紙の本
アメリカの白人貧困層を知る
2017/05/12 21:13
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Takeshita - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書はアメリカでベストセラーになっていると言う。著者はまだ33歳だが、波瀾万丈の少年時代、家庭環境を経て、イェール大学ロースクールを卒業して成功した。その著者の自伝であり、出身階級であるヒルビリー(田舎者)という白人貧困労働者の社会をよく描いている。トランプが大統領になったのも白人労働者層の支持のためだと言われているが、その実際の情報に触れられる大変有益な本である。それにしても著者は書きにくい自分史をよく書いた。その努力と誠実さに心から拍手を送りたい。萬人の胸に響く快著である。
電子書籍
ロールモデル
2018/03/03 16:02
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中性脂肪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
どん底から抜け出せない状態が代々サイクルする環境。
どこの国、地域にも同様の問題は存在する。
著者が触れているようにどん底から抜け出すには、身近にロールモデルとなる人物がいるかいないかが大いに影響すると思う。
若手白人ラッパーのNFはミシガン州出身。著者と似たような環境で育ったようだ。
この本を読んでから「Let You Down」ミュージックビデオを見ると少し感情移入できる。
追記
エミネムもスコットランド移民の子孫でミシガンなどで育ったようだ。著者のような環境で育っている。
紙の本
ヒルビリーの
2017/09/11 14:13
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
イメージは笑える系だと山出し田舎者、怖い系は映画「脱出」の現地住人とのこと(これは怖い)。 親世代は大工場城下町の労働者としてそこそこの生活をして、子供は更に上を目指すはずだったのに、その工場が(日本等の外資の侵略で)撤退し、寂れきった町の残骸(ラストベルト)で暮らしている。出て行こうにも、値下がりした不動産が足枷となって動けない。「世界一偉大な国」アメリカの国民、しかも白人であるプライドと現状の矛盾にぐちゃぐちゃになっている。
紙の本
ああ、田舎者の哀歌
2021/01/04 11:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:2502 - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体を通じて陰鬱(depressing)ながらも、非常に読み応えのある本でした。著者が「はじめに」で書いている通り、「上院議員でもなければ、州知事でも、政府機関の元長官でもない」アメリカの「市井の人」の半生を、その本人が出来る限り忠実・真摯に書き記すことで、日ごろ私たちが触れることの出来ないアメリカの「ヒルビリー(田舎者)」と呼ばれる人たちの実態を描き出した本書は、まさに巻末の解説で渡辺由佳里氏が書いている通り「50年後のアメリカ人たちが2016年のアメリカを振り返るとき、本書は必ず参考文献として残っていることだろう。」
紙の本
どん底から立ち上がる
2020/05/22 22:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
無力感が漂う貧困層から成功を掴んだ、著者の言葉には説得力があります。トランプ大統領誕生の陰にある、負のスパイラルについても考えさせられました。
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★米国の分断のノンフィクション★「田舎者の哀歌」という題名が強烈。白人だから豊かで恵まれているわけではないとイメージはできたが、母親の相手が次々と変わっていく本人の生い立ちから、現実の困難さがはっきりと浮かび上がる。
白人労働者階級の荒れた生活とあきらめ、やる気の喪失。政府が悪いといって働かず、そういう思いが集団に蔓延する。社会制度全体に対する不信感は、置いていかれた白人だからこそ大きいのか。
オバマ大統領のことが嫌いなのは黒人だからではなく、自らとは完全に縁が切れたアメリカの能力社会の成功者だから、という。自分たちとは接点がまったくなく、オバマが苦労した過去は知らないので、共感のしようがないらしい。
繁栄に取り残された白人労働者の怒りは理解できたが、それを正反対の立場にあるトランプ氏が掬い取れたことに改めて驚く。極めて優れたマーケティング能力であり、テレビで磨いたタレント性なのだろう。
この本を2016/6、トランプ氏が大統領選に勝利する5か月前に出したのは編集者のセンスが素晴らしい。
黒人アメフト選手の成功物語である「ブラインドサイド」を読んだ時も思ったが、能力はあっても発揮する環境に至らないことが米国ではいかに多いことか。
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トランプ推し界隈ってなんなん?が少しだけみえたかも。(余談。婆、母が強烈すぎて「赤朽葉家の伝説」を思い出す。ファミリーヒストリー、強い女性陣てとこしか共通点はないのに!)
