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商品説明
普通に暮らし、普通に生きてきたつもりだったのに。自分は下に落ちていた?家族。生き方。変わるもの、変わらないもの。身近に起きる格差社会の現実を真正面から描いた、大反響の新聞連載小説。【「BOOK」データベースの商品解説】
普通に暮らし、普通に生きてきたつもりだったのに、自分は「下」に落ちていた? 家族、生き方、変わるもの、変わらないもの。身近に起きる格差社会の現実を真正面から描く。『毎日新聞』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
林 真理子
- 略歴
- 〈林真理子〉1954年山梨県生まれ。「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞、「白蓮れんれん」で柴田錬三郎賞、「みんなの秘密」で吉川英治文学賞を受賞。
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紙の本
将来に夢をもつ人、もてない人
2010/11/10 19:12
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
下流の宴(うたげ) 林真理子 毎日新聞社
本作品は、現代家族とか社会を問う問題作です。ことに福原翔の夢のない生き方、されど、社会や家族のなかでの自分の立ち位置を正確に把握した生き方、昔ならだらしないで切り捨てられた生き方ですが、これからは多くなるでしょう。一生バイトで気楽に暮らしたい。結婚できたらラッキーという暮らし方です。女性が結婚活動でいい男を探してはいけないのかという心に訴える可奈の言動、プー太郎の翔にもある小さなプライド、本音の小説でした。
物語では、いっけん上流家庭と思わせる東京の福原家、対して下流とされる沖縄県の離島に住む宮城家の事情が交互に記述されていきます。ロミオとジュリエット役が、福原翔君と宮城珠緒(たまお)さんです。面白い作品です。
福原家の福原由美子さん、48歳、主婦。この物語の主人公でしょう。こどもの頃に亡くなった父親は医師。上流人としての意識が高い。いつまでも30年前の知識と経験値で判断することが、老人の害の域に達しています。声を張りあげてがんばるけれど、こどもたちの生活設計をはじめとして、なにもかもが思い通りに運ばない。貧富の差の差別意識強し。学歴差別意識も強い。娘の福原可奈さん22歳、いろいろあったが今はお嬢さんが通う大学の学生。自立して自活する気はない。お金持ちのいい男を見つけて主婦におさまり、少しぜいたくな暮らしを送りたい。いっぽう息子の福原翔(しょう)21歳は、医師を目指していたが、私立中学を経て、私立高校の時点で退学。結局中学卒業の学歴。家を追い出されマンガ喫茶で働く。そして、年上の宮城家の娘珠緒(たまお)と同棲中。宮城家のメンバーは複雑です。宮城珠緒さん、23歳、同棲している福原翔の母親に下流と馬鹿にされて一念発起する。宮城珠緒さんの「だってもう誰にも文句を言わせない」という言葉が心に残りました。
紙の本
負けてなるか、って頑張るのは、現代では男子ではなく女子。それにしても男のだらしないことときたら、下流も当然? ま、上にいることだけがいいわけじゃあないんですけど・・・
2010/10/16 18:12
6人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
一見、児童書ではないか、と思えるデザインです。カバーの表と後の地の色が鮮やかな黄色、背が少し灰色が入っているかもしれない水色で、おまけの黒い人間の顔らしいものがドンと居座っている。児童書ですよね、雰囲気が。ただし、これって、内容の反映ではあると思うんです。要するに福原翔ですよね、この黒いの。で、児童章ふうっていうのは、その翔の言動を表している、と。装幀は浅葉克己、装画が水上みのり。
で、林真理子です。っていうかタイトルです。『下流の宴』、ほほう、って思います。格差社会が立派に出来上がって、人々の口に上るのは〈勝ち組〉と〈セレブ〉、それに〈お嬢様〉。無論、〈勝ち組〉の対語として〈負け組〉もありますが、語られることはあまりありません。やはり、同じ見るなら下ではなく、上を見たいという人情の反映でしょう。
書いていて、そういえば〈セレブ〉〈ご令嬢〉は聞きますが、その対語は殆ど聞かないな、と思いました。ま、セレブというのは和製英語のようで、ニュアンス的には成金か、今現在成功している芸能人などで、本物の上流社会人とは違います。どちらかというと、玉の輿にのった、テレビ・マスコミで取り上げられることを喜ぶ、おバカな人種。本物の上流社会の人はテレビなどにでることを嫌います。要するに、社会全体が上を見る、そういう流れにあります。
その社会的風潮の中で、〈下流〉という言葉をタイトルに使う勇気、というか着想に感心します。まして、私たちにとっては林といえば良くも悪くも〈セレブ〉のほうが似合う。そのミスマッチが面白いんです。無論、賢い林のことですから、他人が自分のことをどう思っているかもすべて分かってやっていうんでしょうが、意表をついたことは確かで、それだけでもこの本は成功したといってもいいでしょう。
で、この話には二つの家が登場します。目次を見ればよく分かりますが、一つが福原家です。傍から見れば、上流ではなく中流、その下のほうに位置すると言ったほうがいいでしょう。主人公である福原由美子は48歳。地方の、ではあるけれど国立大学出を出ています。医者であった父を10歳の時に亡くしているので、全ては母親である満津枝の頑張りによります。彼女は夫に先立たれたあと、下着の販売をして女手一つで由美子、妙子の二人の娘を大学に入れ、育て上げています。
