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商品説明
1980年代後半から絶筆となった「私の履歴書」まで。未発表原稿を含んだ、城山三郎、最後の随筆集。【「BOOK」データベースの商品解説】
自分のやるべきことはやり遂げた。この一言を残して世を去りたい。1980年代後半から絶筆となった「私の履歴書」まで、珠玉の名文全40篇を収録。未発表原稿を含んだ最後の随筆集。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
城山 三郎
- 略歴
- 〈城山三郎〉昭和2〜平成19年。愛知県生まれ。一橋大学卒業。「輸出」で文學界新人賞、「総会屋錦城」で直木賞、「落日燃ゆ」で毎日出版文化賞、吉川英治文学賞を受賞。ほか菊池寛賞、朝日賞を受賞。
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紙の本
勇気をくれる人
2008/07/06 16:26
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふたたび城山三郎を読む。
宮本輝の『星々の悲しみ』という短編の中に、十八歳の主人公が図書館のフランス文学とロシア文学の書架の前でそこに並んだ本すべてを読もうと決意する場面がある。少年は浪人生だった。大学に落ちて、彼の前には無限のような時間があった。そのような中での、若々しい決意である。この主人公は作者である宮本輝の分身であり、この挿話を氏は色々な場面で描いている。少年のそのような決意は五〇歳を過ぎた私には眩しすぎる。「無所属」の時間はあっても少年のような体力はない。あるいは野望もない。まして、今書店に行っても、図書館に出かけても、書架に並ぶ膨大な本の量に圧倒されるというのが実情である。そのような中で城山三郎にめぐりあえたのは幸運だったといえる。城山の著作は「無所属の時間」をもった私に勇気をくれる。そういう意味では万巻の書物と同じ深い意味を、今の私にくれる著者の一人である。
本書は城山三郎の晩年の短文や随筆を集めたもので、「私の履歴書」(同名のものが日本経済新聞の人気記事にあるが、城山のこれは絶筆となった文章なので間違いのないように)、「政治とは」「経営とは」「人間とは」の四部構成になっている。先に本の全体感の感想を書けば、これらの短文の中には未発表作も数編あり、いいまとめかたをしているといっていい。特に「大きな体に小さい野心-大平正芳論」(未発表)は、城山の愛情が感じられるいい文章である。城山に大平氏の伝記を書いてもらいたかったと、夢みたいに思ってしまう。詮無い話だが。さらにこの本の<あとがき>は城山の娘である紀子さんによるもので、生前の氏の素顔が垣間見れる。そして、巻末には城山の「年譜」がつくという贅沢な仕上がりになっている。
「政治とは」という章には第64回文藝春秋読者賞を受賞した「私をボケと罵った自民党議員へ」という櫻井よしことの対談も掲載されている。これは城山が個人情報保護法案に反対していた頃(2002年)のものだが、当時城山は七十五歳だった。七十五歳といえば、悪評高い<後期高齢者医療制度>も七十五歳以上のお年寄りが対象だが、あの政党にはそういう体質があるのかもしれない。その政党のある勉強会で城山は「指導者の覚悟について」という講演も行っている(本書所載)のだが、こういう時に使うことわざが「馬の耳に念仏」かしら。
しかし、城山が特に政治家や政治に関してだけ厳しい批評家であったわけではない。本書の「経営とは」の章では、政治家に対すると同様の辛らつな文章が経営者に向けられている。しかし、それらはけっして城山が得意とするところではなかったはずだ。城山が私たちに残してくれた応援歌ともいえるさまざまな言葉は、常に人間をみつめ、温かく、優しい。そういう思いがあるからこそ、間違った方向に折れ曲がったものに対してきつく木槌を打ち続けたのだろう。
そういう城山の人間に対する思いが「人間とは」という章でうかがえる。例えば「ゆるやかな離陸」と題された、自身の転機について書かれた短文の中にこうある。「ゆえに思う。漫然と生きていたのではその人に転機はないだろう。さらに思う。自分が何をしたいかわかっていれば、何歳になっても転機はあるだろう。人生に何を求めるのか。我慢強い問いかけの先に転機は訪れる。そのときは飛び込み、つかみ、育てなさい」(222頁)。じつに勇気をくれる人である。