紙の本
吉田篤弘氏の伯母が遺したLPのキズで、音がとんだ瞬間に懐かしい記憶がよみがえるという、そんな7つの物語集です!
2020/09/14 09:35
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『フィンガーボウルの話のつづき』、『つむじ風食堂の夜』、『百鼠』、『78 ナナハチ』などの作品で知られる吉田篤弘氏の作品です。同書は、伯母が遺したLPの小さなキズをテーマに紡がれた7つの物語集です。レコードを聴いている時、針がとぶ一瞬の空白に、いつか、どこかで出会ったなつかしい人の記憶が降りてくるそうです。遠い半島の雑貨屋、小さなホテルのクローク係、釣りの好きな女占い師などなどですが、そうした記憶がひそやかに響き合うストーリーが収録されています。
紙の本
物と人と記憶をゆるやかに結びつける連作短編集
2017/11/17 18:20
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
異国情緒が漂う7つの短篇がゆるやかに結びついた一冊。
もちろんすべての物語を味わって、ゆるやかな結びつきを味わうのも面白いし、それぞれの物語も独立した物語として十分面白かったです。
特に最初の表題作「針がとぶ」は物と人と記憶を結びつけ、静かな余韻の残るとても好きな作品でした。
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短篇集。解説が小川洋子だった。
各作品はラストで緩やかに繋がっている。
解説に書かれた『長い旅から帰ったような気持ち』は何となく解るような気がする。
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吉田篤弘らしさに浸れた一冊。
ばらばらな物語を、何かがつなぐ。
深い森の中で堂々巡りをしているような気持ちになるのに、不安は感じない。少しずつ眠りに落ちてゆくような、ぼんやりした空気に包まれてしまう。はっと目覚めると、別の世界の扉が開いていて、私はもうその世界の中にいる。
ストーリーに触れても無意味だし、彼が言葉の綾に「そこには既にないもの」の気配を織りこんでゆく魔術を楽しめる人が楽しんでくれればいいのだと思う。この本は読み返すなあ。
グッド・バイ。
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7つの短編。私は「金曜日の本」の、クロークに忘れられた外套のおはなしが一番すき。時々チラリと他の作品と繋がるのが楽しい。
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毎回吉田篤弘さんはいい題名をつけるなぁと思う。装丁も今回は私の好きなミヒャエル・ゾーヴァを選んでいて、読む前からお気に入りの一冊になりそうな予感がしていた。
それはそうとしても、この本は短編のひとつひとつが少しずつ響きあってとても心地よい。装丁に居るアヒルが火にあたっているように、まさに暖炉と暗がりのある部屋でお話を聞いたような読み味。
ただ、吉田篤弘さんの他の本とも響き合っている箇所やキーワードがちらほらみられて、そこに気づくことが本当の魅力を理解するためには必要かも知れない。吉田さんの本はそうするとさらに読書が楽しくなる。
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ちょっとずつ登場人物がリンクした短編集。
久しぶりに修行僧の気分の読書。
3話目から世界に入り込めなかった。
どういう心境で読めばいいのかわからない。
感覚的な小説も好きだが、これは現在の私のメンタリティの問題かまったくフィットせず。
私は功利的な人間だから、どうしても意味を求めてしまうのかもしれない。
レビューでの評価の高さと私の読後感のギャップに世界が揺らぐ。
http://www.horizon-t.net/?p=790
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読み終わって不思議な感覚になる一冊。
どこかでつながる7つの物語をもっと見ていたい、そんな気持ちになりました。
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つなげたのではなく、つながってしまったような。もしくは、じつはどこがでつながっているのがあたりまえのような。そんな、おはなし。
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ひっそりとリンクした7つの短編集。
どれもしっとりしていて、寝る前に読むと静かな気持ちになれてよいです。
不思議な舞台と独特なひっそり感が小川洋子さんの作品の雰囲気を思い出します。
柚利子叔母さんの「グッドバイ」、親父さんの「マスト・ビー」がなんかいいです。私も使おう(笑)「針が飛ぶ」「パスパルトゥ」の読後の余韻がなんとも言えず静かで神秘的でした。
心に書きとめておきたい言葉がいくつかあり、心が疲れた時に読み返したくなる作品でした。
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完璧な外国臭でちょっと苦手だったけど、色んな話が絡み合って行くのはやっぱり好き。おばさんの話はなんだかよかったー。グットバイ
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リラックスしたい。
あまり頭を使いたくない。
でも読みたい!、時におススメの本です。
短編集のようでありながら、
それぞれの物語りが僅かに絡み合っているので、
あまり間をおかずに、最後まで読み終えましょう。
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「小さな男・静かな声」が寝る前に読む本として最高だったので、「短編ならまた同じく楽しめるかな」と思い購入。でも、これまで読んだ吉田篤弘の、ファンタジーのような、外国の話のような、不思議な雰囲気を持った作品とは、ちょっと違っていて、自分としては残念だった。
異国の雰囲気は健在(というか舞台は海外とはっきりわかる作品もあるが)だが、これまで作者に対して自分が持っていた、小さなペン画をじっと見つめるような感覚はなくて、今回は美しい写真集をパラパラとめくるような感じで終わってしまった。
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経験はないが、
<催眠術>にかけられた人の意識って、
こんな感じなのかな…
なんて、本を閉じた後
しばらくぼ~んやり。
機械的にコーヒーを飲んではいたようだが、
確認してみると
いつの間にかカップは空っぽ。
(なんだ。)
と、乾いた喉に不快を感じつつ、テーブルに視線を戻すと
(散らばっていたはずのパンくずが無い。)
なんて、
頭がホント!