由美子はそういう母親の姿を見ていますから、頑張れば人間にできないことはない、そう思っている節があります。また、彼女は妹の妙子に対抗心があります。勉強して国立大学をでて、いい相手を見つけて早々に結婚した由美子ですが、職場結婚で結ばれた夫・健治は、早稲田大学理工学部卒を出て、家電メーカーの部長といえば聞こえはいいのですが、所属していた半導体部門が不振なため、本社から切り離され、現在はそこに出向中ですから、順風満帆とは言い難い。
一方、勉強では遅れをとり、上京することもなかった妹は、現在、地元の産婦人科医の奥様として悠々自適の生活を送っています。自分の暮らしが順調であれば気にもならない妹の暮らしですが、由美には夫のことがあり、さらに二人の子供たちの問題があります。
長女の可奈は22歳。美人に分類される大学4年生ですが、就職活動が思うように行っていません。玉の輿に乗る、いい結婚相手を掴む、そのために無理をして名門女子大に入りました。付属からあがってきた本物のお嬢様たちと同じようにとはいきませんが、なんとかうまく溶け込んで、毎日、合コンにに明け暮れています。就職活動がうまくいかなくても、目標を将来が保障される一流会社から変えることはしません。
姉同様容姿に恵まれた弟の翔は、有名な中高一貫校に入ったものの、勉強する気がせず勝手に高校の時中退して、20歳の今は、家を出て新宿の漫画喫茶のバイトをして暮らしています。収入14万円、家賃を払えば使えるお金は多くありませんが、口やかましい母親と離れ、それなりに満足してくらしています。そして、パソコンのオンラインゲームで知り合った珠緒と同棲をしています。
もう一つの家庭、それが福原翔と同棲している宮城珠緒の家庭です。サトウキビを作っている父と母が離婚して彼女は、母に引き取られ育てられました。母は島でただ一軒のカフェ・バーを経営しています。ちなみに、父の方に子どもが4人、再婚した母に3人子どもがいるので8人兄弟を擁する大家族です。珠緒は宮原家の長女で22歳。沖縄の離島・南琉球島出身で、首里南高校卒業後、東京に出てきてバイトで暮らしている。月収18万弱。翔と一緒に、家賃7万のアパートに暮しています。
由美子にしてみれば、子供のころは頭がよく、有名中高一貫校に入った息子が、勝手に学校を中退し、家を出てバイト暮らしをし、ゲームで知り合った高卒の女と同棲し、結婚まで口にするようになれば黙ってはいられません。自分の家は貴女とは違う、そういう思いがあります。由美子と翔、そして福原家と珠緒の争いが始まります。あとは身に詰まされる思いで、お読みください。最後に勇気を得る人、苦々しい思いをする人、色々あるでしょう。さあ、あなたはどちら?最後は目次。
第 一 章 福原家のこと(一)
第 二 章 宮城家のこと(一)
第 三 章 福原家のこと(二)
第 四 章 宮城家のこと(二)
第 五 章 福原家のこと(三)
第 六 章 宮城家のこと(三)
第 七 章 福原家のこと(四)
第 八 章 宮城家のこと(四)
第 九 章 福原家のこと(五)
第 十 章 ちょっととんで宮城家のこと
第十一章 ちょっととんで福原家のこと
第十二章 また宮城家のこと
第十三章 また福原家のこと
第十四章 そしてまた宮城家のこと
第十五章 入り乱れて福原家・宮城家のこと
初出 毎日新聞連載 2009年3月1日~2009年12月31日
とありますが、日本語的には
初出 毎日新聞 2009年3月1日~2009年12月31日
でしょうし、普通は朝刊か夕刊て明記するものではないでしょうか。
紙の本
とても身につまされました
2010/08/04 00:18
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さあちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
福原由美子48歳。地方の国立大学を卒業し大手家電メーカーに努める夫とは職場結婚。東京に一軒家を構え長女の可奈は有名女子大へ通っている。早くに小児科医であった父親を亡くし母親が女で一つで苦労して育ててくれた。「あなたはお医者様の子なんだから」という母親の口癖を聞きながら努力して中流家庭を築いてきた由美子のたった一つの誤算は長男の翔だった。中高一貫高を中退しフリーターをしている翔が結婚相手に選んだ宮城珠緒は高校卒業後フリーターをしている沖縄の離島出身の不器量で下品な女。両親は離婚し母親は飲み屋をしており異母兄弟が何人もいるという。育ちが悪いから断固反対と言い放つ由美子に対して珠緒は医大に入って翔との結婚を認めさせてみせると宣言する・・・
この由美子の気持ちはよくわかる。自分が同じ立場にたたされたならきっと由美子のようになだめすかし泣き落し懇願しとあらゆる修羅場を演じるだろう。この息子の翔はやりたいことも目的もない。お金だって暮らしていけるだけあればいい。その日その日を暮らしていければいいのだ。すなわち将来の自分を想い描けないでいる。そんな翔に対して珠緒は現実的だ。結婚するということは将来の生活設計を共に描いていくということを理解している。そのうえ手結婚というものが個人の結びつきだけではなく家族がの繋がりも大事だということもちゃんと判っていて二人だけで婚姻届だしちゃおうという翔にたいしてみんなに祝福されたいからと必死にもう死に物狂いに頑張るのだ。こんな娘もったら親としては誇らしいと思う。物語が進むにつれて不器量と描かれているがだんだん綺麗に輝いて見えてくる。
対照的に翔の姉の可奈はもっと上琉の暮らしを望み金と力を持つ伴侶を求め婚活に励む。そしてその結果得たものは・・・
由美子と歳も立場も近い私としては由美子の姿に共感を覚えるとともにその滑稽さは自分が陥る姿かもしれないとも思う。何だかとても身につまされた。もし自分の息子が翔と同じ道を選んだら私はそれを認めてやれるだろうか?
育ちのよさとは学歴やお金のあるなしではなく人としての品性をもっているか否かということではないだろうか。そんなことを考えさせられた作品だ。