紙の本
今後も幾度もおさらいをしたくなる書
2008/03/30 07:45
12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
数年前から新書タイプの書籍が雨後の筍のように刊行されていますが、私が信頼を置くのは岩波書店・講談社・中央公論新社の三社。この講談社現代新書「東京裁判」も私の期待を裏切らない一冊でした。
東京裁判については、勝者による敗者への裁き、天皇の訴追の可否、パール判事といったキーワード程度のことを断片的知識として持っている程度でした。そのことに満足するつもりはなく、敗戦国日本に生きる身としてやはり最低限知っておくべきことを、出来ることならば専門学術書の類いではないもので読むことができないかと長年思っていました。
本書は400ページを越え、新書としては大部の部類に入りますが、実に平易で興味深い書に仕上がっていて、苦労なく読み通すことが出来ました。
判事や検察側にも日本を裁くことに対して戦勝国間の温度差があった点がまず目をひきました。それぞれの国が戦時中に日本からどのような扱いを受けたかということを背景にした国民感情もさることながら、アメリカと英連邦諸国との間の溝がかなりあったこと、英米法と大陸法との考え方の対立があったこと、また裁く側の人間の個人的な性格なども大きな要素であったことなど、なかなか面白い事実が詳細に書かれています。
そして当然のことながら冷戦の高まりが、東京裁判を政治的に大きく左右していった事実も、いちいち頷かされることが多く、東京裁判が決して何かを絶対的に裁ききれたわけではないことを浮き彫りにしています。
著者自身があとがきで綴るように本書は「たいていの東京裁判論に見られる『悲憤慷慨』や『道徳的判断』をなるべく排除」するよう努めていて、その点が大いに好感が持てます。
今後も幾度か手にしておさらいをしてみたくなる、そんな書だという感想を持ちました。
紙の本
陰謀史観に警鐘
2020/04/13 18:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
世間に流布する陰謀史観。米国に仕組まれて開戦した戦争を強いられ、敗戦の挙句不当に裁かれた東京裁判の呪縛から目を醒ませといった扇情的な言葉が散りばめられたけばけばしい書物の数々に比べると、努めて平易に冷静に書かれているとは言え、地味な本である。どちらかというと私情もあまり交えずに、事実重視で書かれていて、ニュルンベルク裁判との関係や、この国際法廷が組織された背景、主導権を握ろうとするアメリカの内情や、他の連合国との駆け引きや、それがよって立つ正義に対する罪を裁くのか、人道に対する罪についてのものか、交戦規則違反を裁くのか、その法的根拠は何かが(そうした議論はあってもあるべきところに向けて妥協していく様が)明らかにされる。それに比べると普通の本ならハイライトになるであろう裁判中のことは意外にあっさりと終わり、今度は公判終了後の減刑、釈放を巡って日本国内と冷戦を巡って国際情勢の変化で意外に早期に解決することが詳説される。有名なパル判決やレーリンクなどの扱いも、必要以上に持ち上げず冷淡であるとすら感じる。こうしたこの本の構成も学者らしい誠実さを感じさせる。当時の戦犯とされた人物たちの日記も織り交ぜているので冷たさは感じないし、新書としては大部な部類かと思うけれども好著だと思う。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
裁判肯定でも否定でもない立場。客観性は認められるが内容そのものよりも意義について述べている。事の起こりから受刑者の赦免までを追っている。
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本書は是非をあえて論ぜず、東京裁判を「国際政治」の枠内で論じようとするところに非常な新鮮さを感じました。
本書を読むと、「東京裁判」を利用し国際政治への緩やかな復帰を目指していた吉田茂を中心としたグループの考え方がはっきり読み取れます。
東京裁判を利用したのは、アメリカでもイギリスでもない、ほかでもなく日本そのものだったのだワケです。
もうひとつ、東京裁判というと始めに結論ありきの裁判と見られがちですが、検事団、判事団ともに多くの意見の齟齬が生じており、判決までほうほうの態で漕ぎ着けたということが本書でよく分かりました。
そこには冷戦の始まりという国際政治の影響が、すでにこの裁判を覆っていたことを本書は鋭く指摘しています。
東京裁判を語る上で、近年稀に見る好著。