いや、
心がどっかに
いっちゃってたとしか思えない。
読んでいた、
のではなく
彷徨っていた、らしいので、
ストーリーの記憶を辿る事ができない。
巻末の小川洋子さんの解説を読み、
(あ~…、やっぱり小説だったのか。)
なんて、込み上げてきたありえない思いに、
愕然としてしまったが、
バラバラでふわふわな旅の記憶を
丁寧な針捌きで、ちくちく縫い合わせ、見事なタペストリーに仕上げて頂いた様な、(あとがき)にも
また見惚れてしまった。
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わたしは大学を休み、毎日、昨日と違うサンドイッチをつくり、水筒に好きな飲み物を入れ、新しく買ったばかりの水色の自転車に乗って伯母の家へと通った。毎日、ピクニックへ出かけるようにして家を出た。十月の晴天が続いていて、ときには自転車をこぎながら、好きな歌を歌ってみたりもした。
ただ昼を待ち、そうして近くの小学校から聞こえる正午のチャイムを耳にすると、ラップにくるんできたサンドイッチをかじるようにして食べた。水筒の中の少し甘くした紅茶を飲み、すっかり食べ終えてしまうと、それきりもう何もすることがなかった。本当はしなければならないことがたくさんあったのだが。
わたしはただ、かつてと同じように伯母の本棚を物色し、面白そうな本の頁を開いて午後を過ごした。手元に夕闇がたちこめてくるまで。
人生のことなんて、きれいさっぱり忘れてしまいたい。今日は金曜日。仕事から帰ったら、さっさと部屋を片づけ、たまっていた洗濯を済ませる。そして、ゆっくりソファーに埋まりこむようにして本を愉しむ。いつもそうだが、できるだけ、私のこのちっぽけな人生と似ていない物語がいい。
小脇に本を抱えた瞬間、大いに口元がゆるむ。一週間の中の最良の一瞬だ。買ったばかりの本が、ぱりっとした青い包装紙にくるまれ、それを手にして街を歩く幸福。じつに安上がりな。空は晴れているし。
ただ、意外ではあるにしても、人に変化が兆すときは、きっと人に動かされてそうなっている。私を動かした人物はあきらかだったので、それからは、注意深く彼の言動に耳を傾けるようになった。
月 日
ユイが読んでいる本が気になって仕方ない。「何を読んでいるの?」「お菓子とビール」「面白い?」「面白い。タイトルが」「いま、どのあたり?」「まだ最初のところ」
少ししてーー。
「いま、どのあたり?」「まだ、さっきから二頁しか進んでないわ」
どうして、人の読んでいる本は面白そうなのか?
月 日
乗客の少ない午後一時の電車の中。
たまたま前に座った初老の女性。
彼女はすべてを持って歩いていた。鞄はふたつ。その中に彼女の「すべて」がつまってあるのだ(という私の推測)。彼女はその鞄の中からまず朝刊を取り出す。それから林檎。豪快にかじっている。それから、辞書を出してきて調べもの。新聞に気になる言葉があったのだ。もちろん虫眼鏡も出てくる。ここまではまだ序の口。
その次に彼女が取り出したのは洗濯ばさみのついた細いロープ。それを吊り皮みっつに通し、さらに取り出された湿ったハンカチ二枚を見事に干してみせた。ぱんぱんと手でひとつふたつ叩き、それから眼鏡と編みかけの毛糸玉を出して優雅に何かを編みはじめた。その間にもせんべいを食べたり、ラジオを出してきてイヤホンを耳にさし、編み物を中断して葉書を書いたり。
なんだか、うらやましいかぎり。
月 日
「箱��と書いてもいいが、ここはひとつ「函」と書きたい。この「函」というもの、いつでも未来とつながっている。というより、「函」に何かを収めるのは、未来につながるための作業で、「函」に何かをしまいこむだけで、未来に向けて小包みをひとつ作ったことになる。つまり、誰もがそれと意識することなく、「函」を前にして未来を感じとっている。これは、そのままベクトルをさかさまにすれば、「函はいつでも過去から何かを届けてくれる」ことになる。
月 日
蓮根を買った。輪切りにし、少量のオリーブ・オイルのみでさっと焼く。あら塩を振っていただく。このごろ、これ以上おいしいものはないと思う。詩など書いて何になるか。
月 日
本棚から取り出してきて、あるいは書店から買って帰ってきて、「さて読もう」と頁を開き、数行だけ読んでパタリと閉じる。
それが春や夏のことであれば、そのままその本は冬まで寝かされることになる。
そうして本棚の一角に「冬に読む本」が少しずつ増えてゆく。
(旅行者の話)
またウインクと煙草のけむりを残し、料理人ーにしておそらくは店主ーの男は足早に厨房に消えていった。
わたしはこういうときの常で、リュックからノートとカメラを取り出し、昨日の夕方から今朝にかけて見たこと考えたことを思い出せる限り書き記した。
霧の中を歩いたことはこれまでにも何度かあった。もっと濃い、ミルクのような中に立ち往生したこともある。それに比べれば何ほどのものでもなかった。冒険は可能な限りしてみるものだ。経験がきっと前進につながるから。
*・*・*・*・*・
これはすごい。
なんて表現していいのか、わからない。
小さなお話が、ちょっとずつ繋がってて。
ファンタジー?ミステリ?そんなくくりでくくれない。ひとつひとつが、とてつもなくステキ。
とても、好きな本だ。また読み返したい。