自分の怠け心には目をそらし、チャンスに恵まれないのは人が多いから、他の人種が邪魔するから、という発想。それが支持の理由だとしたら。貧困が伝統、という皮肉。
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2016年のトランプ大統領誕生の原動力ともなったラスト・ベルトの白人労働者階級の不満。著者はケンタッキー州の住民の1/3が貧困家庭である白人労働者階級に生を受け、まさしくその層に属していた。生まれた町は製鉄会社アームコの企業城下町として栄えたが、企業の撤退とともに衰退していった典型的なラスト・ベルトの街である。「ヒルビリー」とはそういった街に住む、特にスコッツ=アイリッシュの血を引く「田舎者」を指す言葉だ。
著者の母親は高校卒業と同時に子供(著者の姉)を孕んだため、大学には進学しなかった。その父親ともすぐに別れて、著者と姉は異父弟になる。また、著者の実父とも離婚し、そこから次々と父親が変わっている。母親は酒とクスリに溺れ、喧嘩が絶えない。それはその町では「典型的」な家庭であったという。
著者は、細い糸を辿るようにして従軍後に進学し、イェール大学のロースクールを卒業し、成功者となった。そこには並々ならぬ努力があった。その階級に最初から属してはいなかったからこそ、見えてくることもある。著者を成功に導いた努力を、ヒルビリーの人々は最初から奪われているのだ。
本書は米国ではトランプが下馬評を覆して勝った大統領選の前に出版されている。その選挙結果を左右した社会構造を伝えているとしてベストセラーになった。
この物語はアメリカ中西部の話ではあるが、日本でも同じようなことが起こりつつあるのではないだろうか。違う国の問題であると考えるべきではないだろう。著者の成功は救いではあるが、救いようのない現実があることもまた確かだ。著者は、問題は政治ではなく家庭にこそあるという。そこに政治が寄与することはできるだろうが、金銭的補助だけでは足りない。少しもの悲しい現実がそこにはある。
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自分を取り巻く家族、友人、親戚、などごく親しい人間、生活環境から受ける心理的影響は、計り知れない。
幼ければ幼いほど。
自分の未来や能力の可能性に自ら限界を定めてしまう無意識な習慣。
これらが、地域全体に浸透してしまっているエリアがいくつも存在するアメリカ。
屈折した敗北感、責任転嫁、を無意識のうちに内に抱えざるを得なかった人々の物語。
崖っぷちにいる著者をどこまでも温かく愛し救った祖父祖母の存在が救いを与えてくれる。
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ヒルビリー(田舎者)やレッドネック(首筋が赤く日焼けした労働者)とよばれる白人貧困層について。
自身がその出自である著者(イエールのロースクールを出て最終的に脱出した)の半生記のような内容。
アメリカ社会ではかねてより家を持つことが奨励されてきたが、郊外地域の場合、いったん地元の経済状況が悪化してしまうと住宅価格が下がってしまい、家を売るに売れなくなってしまう。移動できる余裕のある人は転出してしまい、仕事もなく最貧困層に落ちた人々ばかりがその地域に閉じ込められてしまうことになってしまう。子どもに教育を与えようという意欲やよいロールモデルも存在しないため、この環境に生まれてしまうとなかなか抜け出せない。
著者は、努力はしないが家族や地域の誇りを堅持したい、というヒルビリーの姿勢自体に大きな問題があるとしており、政府や他人を恨むのはお門違いだと言う。仕事が少しきついと辞めてしまったり、教育に価値を見出さないという体質こそが問題なのだという。じゃあどうすればよいかは「分からない」と言うのだけれど、トランプ大統領がなぜ生まれたかの背景として読むと面白い。
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父の本。これは久々に面白かった、とか言って薦められたので読んでみました。何故今回の大統領選でトランプが勝ったのかがわかる、と帯にありましたがナルホドと思いました。
読んでいてちょっと疲れるのは大家族にありがちな複雑な人間関係を覚えるのが大変なのと大体皆似たような名前なのでこの人は誰だった?と思いだすのが大変でした。思い出、とあるように今の現状が語られたり過去の出来事が語られたりで行ったり来たりするのでちょっと戸惑うというか。田舎の親族の話を聞いてて「うん、その○×伯母さんって誰の子供でどういう繋がりだったっけ?」と口を挟みたくなる感じを思いだしました。
ウェルフェア・クイーンという言葉も初めて知りました。そう言えば姉の友人の元奥さん(イギリス人)は生活保護を受けながら世界旅行を楽しんでいるとか言ってたっけ。手当や保護があるのは大事なことですが… 日本だとまずないわ~ってなるだろうなぁ…
低所得者の家族にはお手本とするべきロールモデルが無いから成功できる人が少ない、というのはなんだかすごく納得しました。未来のビジョンが無いと頑張ろうとか努力すれば…なんて言葉、意味がないんだろうな。何を具体的に頑張ればいいのか、努力したらいいのかがわからない状態の子供たちにそんな安易な言葉を投げても途方に暮れてしまうだけだろうし。
