紙の本
修飾語に頼らず読ませる筆致
2003/03/17 00:56
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投稿者:ナガタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
つもったわだかまりをかかえ、断絶してきた父と息子の物語。そろそろ二人の関係をなんとかしたいと思いながらも放置し、互いに年をとってしまった。母に圧されて、息子は不承不承も一通の手紙を書こうとする。しかし、書けない。
理屈ならいくらでも書ける。でもこじれた父子の感情が、理屈を繰りのべたとこ
ろでほどけはしないことなど、重々分かっている。だから父の感情に訴えかける
ような手紙を書きかけてみた。しかしすぐ止めた。
「相手を動かそうと云う不純な気持ちが醜く眼についてとても続けられない」
手紙を書こうとして、書く事の目的、己の意図とまざまざと向かい合った時、このような気持ちになったことのない人がいるだろうか。
結局、主人公は父に本気で謝る気もなかったのに、いざ父を向かい合うと、つい、言葉が1人で走り出すかのように深謝してしまうのだ。
全体が、実に飾らない言葉で綴られている。
謝ってから、父が孫の顔をみに、息子の家を訪ねてきた。3時の電車で帰る父を駅
で見送る場面が圧巻だった。
「笛がなると、皆は「さよなら」と云った。自分は帽子を手にかけて此方を見てい
る父の眼をみながらお辞儀をした。父は、「ああ」と云って少し首を下げたが、そ
れだけでは自分は何だか足りなかった。
自分は顰め面とも泣き面ともつかぬ妙な表情をしながら尚父の眼を見た。すると父
の眼にはある感情が現れた。それが自分の求めているものだった。意識せず求めて
いたものだった。自分は心と心のふれあう快感と亢奮とで益々顰め面とも泣き面と
もつかぬ顔をした−−」
目を見て相手の感情を推し量り、物足りないからさらにじっと見つめたときに、よ
うやく、納得のいく思いに至って感極まった内面世界が、直裁的な言葉だからこそ
強く伝わってくる。
小説家の文体も時代を背負っているといってしまえばそれまでだけれど、私は、音
楽や映像よりも、言葉は時代を突き抜けてもちうる個性を築きやすいと思っている。
現在の日本語は、比喩全盛だ。でも修飾せずに描写するこの大家の文章には、今の小説にない迫力が漲っている。このような文体のバックラッシュがいずれくるのだろうと思わずにいられない。
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投稿者:けんじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
父子の「和解」の場面では、思わず涙が止まらない。
昔ながらの日本の家族が描かれた逸品。
紙の本
何が原因かは知りませんが
2019/01/30 12:00
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
父と息子のあまりにも有名な不仲の物語、父と息子というものは自分に置き換えてもあまり仲睦まじい関係ではなかったし、そういった関係の親子というものもあまり知らない。この二人がどういういきさつで仲がここまで悪くなったかということは本文中にはあまりでてこないが、息子の結婚相手というのも不仲の原因の一つであったようだ。最後は「出入り禁止」の処罰がとかれてタイトル通り和解するわけだが、今のように核家族化が進み、実家という概念が希薄になってくると「おやじはうざいから当分帰ってない、お袋にはたまに携帯で連絡とるけど」というのがあたるまえになり、むりして「和解」しようとは誰も思わなくなってきている
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これもまた買ってからまったく読んでいなかったのでネパールに持っていく。こんなに薄いのに、一回読む気がなくすととことん読み忘れる。いいじゃないか、この本。父と主人公が和解した瞬間はふと涙が浮かんだ。人間同士のわだかまりなど案外値は単純なもので、本当はお互いの気持ち次第なんだな。
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研究室系。
志賀直哉をはじめて読んだ気が… 長さが調度良く、展開にどきどき。「仲直りできればいいなあ」って。
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主人公とその家族の話である。
タイトルから察することが出来るように、ハッピーエンドの話である。読みやすい。
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志賀直哉の懸案事項がクリアされた時を書いた作品。良かったねー志賀さん、となる。今の様な父子関係だとあまりピンとこないかもしれない。