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新しく知る情報もあっておもしろいはおもしろかったのですが、主義に流されないことを気にしすぎるあまり、歴史の持つおもしろさがかけてしまったように思われます。淡々と事実が適時されるのはよいのですが、退屈に感じることがあったというのが、正直なところでもあります。最も、最新の情報をもとに書かれていて、正確な東京裁判の理解の助けとなることは確実でありましょう。
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本書は、東京裁判が「『文明の裁き』と『勝者の裁き』の両面をあわせもつ」ものとした上で、国際政治の舞台及び手段であったと提唱している。さらに本書は、国際政治としての東京裁判の目的が、「連合国と日本の双方にとって『国際政治における安全保障政策』」にあったことを指摘している。
本書は、「歴史」の確定自体が政治的行為であるとしたうえで、東京裁判を「国際政治の結果」と割り切ることが重要であるとの見解を示している。今後東京裁判を考えていく上で、「文明の裁き」「勝者の裁き」といった従来の対立構図にこだわるのではなく、「国際政治の結果」として成功したのかどうかを考えることが、研究の一方法であることをも語っているのではないだろうか。
内容、文章ともに非情にわかりやすい。東京裁判が何だったのかを考えたい人には必携の一冊だろう。
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学校でも習い、その後大人になってからも夏になると耳にする東京裁判。
でも実態について詳しくは知らなかったのでいい勉強になりました。
この話題に関する話は様々な思想などにより、知るというよりは、刷り込むような本が多いように思います。
その中で、本著は比較的、証拠書類などを元に当時の東京裁判を読者の目に浮かびあがらせることに成功している1冊と思います。
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[ 内容 ]
「東京裁判から60年。ようやく〈事実〉に基づく、冷静かつ実証的な研究がなされる時代がきたとの感に打たれた。〈歴史〉が待ち望んでいた書だ。」――保坂正康(ノンフィクション作家)
東京裁判は「国際政治」の産物以上のものではない。
イデオロギーを排し、徹底的な実証と醒めた認識で「文明の裁き」と「勝者の報復」をめぐっての不毛な論争にいまこそ終止符を打つ。
[ 目次 ]
第1章 東京裁判をどう見るか
第2章 東京裁判の枠組みはいかにして成立したのか
第3章 連合国は何を告発したのか
第4章 日本はどのように対応したのか
第5章 判決はいかにして書かれたのか
第6章 なぜ第二次東京裁判は実施されなかったのか
第7章 戦犯釈放はいかにして始まったのか
第8章 なぜA級戦犯は釈放されたのか
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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尖閣を巡るプロパガンダの中での戦後秩序発言。河野談話を見直しを発言をした安倍首相に対する米の反応。先の大戦の戦勝国は、勝ち取った枠組みを手放しはしないのだ。このような国際環境を理解するには、「東京裁判」を巡る政治史的理解は避けて通れない。本書は、主観を排しながら経緯をまとめている点で、必須の基本的文献であろう。
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安倍首相の靖国参拝を受けて再読。思えば本書を最初に読んだのも、小泉首相(当時)の参拝問題がきっかけだった。
例えば「A級戦犯」という言葉。今日では「敗けた責任を負う者」として使われることが多いが、東京裁判で裁かれたのはそうではなく、それまでの国際法では規定されていなかった「戦争を起こした罪」が“事後法”として適用された。本書は膨大な史実をもとに、一切のイデオロギーを排した地点において、東京裁判を総括している。
本書を読むと、東京裁判が当時の国際状況を反映した、いってしまえば「ゲーム」であったこと、そしてそのゲームは今も続いていることを感じる。一方で靖国へのA級戦犯合祀が東京裁判否定論者によってなされたという事実を考えると、この問題は国内でもそう簡単に対処できるものではないと思う。
