにミステリーではあるのだけれどどれもなんてことはないネタであったり
たいしたトリックも謎もない。
謎が解明されて物語が終結するミステリーではなく、その煮えたぎらない結末と読者に解釈を委ねた、ある意味無限の広がりを持たせるファンタジックな物語とさえいえる。
例えば熱心な書籍収集家の夫婦、紙魚家で起きた密室殺人。そのカラクリがとかれるや否や「崩壊する」紙魚邸宅に舞い戻った夫のその後はいかに?
密室殺人を実現せんと老いたミステリー作家が死をもって作り上げたその密室は、果たして完全犯罪となるのか?
このおにぎりを握ったのは誰か?男がサイコロを持ち歩くのは何故か?などなど。
傍目には他愛のないことに思わぬミステリーやファンタジックな物語が潜んでいるものだ。
本書はそんな遊び心を書き立ててくれる、まこと優雅で奇妙なミステリー集である。
崩壊するのは自我と理性。まどろんでいく現実と混濁してくる虚構の世界に「彼ら」だけでなく私たち読者も溶けていく。現実を忘れたいなどと思っている方にはご用心だ。きっとこの世界に溶け込んで・・・取り込まれてしまうだろうから。
紙の本
サブタイトルに「九つの謎」なんてありますけれど、これってちょっと誤解を招く表現かなって、公正取引委員会はこれをどう考えるか、聞いてみたい・・・
2006/05/13 22:31
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、この本の案内をみたとき嬉しかったですね。まずタイトルがいいです。誰でも連想するように私も『アッシャー家の崩壊』を思いましたし、それから思うに長篇ホラーと本格ミステリの融合したものかな、なんて思ったりもして。しかも、書店に並んだ時の佇まいがいいんですね。ちょっと北見隆のことを思ったりもしました。その装幀は坂野公一(welle design)、落ち着いた色合いの装画は謡口早苗。
で、勝手に連作だ、本格だ、なんて思っていて天にのぼりかけていたところ、冒頭からハシゴを外されてしまいました。だって「溶けていく」って、ホラーというかサイコものというか、そういう類のものです。それはタイトルの作品もですが、最後の「新釈おとぎばなし」を除けば、どれも「奇妙な味」の小説ではあるものの、本格風味はゼロなわけです。
お、なんじゃこれは?と思いました。で、目次と巻末の初出一覧を見ました。それを融合したものを以下に書いておきましょう。( )内が初出データです。
「溶けていく」(94 小説現代)、「紙魚家崩壊」(95 ミステリマガジン)、「死と密室」(97 メフィスト)、「白い朝」(90 鮎川哲也と十三の謎)、「サイコロ、コロコロ」(91 銀座3丁目から)、「おにぎり、ぎりぎり」(91 鮎川哲也と十三の謎)、「蝶」(90 ミステリマガジン)、「俺の席」(98 週刊小説)、「新釈おとぎばなし」(04〜05 メフィスト)
そうなんですね、これってある意図をもって描かれた作品群ではなくて、どちらかというと落穂拾い的な作品集だったんですね。だって最も古いのは1991年ですから、15年も前のものでしょ。おまけに発表誌はミステリ誌という大枠も外れて、「銀座3丁目から」なんていう特殊なものもあります。うーん、ハズシタか・・・ですね。やはりコンセプトのない短篇集は、弱いです。
そんな不満タラタラで、読み進めたわけですが、最後の『メフィスト』連載「新釈おとぎばなし」、これは中編ですが、これには質量ともに納得です。無論、小説を志すものであれば一度は挑戦をしたくなるようなお話で、決して「意外だ」とか「論理的だ」とかと衝撃を受けるレベルではないんですが、やはり読み上手が書けば、ここまで行くんだなという好例です。でも、北村でなければ書けない作品かというと、・・・
それにしてもこの作品集に「優美なたくらみにみちた「9つの謎」を収録したミステリ短編集」と謳い文句をつけるのは、靖国参拝を軍国主義復活ではないと言い張る小泉と同程度に嘘ではないでしょうか。公正取引委員会の方々は如何お考えになるのでしょうか、粉飾決算ならぬ粉飾広告では・・・でもないか