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長さといい、内容といい、『暗夜行路』より良くできた小説だと思う。
父との和解の場面は、その光景が眼前にありありと浮かぶようだった。
あれだけの少ない描写とわずかな会話で、それができるのだから、凄い筆力だと思う。
和解から最後に至る場面はただただ美しく、泣ける。
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作品そのものよりも、先生の読みが面白かったという印象が強い。あの頃は毎週先生の授業楽しみにしてたなぁ。
今いるゼミに移籍するきっかけとなった一冊。
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父との不和の解消を描いた作品で、小説の神様と呼ばれる著者の作品であるから読んでみた。
はっきり云って面白くなかった。父との和解に至る心境の変化などが細かく描かれているのかと思ったが、そうではなかったのがとても残念であった。父と憎み合うようになってから、父と和解しようと思った動機やきっかけは漠然としたものしか描かれておらず、時間が解決したという感じがした。また、小説の神様と呼ばれるだけあって、作文のお手本にしたいような、スタンダードな筆致ではあるが、逆に個性がなさ過ぎて面白くないと思った。やはり、小説の文章にはある程度の個性が必要で、毒を感じるほどの強烈な個性があった方がよいと改めて感じた。太宰治が、半ば八つ当たり的であるが、志賀直哉の作品の批評で「加不足ない表現」などと云われているのを、表現に多すぎることも少なすぎると云うことも本来は無いのだと云うことを述べているのを何かで見たが、その通りだと思った。
志賀直哉は日本文学の中でも代表的な人物なので読んでみたが、今回の作品を読んで、ほかの作品も読もうと云う気にはなれなかった。ただ、以前読んだ『城の崎にて』は良かった。
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赤子が死ぬ場面では、自分でも驚くくらい、食い入るように読み耽った。
父と子の和解については、それに至るまでの主人公の心の描写が特別あるわけではない。二人の子供の死と誕生が関わったのだろうということ以上、はっきり言えるようなことは無かった。よく読めばあるのかもしれないが、一読する限りよく分からなかった。
家族の仕組みが昔と今では随分変わった、という。変わったならば、父子の間に起こる葛藤のかたちも、多少なりとも変化するだろう。それでも、この小説は現在(あるいは未来)の人々の心に強く響くのだろうか。
私の心に響かなかったのは単に自分が精神的に幼いせいなのかどうなのか・・・ここブクログでの評価があまり高くないのでちょっと気になった。
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いやはや面白い。
あらすじを読むように出来事を追うような読み方をしてしまうと、ボンボンの気まぐれな日常を描いているように思えるかもしれないが、その場面場面の感情の揺れを読み取っていくと、決してつまらないものではなく、むしろ最初のページから最後の和解に向けて疾走していくような、スピード感溢れる作品だということがわかると思う。
何気なく登場する電車や自転車、車といった乗り物の違いなども興味深い。なぜある日は電車で移動したのが、別の日には自転車なのか? 自動車なのか? クールな文章とは裏腹に、ここに熱い感情が込められているように思える。
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ぼそぼそテンション低くたらたらと、なんだか勝手な男の勝手な話な感じもするが、和解に向けてのある種の疾走感がすごい。
おもしろいかと言えば退屈な気もするが、ラストは胸をうつものがあった。
間違いなくよかったと言える。
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自身の体験をもとに描かれた私小説であり、志賀はこの作品の執筆の翌年に父親と「和解」していることを照らし合わせても、なんとなく個人のために書かれた趣がある。
それでも赤ちゃんが亡くなる場面の疾走感などはぐいぐいと引き込ませる。さすがだ。
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この作品は日本語を削りに削って研ぎ澄ませ、無駄な表現が一切ないように思える。タイトルの通り、父親との和解の場面が、自分の父親との関係も考え非常に目頭が熱くなったのを覚えている。