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商品説明
うだつの上がらない父、パチンコ依存症の母、引きこもりで高校に行っていない長男etc.—。冴えないことこの上ない海野一家だが、唯一の救いは、愛らしい三歳児・穂足の存在だった。その穂足が大怪我で入院した時から、家族の大逆転が始まった。奇蹟としか思えない出来事の数々には、どうやら穂足が関係しているようなのだが…。【「BOOK」データベースの商品解説】
冴えないことこの上ない海野一家で、唯一の救いは愛らしい3歳児・穂足の存在だった。その穂足が大怪我で入院した時から、家族の大逆転が始まった。奇跡としか思えない出来事の数々には、どうやら穂足が関係しているようで…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
梶尾 真治
- 略歴
- 〈梶尾真治〉1947年熊本生まれ。「美亜へ贈る真珠」で作家デビュー。「未踏惑星キー・ラーゴ」で熊日文学賞、「サラマンダー殱滅」で日本SF大賞を受賞。
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紙の本
心が動かされるような作品では決してありません。幼児をダシにつかったというところがミソで、「微温的」というのがぴったりの、いかにも梶尾らしいいファンタジーではありますけど・・・
2009/12/15 20:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
梶尾真治の本はデビュー当時のものを読んだものの、どうも甘めの内容が肌に合わず、長い間読まずにきました。で、長いブランクをおいてなぜか手にしたのが2000年に刊行された『黄泉がえり』。これが実によかった。わが家でも家族全員が読んで、絶賛しあった記憶があります。その後、映画化もされましたが、どうもこのあたりで間違ったんじゃないか、って思いました。
その番外編である『黄泉びと知らず』は星雲賞を受賞したものの私は本編より面白くない、二番煎じと酷評したはずなのですが、なぜか自分のメモが見当たりません。売れた作品のコピーに近いものを書くなんていうことは自殺行為に等しい、と考える私には到底容認できるものではありませんでした。そういいたくなるほど小説の『黄泉がえり』は傑作だったのです。
それがケチのつき始め、というわけではありませんが梶尾はこれ、といった作品を生み出さなくなります。『ドグラ・マ=グロ』はパロディというのもおこがましいし、『インナーネットの香保里』は中途半端、『波に座る男たち』は面白いものの梶尾らしさは皆無。『精霊探偵』なんて途中から児童小説になっている。
逆によかったのは『タイムトラベル・ロマン 時空をかける恋・物語への招待』。ただし、これは小説ではなくてSFの紹介本。梶尾らしい素直な感想が、易しい文章で書かれているので、初心者にも格好の案内書になっています。もしかすると、梶尾にはこちらのほうが向いているのでは、なんて思ったりしました。というわけで、私が梶尾本に再会したのは4年ぶりということになります。
なんといってもタイトルがいい。離れていた読者を引き戻す、まさに『穂足のチカラ』です。それを補うのがサカイ ノビーの装画です。上手さで感心させる、といったものではありませんが、親しみやすくて思わず手にしたくなります。それにピッタリなのが造本です。黒地のカバーはちょっとインパクトが強いかな、と思いますがこれはお話を読めば、その反映だということが理解できます。
ま、お話に黒いものが出てきたから、黒を使う、というのは安直な選択で、デザインという点から見ればもっと明るい色のほうが相応しいとは思いますが、インパクトはあります。頁数の割りに厚さを感じさせないのと、持って重さが苦にならないのは本文の紙質がいいのでしょう。実際に手にすると分かりますが、紙のしなり具合や肌触りがとてもいいです。
新潮社の軽装本というと新潮社装幀室が装幀を手がけるクレストブックを思い出しますが、あれは洋書を意識して本文の紙を選んでいるので、重さはともかく紙のしなりは少なくて、肌触りもしっとりというよりはザックリした感じ。ちり、もあるフランス装なのでフォーマルな感じですが、カジュアルさでは『穂足のチカラ』に軍配をあげたいところです。
今日は前振りが長かったので、やっと内容に入ります。HPの案内は
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ホタルは一体何者なんだろう? あの不思議なチカラは、本物なんだろうか?