結局のところ、靖国問題は、日本人として東京裁判を肯定するのかどうかという根本的命題の表層でしかない。すなわち「ゲーム」を否定するのかどうかということだ。そしてそのことは、ほぼ全世界を敵に回すことに他ならない。そこまでの覚悟をもって、世界を相手に主張することができるのだろうか。本書を読むたびに、頭の中でそんな堂々巡りを繰り返している。
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表題の「東京裁判」とは、いうまでもなく、戦後日本の占領期において、聯合国側によって戦争犯罪者を裁いた「極東国際軍事裁判」のことで、そこで東條英機元首相らが「A級戦犯」として裁かれたことなどは一般常識の範疇であろう。しかし、わたしたちはほんとうに、この裁判について知っているといえるであろうか。この本を読むと、われわれがいかにこの裁判のことについて表面的な智識しか持ち合わせていないかに気づかされ、驚かされる。たとえば、B・C級裁判にかんしては、教科書でもほんのすこししか触れられていないので、本書に登場する関聯する記述のいっさいがいちいち新鮮な驚きであった。あるいは、戦犯の釈放について。戦犯と聞けばとかく東條英機らが死刑に処された事実にばかり眼を向けてしまいがちだが、じっさいにはもっと刑が軽く、しかも途中で釈放されたような戦犯のほうがずっと多い。このことだけでもずいぶんはっとさせられるが、のみならず、国民的に戦犯の釈放を歎願する運動が起こり、国会でも同趣旨の決議がなされていた事実となると、はたしてどれほどの人間が知っているであろうか。しかも、その処遇をめぐる決定のウラには、日本や聯合国各国における権謀術数があったのである。戦争犯罪はむろん悪いことであり、それを擁護する気は毛頭ないけれども、その犯人がけっきょくは減刑され釈放されていて、しかも純粋に裁判を通した結果ではなくて、各国が妥協点を探った結果としての超法規的措置であったと聞けば、違和感を抱かずにはいられない。許されないはずの行為を犯した人間を、そんな本質からズレた方法で許してしまってよいのであろうか。そうなると、東京裁判じたいの位置づけというものもますます怪しい。ネット右翼が時折その正当性を云云することがあるのも、もちろんそれに与するつもりはないけど、ある意味では的を射ているのかもしれない。とにかく、東京裁判というものの実態について、今回は掘り下げて学ぶことができてよかった。
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「共同謀議」という概念の導入により被告を一網打尽にすることができたが、裁判は長期化した。この東京裁判を受容することは日本側にとっての安全保障政策であって、戦後政治と対米協調への移行をスムーズにし、「東京裁判史観」は学問的な概念ではなく、また「自衛戦争論」や東京裁判否定論を言ってみても、それは東京裁判の法廷審理を国内的次元で再現することにしかならないと言う。
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[法廷という政治]丁寧に第一次資料を積み重ねながら、今日においても論争が絶えない東京裁判を、「国際政治」の場だったと捉え直した作品。戦中・戦後の混乱の中で、各国・各人の異なる思惑がいかにして東京裁判という場に結実したかが解き明かされています。著者は、2008年にサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を本作で獲得した日暮吉延。
東京裁判やその評価に関する書籍は数あれど、ここまで総合的に透徹した情報や見解を盛り込んだ作品は珍しいのではないでしょうか。国際政治という強弱の軸を東京裁判にとおすことにより、本書は長年続いた正邪に関する論争に今までにない回答をもたらすだけでなく、何故にこの「歴史」が外交課題としてまだじくじくと疼くものであるかをはっきりと示していると感じました。
〜東京裁判というのは、「文明の裁き」と「勝者の裁き」の両面をあわせもつ「国際政治」であったととらえる。「文明か勝者か」ではなく、「文明も勝者も」なのである。〜
2008年に「今更」の感がある東京裁判に関する本がサントリー学芸賞を受賞したことからも、この見方がいかに新鮮なものであったかがわかる気がします☆5つ
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極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判を様々な角度から克明かつ実証的に論じた一冊。
著者の立場は、「東京裁判史観」といわれる肯定論に立つものでもなければ、単純な否定論に与するものでもありません。