そしてやはり子供の教育には家庭生活が一番影響を及ぼすという当たり前のようなことを再確認した気がします。
これをいやあアメリカだから、多民族国家だから…なんて対岸の火事には思えないですね。今の日本も高学歴でも職が見つからない、もしくは職に就いても辞めてしまうなんて話もよく聞くし、さらに言えば高校も卒業できずに引きこもったりしている人も増えているというし。そして外国人労働者や他国の文化を理解しようともせず非難する。まるで自分の境遇が悪いのはその人達の所為だとでも言うように。今のヘイトスピーチとか、アジア諸国を低く見るような発言をする人達の考えの根底にはこの本にあるヒルビリー達と共通する考え方があるように思えます。他者への批判は厳しいけれどもその批判を自分に向けようとしない。都合が悪い事は政府と社会の所為だと言い張り、その割には投票にも行かない。
この負の連鎖はどうすれば止めることが出来るんだろうか。
色々と考えさせられました。
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ケンタッキー州のアパラチア山脈東部地域の住民は自らをヒリビリーと呼ぶ。著者の祖母夫婦はオハイオ州へ職を得て移住。そこは現在ではラストベルトと呼べれ、白人労働者が明るい未来を描けない地帯となっていた。
本書は祖母や母のヒルビリーとしての荒々しい気性とラストベルトの希望の持てない環境で揺れる筆者のティーンエイジまでの様子を主に描き、最後にそこからどのように抜け出して成功を収めたかを加えている。面白いのはその最後の部分。コネクション、成功者たちのルールの部分。
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著者は、どちらかと言えば酷い家庭環境にも負けずに努力した結果、アメリカで最も厭世的な社会集団である白人労働者階層に陥ることはなかった。著者の母親の自堕落さ、周りの人たちの粗暴さには唖然とする。社会の底辺に暮らす者は余程の幸運か自分自身で努力を続けない限り、生涯そこから抜けきれないのだろう。
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無名の31歳の弁護士が綴った自叙伝がアメリカで大きな反響を
呼んだのは2016年。イェール大学ロースクール出身の白人男性。
成功者であるとも言えるだろう。しかし、彼の出身はトランプ
大統領の強固な支持層とされる白人労働者階級だ。自身の家族
史を詳らかにし、育った環境を包み隠さず綴っている。
アメリカの生まれの白人でも、黒人や南米からの移民と同じように
苦境の中に生活する人たちがいる。
アメリカの製造業が繁栄を謳歌した時代、安定した雇用を求めて南部
から北部へ移住した白人は多くいた。誰もがアメリカン・ドリームを
求めて、その夢を果たせた時代もあった。
だが、繁栄は永遠ではない。製造業はより人件費の安い海外に転出
し、労働者は置き去りにされる。引っ越し費用にさえ事欠く人たちは、
その場所で生きて行くしか選択肢がない。
罵詈雑言と暴力が、普段の生活のすぐ隣にあるだけではなく、家族
への愛を口にしながらも家族間では絶え間のない軋轢が起きる。
著者が育って来た環境には驚くばかりだ。生まれた時、母は既に
実父と別離しただけではなく、次々と父親候補を連れて来る。その
母に殺されかけたことさえある。そして、母は看護師の資格を持ち
ながらも薬物依存に陥る。
映画のストーリーかと思うような現実が、世界唯一の強大国アメリカ
の片隅に、確実に存在しているのだ。
しかし、著者には逃げ道があった。母親代わりに著者を守ってくれた
5歳年上の姉の存在と、母方の祖父母だ。祖父母も強烈な個性の持ち主
であるのだが、この3人が身近にいたことと、高校卒業後の海兵隊への
入隊が貧困の系譜を断ち切ることとなった。
「おまえはなんだってできるんだ。ついてないって思い込んで諦めて
るクソどもみたいになるんじゃないよ」
祖母はくり返し著者に言ったと言う。生まれ育った環境を、自分では
どうすることも出来ないと思い込み、多くの可能性を封じ込めていや
しないかと思う。
それは本書に描かれている白人労働者階級だけではないだろう。私自身
もそうだし、日本での貧困層もそうかもしれない。一方で、自分の力だけ
でどうにかするにはやはり限界はあるのだろうとも感じる。
アメリカン・ドリームが本当に夢になってしまったアメリカ。それは
近い将来、日本でも確実に起きるはずだ。いや、既に起きているのか
もしれない。
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日本から見える米国は、白人、黒人、アジア人、ヒスパニックといった人種、民族の切り口で語られることが多い。その際、白人は強者、支配者としてイメージされる。しかし、白人の分断は深刻に進んでおり、「繁栄から取り残された白人」が大きな社会問題になっていることがわかる。著者はその厳しい環境から運と努力で、イェールのロースクールを出るまでに上昇する。家族の問題を赤裸々に描写することにより、ヒルビリーの苦悩がリアルに感じられる。また、海兵隊の経験が著者に大きな力を与えたことに感銘を覚える。もっと早く、トランプ氏が大統領在任中に読むべきだった。