うだつの上がらない父、パチンコ依存の母、引きこもりの長男、冴えないことこの上ない海野一家だが、唯一の救いは愛らしい三歳児の穂足だった。その穂足が、大怪我で入院した時から、家族の大逆転が始まった。奇蹟としか思えない出来事の数々には、どうやら穂足が関係しているようなのだが……。満を持して贈る奇蹟系群像劇!
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となっていて、巻末に「本書は、学芸通信社の配信により、熊本日日新聞社(2007年5月13日~2008年6月4日)、秋田魁新報、中國新聞、信濃毎日新聞、高知新聞、北國新聞、神戸新聞に、順次掲載された作品を、単行本化にあたり改稿したものです。」と書いてあります。全体は、プロローグ、本文54章、エピローグときちんと構成されています。
舞台は現在の熊本市北西部の住宅街で、そこに暮らす海野一家の話です。出だしは、SFとしてはありふれたものかもしれませんが、場面が目に浮かぶようでかなり印象的です。古いギャグですが「掴みはOK」というのがぴったりで、発端の怪奇性というか、どうなるんだろう、と思わせる点ではなかなかのものでしょう。
六人家族の海野家は、ある意味、日本によくあるものといっていいでしょう。一家を支える海野浩は、孫の穂足からジィパパと呼ばれる47歳のサラリーマン。元ギフト会社の営業にいましたが会社の経営不振で、仕事を変えています。今の実成印刷に入って6年になっていません。ここでも、自分でも向いていないと思っている営業を担当させられたので、一向に成績があがりません。営業といえばよく歩くはずですが、仕事に情熱を燃やさないせいか運動不足がたたり肥満気味です。
浩の妻の月夜は、穂足からババと呼ばれています。40代であることは確かですが詳細は不明。旧姓は中秋といい、熊本市内の短大を出て、唐人町の税理士事務所に勤務している時に、浩と知り合いました。義父との暮らしや夫の生活力の関係もあってスーパーのレジのパートに出ていて、ストレス解消にパチンコに嵌っています。
浩と月夜には二人の子供がいます。どちらも問題児ですが、まずは長女の七星がいます。20歳で穂足にはネェと呼ばれていますが穂足を高校三年生のときに産んだ未婚の母です。もう一人が長男の太郎、穂足からはタローと呼ばれる引きこもりの高校二年生です。成績は優秀で真面目ですが、父親同様自分の意見をいうことが出来ないため、友人が出来ません。
で、海野穂足がいます。七星の息子でもうじき4歳を迎えますが、父親については七星が頑として口を割らないので不明です。赤いビロードの布をいつも持っているあたりは、ライナス風です。梶尾はスヌーピー好き?
月夜のストレスの元、というのがヒィジこと海野十三郎です。浩の父で、定年退職し現在は無職、痴呆気味です。12年前に妻を失い、以来、息子夫妻と暮らしています。名前から作家の海野十三を連想し、文筆業をいとなむか、などと考える必要はありません。
駄目だから不運がついてまわるのか、運が悪いから何もかもがうまくいかないのか、因果関係はともかくとして、傾きかけている家の幼児が事故で不思議な能力を授かります。そして家族の運もその向きを大きく変えていきます。悪かったものがさらに悪くなる、というのは梶尾の作風ではありませんから、向かう方向は自ずと決まってきます。
あとは詳細を読んでもらうだけですが、これまた梶尾らしい展開をして幕を閉じます。それを「ぬるい」と感じるのは私のようなヒネクレ者で、多くのファンタジー大好き人間は、心地よいと思うのでしょうね。でも、ここでの梶尾は自分の世界から一歩も踏み出していないことは確かです。あとは好みの問題かな・・・