「あとがき」から引用すれば、
東京裁判の「意図」よりも、政策としてどうだったかという「結果」を評価し、そのさい「連合国側から見た場合」、「日本側から見た場合」と目線を変えることが有用であると考えている。
と、明快に宣言されています。
章立ては以下の通りです。
第一章 東京裁判をどう見るか
第二章 東京裁判の枠組みはいかにして成立したのか
第三章 連合国は何を告発したのか
第四章 日本はどのように対応したのか
第五章 判決はいかにして書かれたのか
第六章 なぜ第二次東京裁判は実施されなかったのか
第七章 戦犯釈放はいかにして始まったのか
第八章 なぜA級戦犯は釈放されたのか
裁判の成立過程から、逮捕・起訴、審理の過程、判決、後処理まで一連のフェーズに分け、また、判事団・検察団・弁護団それぞれのグループの構成や内部での路線対立など事細かに論証されていきます。判事側にしても、弁護側にしてもまったく一枚岩ではなく、個人個人の信条やそれぞれの出身国の国内事情、あるいは個人的なレベルでの好き嫌いも含めて深刻な路線対立が存在したことが明らかにされており、そのことからだけでも東京裁判を一元的な肯定/否定で評価することが不適切であるということができると思います。
これを読むと、東京裁判が「裁判」という形を取りながら、まぎれもなく「政治」であったことがよくわかります。
連合国側がドイツのニュルンベルグ裁判とのバランスに腐心したり、裁判に参加した連合国側各国がそれぞれに異なる国内世論の影響に配慮する必要があったり、冷戦構造が確立していく中で東京裁判が東西両陣営の駆け引きの場になったり、と枚挙に暇がありません。
また、戦犯に対する日本国内世論も時代につれて変遷していく過程にも興味深いものがあります。終戦直後は戦犯に対して非常に厳しい世論があったものが、裁判の長期化・占領の終了を迎えるにつれて同情論へと変化し、そして戦犯釈放が完了し高度経済成長を経て経済的に豊かになるにつれ戦前否定の考え方が一般化するとともに戦犯に対するネガティブな見方が支配的となった、と解説されます。
これまでまったく知らなかったトリヴィア的知識も得ることができました。
たとえば、
・A級、BC級といった戦犯の区別は、悪質度や重責度でABCと並べたといった序列関係にあるものではなく、単に裁判所憲章第五条の(a)項(b)項(c)項に該当するというだけの意味しかない。
・占領終了後、巣鴨プリズンが日本政府管轄になって以降は、「一時出所」の制度が相当緩やかに運用され、A級受刑者においても「3、4日外泊して帰ってきて一晩監獄で過ごしまた帰宅する」なんてことも珍しくなかったり、「職業補導」名目で企業に毎日「通勤」するBC級受刑者がいたりなどした。といった話。
克明に記述された大作なので読むのはちょっと大変ですが、東京裁判の全体像をイデオロギーから離れて客観的に知りたい、という人にはお勧めの一冊です。
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東京裁判に関して客観的な事実を整理しようと試みた本。
現状のロシア・ウクライナのことをきっかけに、かつての戦争にまつわる東京裁判について知りたいと思い読んでみた。
細かいところまではあまり興味が持てなかったので流し読み。
あとがきのまとめが著者の主張を端的に語っている。
東京裁判の結果を、連合国側からの視点と日本からの視点とで評価している。
連合国側から見た場合:東京裁判という政策に批判的。
粗雑な善悪史観で敗者に戦争責任を負わせるのは「行きすぎた正義」であり、敗者に屈辱感や怨恨感情を残すため。
日本側から見た場合:やむを得ない犠牲だった。
①敗戦国であり、戦争の責任追及は不可避だった。その際に自身による責任追及ではなく勝者による責任追及を容認した。
②軍国主義者を退場させ、米英に協調することで、戦後の発展や安全を確保することが必要だった。
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そもそも東京裁判やらA級戦犯やら、靖国神社問題やら、なんとなく聞いたことはあるけれどあまり知らない、というレベルでした。
でも、拙い知識の中でも、どちらかというと「戦争に善悪なんてないのに勝者が敗者を裁くなんて傲慢じゃないか」という視点をもっていました。
実際に本書を読んで、日本側にとっても、「必要悪的な、現実的な解としてやむを得ない処置だった」という視点を得られたのは新しい気付きでした。
映画も見てみたいけど、ストリーミング配信がないものか・・・
http://www.tokyosaiban2019.com/